公安調査庁が世界のテロ組織の情勢をまとめた年報「国際テロリズム要覧」の最新版で、テロ組織のリストからトルコの非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」などが除外され、トルコ国内で反発が広がっている。他にもイスラエルとの戦闘が続くイスラム原理主義組織「ハマス」も削除されていた。トルコでは各メディアが非難し国会でも取り上げられるなど、国際問題化しつつある。
外務省は否定
トルコメディアでは、さらに今月1日、中東ドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)首脳会合で岸田文雄首相と会談したトルコのエルドアン大統領が、この問題で不快感を表明したと報道した。
日本の外務省は産経新聞の取材に「エルドアン氏から抗議や申し入れはなかった」と回答した。
PKKをめぐっては、トルコ政府が埼玉県川口市の在日クルド人団体「日本クルド文化協会」と代表者らについて「テロ組織支援者」に認定、トルコ国内の資産凍結決定を受けたことが明らかになったばかり。
「スキャンダラスな決定」
要覧は、公安庁が平成5(1993)年から発行。昨年の2022年版までは「主な国際テロ組織等の概要及び最近の動向」の項目に、クルド人国家の分離独立を求めるPKKや、レバノンの親イラン民兵組織「ヒズボラ」が掲載されていた。
ところが、2023年版では両組織が項目から削除されていたほか、「世界の国際テロ組織等」の項目ではパレスチナ自治区ガザでイスラエルとの戦闘が続く「ハマス」なども削除されていた。
11月24日に要覧がインターネット上で公開されると、削除に対する疑義が浮上。トルコメディアは「日本のスキャンダラスな決定」「PKKをテロ組織のリストから削除した」(ハベルバクティ紙)、「日本は驚くべき決断を下した」(トゥルキエ紙)などと一斉に報じた。
さらにトルコ国会では、議員から「40年以上にわたり3万人以上の同胞を殺害してきたテロ組織」「日本当局の誤った決定を非難する」などと反発の声が上がった。
PKK、ハマス、ヒズボラについては米国、英国、欧州連合(EU)がいずれもテロ組織に指定している一方、国連はいずれも指定していない。
「お答えできない」
公安庁によると、これまでは海外のシンクタンクの報告書などをもとに掲載していたが、掲載基準について問い合わせなどがあったため、今年から国連安保理制裁委員会による「制裁決議の対象組織・関係団体」に準拠したものを記載。結果として、前年版に比べて掲載組織が少なくなったという。誰から問い合わせがあったかについては、「一概にはお答えできない」としている。
一方、イスラム系組織「アルカーイダ」や「イスラム国」(IS)などは国連が指定しているため削除されなかった。
また現在、サイトの当該ページが一部で削除、閲覧停止となっており、公安庁は「ハマスやPKKなどに対する日本政府の立場について一部誤解を招いたための措置だ。現在さまざまな問い合わせがあり、対応を検討中」としている。
いったん公開された政府の公式年報が削除、閲覧停止されるのは極めて異例。
【クルド労働者党(PKK)】 トルコの少数民族クルド人の非合法武装組織。「国際テロリズム要覧」2022年版によると、「クルド人国家の樹立」を掲げて1984年に武装闘争を開始、90年以降、国内各地でテロを引き起こしてきた。今年10月にも首都アンカラの内務省前で自爆テロを起こし、警察官2人が負傷した。