絶対アイドル辞めないで やめて
「絶対アイドル辞めないで」やめて。お願いします。
タイムラインに「絶対アイドル辞めないで」というイコラブの新曲が出てきた時、本当に失神するかと思った。最悪だなと思った。MVみて、可愛いなと思った。そして、その後のタイムラインを見て、もう終わりだと思った。あの曲を聴いてからずっと「絶対アイドル辞めないで」について考えている。そして毎回激怒している。
「絶対アイドル辞めないで」やめて。もし、これが“アイドルオタクの総意”だとするなら、わたしはアイドルオタクじゃなくていいです。
ちょうど1年前くらいに私が好きなアイドルの事務所の先輩のスーパースターが事務所を辞めて、違う事務所からデビューした。めちゃくちゃ怒ってる人がたくさんいたし、怒ってる人に怒ってる人もたくさんいた。1年が経つ今でもめちゃくちゃ怒ってる人がたくさんいる。私は彼についてはあんまり詳しく知らないので彼自身に対して何か思うことは無い、っていうか彼がアイドルを辞めたかったのか、今やってることはアイドルじゃないのかはよく知らないけど、一連の脱退加入劇を見てちょっとホッとした自分がいる。彼ほどのスーパースターだとしても、「辞めたい」と思ったら辞められるんだ。何本もCMを抱えて、信じられないくらいたくさんのファンがいて、ありえないくらいの金額が動くような彼でも辞められるなら、大体の人は辞めたくなったら辞められるんだろう。アイドルって、アイドルになったきっかけこそ家族が勝手に履歴書を送ったりスカウトされたりと、自分の意思とは無関係な場合があるけれど、「アイドルを辞める自由」はとりあえず保障されてるっぽい。よかった。アイドルって辞めていいんだ。
誤解されてるかもしれないけど、私も「絶対アイドル辞めないで」と思っている。いや、「絶対」とは思ってないかも。でも、「アイドル辞めないで」とは思ってる。でも、それと同時に、他人に「こうあってほしい」と思うことの罪悪感がずっとある。
自分の好みの髪型じゃない時のガッカリした気持ちや、思ってたのと違うような曲が新曲になった時のやるせなさ、言ってほしくないような発言を聞いた時の怒り。比率としては圧倒的に少数ではあるけど、そういう感情が自分にもあるからこそ、「私の理想の偶像」を血の通った人間に当てはめていることは、なんか、気持ち悪いなと思う。
だからせめて、アイドル自身が自分の意思でアイドルを選んでステージに立っていて欲しい。辞めたいなと思ったら辞められる環境があるのは、本人たちはアイドルという活動スタイルを“自分の意思で選んでる”っぽい感じがして、一時的に罪悪感が薄まる。いや、自分でアイドルを選んでるから何を言っても良いわけではないけど、でも少なくとも「アイドルやるの辛いな、でも辞められないな」と思ってる人に言うよりはだいぶマシだろう。本人が望むような活動ができるように私はアイドルとしての活動を応援するし、私もそれが楽しいから、需要と供給の一致ということで、まぁいいか。と一旦結論付けていた。わかんないけど、私の好きなアイドルは貧乏暮らしをしなくていいほどに給料もらってるっぽいし、なんか楽しそうにアイドルやってるみたいだし、辞めたくなったら辞めそうだし。私もお金払ってるし、本人を困らせないように楽しくアイドルを見ていてもいいか。そこに可愛い女の子が綺麗な衣装で「絶対ア〜イドル〜やめないで〜ず〜っと〜〜〜〜」と言うもんだから、困惑ですよ。やめてください。絶対、アイドル辞めないで、やめてください。
アイドルが自分の思い通りにならなかったら嫌になってしまう自分に嫌悪感があって、だから、似合わない髪型をやめて、ネットで炎上するかもしれないことを言わないで、下品なことしないでって言いたくないし思いたくない。でも思っちゃうから、だからせめてアイドル自身が自分の意思でアイドルを選んだものでいてほしい。そう思っていたのに、突然可愛い女の子が綺麗な曲調でアイドルを私物化してしまう私の感情を言語化して歌にしてきた。でも、それと同時に、「アイドルを辞めても良い」という逃げ道が塞がれた。違う。私は「ただのエゴとわかってても 君はキラキラの衣装が似合う」とエゴを肯定されたいんじゃなくて、「今、アイドルという仕事が楽しいです」と言われたいんだ。
