花開く日本の石炭技術 肥料やガス化、海外が注目
厄介もの「褐炭」活用、世界の石炭埋蔵量の約半分
両社が活用する低品質の石炭である褐炭は水分量が多く発熱量が小さい。しかも自然発火しやすいので輸送に適さないなどやっかいな代物だ。世界の石炭埋蔵量の約半分を占めるとされ、地域も欧米からアジアまで普遍的だが、産炭地の火力発電所で使うくらい。採掘も遅れ、膨大な未利用資源といわれている。
IHIの二塔式ガス化炉「TIGAR」(ティガー)は褐炭を乾燥させ火力発電の燃料に使うのではない。肥料の原料にするのだ。ガス化炉に褐炭を投入して水蒸気でガス化する。ガス化に必要な熱は燃焼炉で高温となった砂を循環させて供給する。組成の半分が水素の「水素リッチな合成ガス」が得られる。
この水素を空気中の窒素と合成してアンモニアを作る。さらに褐炭ガス化の過程で生まれる二酸化炭素と合わせて尿素を作る。売り込み先は肥料会社だ。
「計画が先送りされた時のインドネシアの担当者の失望といったらなかった」。エネルギー・プラントセクターの二塔式ガス化炉プロジェクト部の渡辺修三部長は振り返る。2000年代後半、IHIは横浜事業所にパイロット炉を持ち、インドネシアの国営肥料工場と実証プラント建設の話し合いをしていた。しかし、ガス精製設備や排水処理設備がまだなく、計画を凍結した。
IHI、インドネシアにプラント 日本ではバイオマス使った研究も
2年後にインドネシアと交渉を再開したものの、相手の責任者が代わり、話が進まない。役所を巻き込み、「これで駄目だったらこのプロジェクトは終わり」と追い詰められる中、官民を交えた大規模な会議を12年に開く。やっとゴーサインを得た。
実証プラントは1年の工期を経てジャカルタ南東のクジャン肥料会社に隣接する工業団地にこの秋完成し、11月末からいよいよ褐炭を投入し、試運転が始まる。日本とインドネシアを行き来する森徹・二塔式ガス化炉PJ部課長代理は「5人程度で運転できる」と現地で肥料工場の担当者の指導を始めた。
横浜ではすでに次をにらんだ研究が進んでいる。TIGARに褐炭ではなく木質バイオマスを投入しようというのだ。高藤誠・基礎技術研究所主任研究員は「バイオマス単体の試験は終わった。褐炭とバイオマスを同時に使うことを考えている」と話す。
世界最高レベルの85%のエネルギー変換効率
新日鉄住金エンジのECOPRO(エコプロ)と呼ぶ独自技術は石炭ガス化炉で、炉が2階建てで熱分解反応を利用するのが特徴だ。下の炉に細かく砕いた褐炭を入れ、不完全燃焼させ、発生する高温ガスを上の炉に送る。上の炉にも褐炭を吹き込み、下の炉から来る熱を利用してガス化する。
代替天然ガス(SNG)のほか、水素やディーゼル油、アンモニアなども得られる。ECOPROは大規模化しやすく、国内の実験で世界最高レベルの85%のエネルギー変換効率(冷ガス効率)を達成した。褐炭からSNGを作る場合「他の方式より1割以上効率がいい」といい、「石炭ガス化炉の第5世代」(戦略企画センターエネルギー・クリーンコール事業推進部の水野正孝・ゼネラルマネジャー)と位置づけている。
新日鉄住金エンジが海外で事業化に取り組んでいるパートナーが、中国の山東棗荘鉱業集団(山東省)だ。内モンゴル東部地区に褐炭の権益を持ち、褐炭からSNG製造の事業化を考えている、ぴったりの相手だった。
新日鉄住金エンジ、中国・内モンゴルに実証プラント
昨年から協力関係が始まった。すでに首脳が北九州市のパイロットプラントを見学。内モンゴルの褐炭を北九州で実験し、「非常にいい結果を得た」としている。9月に来日した山東棗荘の満慎剛総経理は都内で開いた石炭ガス化技術国際シンポジウムで、ECOPROを高く評価した。
両社は内モンゴル東部に石炭ガス化の実証プラントを16年度に建設する。褐炭をガス化し、SNGを作る。1日200トンの褐炭を投入する実証プラントは北九州の10倍の規模で、両社は合弁会社を設立する予定だ。1日1000トンの商業プラントの事業化調査を進め、中国で19年度にも商業生産開始を期待する。
新日鉄住金エンジがECOPROの基礎研究を始めたのは1995年。20年も前になる。石炭の扱いや灰の融点の調整などは明治以来の製鉄業の操業ノウハウが生きる。
多額の建設費など両社とも商業生産までの道のりはまだ長い。ただ、この技術が実用化されれば、地球の資源・環境への貢献は大きい。まだまだ仕事は終わらない。
(企業報道部 三浦義和)
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