深笛義也深笛義也
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人情劇で人気の大衆演劇の橘菊太郎、観劇に来た女性に性暴力?

裸の女性を、3人ほどの裸の男性が取り囲んでいる。女性は心ここにあらずの様子で、目を剥いている。それが筆者の見た写真だ。

その場を仕切っているのは、橘菊太郎。笑えて泣ける人情劇で人気の大衆演劇、橘劇団の総座長だ。舞台で見る朗らかで色気もある姿からは全く想像できない、悪辣な性加害を行っているという。

60年を超える歴史を持つ橘劇団。菊太郎の甥である、橘大五郎が現在は座長で看板役者だ。大五郎は2003年に公開された北野武監督『座頭市』にメインキャストとして出演。2009年の第60回NHK紅白歌合戦では剣舞を披露した実力派だ。筆者も観劇したが、彼の放つオーラには男性でも魅了される。

総座長の橘菊太郎は、1961年8月28日生まれ、大分県出身。6歳で子役を離れ、トヨタ自動車勤務を経て、23歳で劇団に復帰。父親の初代橘菊太郎から劇団を引き継いだ。大衆演劇では、子役からそのまま役者へと成長していくことが多い。菊太郎の演技に深みがあるのは、社会経験があるからだという声もある。

大衆演劇は首都圏では、浅草の木馬館、東京都北区十条の篠原演芸場、横浜市南区万世町の三吉演芸場などで演じられる。西日本にはもっと多くの劇場がある。収容人数は100~200名程度。大浴場や食事処のあるスーパー銭湯でも演じられる。風呂に浸かった後に笑って泣いて、日頃の憂さを晴らすには最適の娯楽だ。

他の演劇と大衆演劇の大きな違いは、役者と客が近いことだ。役者が客席に降りてくることもある。踊りの合間に、客が役者に近寄り、衣装の襟に袋をクリップで留める姿も見られる。これが、大衆演劇独特の「おひねり」だ。中には紙幣が入っており、役者の活躍への応援の意味が込められている。距離的にだけではなく、感覚的にも役者と客が一体になれるのが、大衆演劇だ。

芝居に魅了され「一緒に飲む?」と誘われたのが始まり

大衆演劇の観客の年齢層は、おおむね高い。だが独特な魅力に惹かれて、若い女性の姿も見られるようになってきた。そんな女性たちが、性加害の餌食になった。被害に遭った複数の女性から話を聞いた。

「スーパー銭湯が好きで、いろんなところに行ってたんです。そこでたまたま、橘劇団を観ました。舞台が終わった後、その場所がそのまま食事処になってたので、飲食してたんです。『劇団の者だけど、皆で一緒に飲む?』って誘われて、そこに加わりました。お客さんたちもフレンドリーだし、菊太郎さんも気さくに話しかけてくれました。今度はこんなイベントがあるからって言われて、通うようになったんです。いろんな相談にも乗ってくれて、楽しかったです。人を世話した話があったり、レストハウスを持ってたりとかで、人望があるように見えました。入場料も2000円とかで、他の演劇と比べたら格段に安いんで、通いやすかったっていうこともあります」

「友人に誘われて、劇場で観ました。きれいでした。全然知らない世界。おひねりとかもびっくりした。楽しかったんで、何度か足を運びました。そのうち、『この後皆で飲むんだけどよかったら』って誘われたんです。友人が一緒だったこともあって、参加しました。無礼講みたいな感じで気軽に話せて、楽しかったです」

楽しい飲み会に数回参加した後に、異変は起こる。
「次の店に行こうってことで、いつのまにか他の女性客は帰っちゃって、常連らしき男性客だけになってるんです。いきなりお酒が回ってきて千鳥足になって、意識を保つのも精一杯。途中から記憶が飛んでます。だけど、そんなには飲んでないんです。その時は自分の体調が悪いのかなって思ったんです。だけど後から、数人の男性と私の性行為を撮られた動画を見せられて、ああ嵌められたんだと思いました。それも全部、私のせいにされるんです。お前がだらしがないからだって」

「飲まないとダメっていう空気になるんです。焼酎を前に置かれて、これを空にしろみたいな。空いたら今度は、テキーラのショットが目の前にあって、なんでまだ飲んでないんだって責められる。自分以外も飲んでる状況だったので、飲まないと空気読めないという感じになってました。気付いたら朝になってて、場所はホテル。私は裸でした。最初は、飲み過ぎた私の落ち度かなと思ったんです。『この前の写真見るかって』って見せられて、撮られていることを初めて知りました。最初はふざけて撮っただけみたいな感じだったんですけど、それが脅しの材料になっていくんです」

気付いたら裸の自分が裸の男性たちに囲まれていた

動画や写真を撮られたこと、個人情報を握られたことで、彼女たちは呼び出しに応じざるを得なくなる。
「たぶん薬も使われててひどい動画なんで、絶対に周りには見られたくないし知られたくない。身分証もいつのまにか撮られていて、家族にも迷惑がかかるって脅されて。その時、恋人もいたんですけど、こんなことに巻き込むわけにはいかないんで、別れざるを得ませんでした」

「初めの頃の普通に飲む場で、『運転免許持ってんのか、証拠見せてみろ』って冗談ぽい感じで言われて、見せました。それがまさか、脅しの材料になるとは思ってなかったんです。誘われて断ったこともあるんですけど、その後、つきあいが悪いじゃないかって強めに言われると行かざるを得なくなります。そのうちに友人を連れてこいって言われるようになりました。友人はいないって、断りました」