完璧で究極のアイドルなんていないのに、1人の人間にそれを期待して、「この人は違った」と人々が去っていく様子をもう何度も見た。私は"プロアイドル"っぽいキャラの子にハマるタイプじゃないからアイドルへの期待はそこまで高くないな、と思っていたけど、それでも、アイドルが自分の理想と離れた事をする度にちょっとだけ悲しい自分がいるし、悲しんでる自分が気持ち悪いなと思う。たとえ私が24時間アイドルの事を考えていても、アイドルがファンに見せている部分なんて本当にごく一部だ。その一部しか知らないのに、全てを知った気になって勝手に偶像を作りあげて、違ったら勝手に落ち込むなんて事、私がアイドルだったら普通に嫌だなと思う。だから、せめてアイドルという仕事がすごく楽しいと思っていて欲しいし、心の底からアイドルという仕事を楽しむために"辞める"の選択肢があって欲しい。やっぱり、どれだけアイドル側が肯定してきたとしても、アイドルに対して「こうあってほしい」という自分の感情は肯定できない。だから、肯定しなくていいし、代わりに、辞めたいなと思ったらアイドルを辞めてほしい。
「星は街じゃ輝かないの」ってすごい歌詞だと思った。2番の歌詞で「星の幸せを願った」という部分を明らかに「“推し”の幸せを願った」と聞こえるように歌っていることから、“星”とは“推し”のことで、アイドルはステージを降りた場所(=街)では輝かないという意味だと解釈した。違ったらごめん。
街で輝く星もあるかもしれない。…………というのは綺麗事で、多くのファンはアイドルを辞めたら応援するのを辞めてしまう。きっと私もそうだ。「星は街じゃ輝かないの」はファンからしたらある意味、正しい。
だとしても。
だとしても、ほとんどのアイドルは死ぬまでアイドルではなくて、どこかのタイミングで引退したり卒業したりして“街”での生活をしている以上、今いるアイドルもほとんどは“街”での生活がこれから待っているのに、そこでは君は輝けないよなんて言えないですよ。輝けなくったって、アイドルを辞めた後もその子の生活は、人生は、続くんだから。アイドルというスタイルが人を熱狂させてお金も集まるからゴージャスな演出もできるのはある意味仕方ない部分はあるし、現にアイドルを卒業した後に思うような活動が難しい人も多いのは事実だけど、そうだとしてもこれから街生きていかなきゃいけない人にわざわざ「星は街じゃ輝かないの」なんて言う必要もないし、言いたくないし、言われてるところを見たくない。
この歌はただのエゴだとも書いてある。別の曲で「呪いは好きより強い」と言ってるのも分かる。でも、エゴだと分かってるから言いたくないし、愛しているから呪いたくない。アイドルが大好きで大切だから、アイドルを辞めたくなったら辞めて欲しい。これも私のエゴである。どんな歌が流行って、ファンが何を言ってもアイドルは辞める時は辞める。私一人の発言や思いがアイドルになにか影響を与えることはない。多分私がこの曲に怒っているのはアイドルを守るためではなく、私が私を守るためだ。アイドルを私物化する感情を否定したいし、たとえ応援できなくても、アイドルを終えたあとの彼・彼女らの人としての生活を肯定したいからだと思う。そうすることでやっと赤の他人であるアイドルの歌い方や踊り方やブログの書き方やメンバーとのトークを愛おしいと思う、アイドル・オタクという異常事態を飲み込むことができていた。もう10年以上アイドルに執着してやっと出た私の結論と真逆の歌が出てきたからここまでダラダラ怒ってしまった。
絶対アイドル辞めないでやめて。街でも力強く生きて。そして、たった一度しかない、誰のものでもない人生を後悔なく歩いて。私もそうするから。
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