性被害には、どのように気付いたのだろうか?
「途中から意識があるっていうことはあって、気付いたら男性が複数いて、自分も彼らも裸で、ことが進んでいる状態です。『お前は酒癖が悪いから、いつも記憶がなくなるんだ』『酔って、お前のほうから誘ってる』って言われるんです」

男性たちは、どんな人たちなのだろうか?
「私が見る限り、50代後半から、80代後半くらいまでいらっしゃいました。劇団のお客さんがほとんどだと思います。それを楽しみにしている人じゃないと、外部に漏れるじゃないですか。この人見たことあるなあって人だったり、その人が連れてきた人たちを相手するっていう感じです。菊太郎さん本人が相手ということも、全然あります」

「ある程度の年齢より上は、おじさんっていう感覚なんで、あんまり年齢層は詳細には分からないですけど、年輩の方が多いですね。菊太郎さんが相手ということは、あります。一人だけ、この人劇団員だなって分かった方がいたんですけど、名前までは分からなかったです」

攫うことも売り飛ばすこともできると脅される

性暴力の現場で、女性は1人か2人だ。意識を取り戻した女性が、隙を見て撮った写真が、筆者の目にしたものだ。菊太郎が写った写真もある。

彼女たちなりの抵抗を、試みたこともある。
「『体調もよくないから、あんまり飲まない』って言って、水をいっぱい飲んでたんです。でもグラスをガッと取られて、ガバッとお酒入れられて、お水が周りからなくなっていく。乾杯されたら、グラスを空けないといけないみたいなルールで、乾杯され続けて飲まされました。それから吐き戻しをやってみたんです。体に残っているアルコールは少ないはずなのに、それでも酔う。これっておかしくないか、なんでここで記憶なくすんだろうって、なんか薬を入れられてるんじゃないかって思ったんです。それを言ったら『薬を体に入れてんだったら、警察に行ったらおまえがやばいんじゃないか。仕事できなくなるよ。親も泣くんじゃない』って脅されました。私、親を大事にしてるから、親をダシに使われると弱いです」

複数の女性が、凧揚げで有名な浜松祭りに、別々の年に連れて行かれている。
「テントが張ってあって、そこで飲食ができるようになっているんです。御神輿が来ると、樽の酒を飲んだりとか、また近くのお店に移動して飲んだり、ズッーと飲まされていて、最後はホテルです。飲んでる時に、暴力団の組員だっていう人を接待させられました。『こういう知り合いがいるんだから、いつだって攫うことも、ソープに沈めることもできるんだぞ』って脅されました」

「刺青が入ってるかどうかは、パッと見た感じでは分からなかったです。ヤクザっぽい人が組員だって言って、攫うことも売り飛ばすこともできるって言いました」

暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)が成立して以来、暴力団は祭りに関わることができなくなっている。脅すために暴力団員を騙っている可能性が高い。だが彼女たちは恐怖のスパイラルに、陥ってしまった。

拒否すれば殴る蹴るの暴力を振るわれる

「酔ってる状態で借用書を書かされたんです。額は1000万円を超えてます。もちろんなにも借りたりしていない。『利子を払え』とか『体で返せ』とかって迫られるんです」

「酔っ払ってる時に衣装を汚したっとかってことで、サインをさせられました。『保険で補填するんで、おまえに請求が行かないためのサインだ』ってことだったんですけど、いつのまにかそれが借用書になってたんですよ」

男たちは、暴力も振るった。
「叩かれる、殴られる、蹴られる、土下座もさせられます。自分で望んでるような言い方しろって『私が悪い』って言わされて、それを動画に撮られたり。縛られたり首締められたり、失神寸前にさせられたこともあります。それに彼ら、避妊をしないんです。終わった後にアフターピルを渡されます。だけど、何度も中絶せざるを得なくなって、子どもが産めなくなった子とかもいるみたいです」

「最初から高圧的なわけじゃないんです。なにか私が拒否した時に、殴ってきますね。縛られた跡があるのを、後から気付いたこともありました」

隷属状態が、7年以上にも渡っている女性がいる。
「多い時には、1週間に2~3回、休日平日に関係なく呼び出されます。1日だけの時もあれば、2泊3泊になる時もある。1日だけでも、気持ち悪くて仕事行ける状態じゃなくて、それを繰り返してればクビになりますよね。結局、仕事を転々とすることになります。続けたかった仕事もあったんですけど。長く勤めないと給料も上がらないし、安定が見えないです」

橘菊太郎に話を聞いた。女性たちの申し出があると伝えると、「どの人ですか?」と質してきた。
取材源は言えないと断った上で、女性たちの証言の内容を伝えた。
「浜松は、たいがい今、女の子連れてよらんから、ないと思うんですよね」などと、彼は否定を繰り返した。

だが、男性が女性を取り囲んでいる写真の存在を伝えると、こう言った。
「一回、(写真を)突きつけてくれると分かるんですけど。周りの男性も分かるし」
写真を見せれば、この男性は誰かっていうことを言ってくれるのか、と問うた。
「そうですね」と彼は答えた。
被害者が写っているので、写真は見せられないと伝えた。
「女性を伏せて……、周りがどういう人かっていうのが分かるじゃないですか」
女性たちの証言が、事実だと認めたと同然だ。

不同意性交罪が成立する、8つの類型がある。橘菊太郎たちが行っていることは、そのうちの少なくとも3つに該当する。暴行まはた脅迫、アルコール又は薬物の影響、睡眠その他の意識不明瞭である。

性被害を受けた女性が声を上げるのは、かなりの困難を伴う。今回、複数の女性が勇気を奮って取材に応じてくれた。他にもいるはずの被害者たちが、声を上げることを願っている。

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