岸田首相に支援を約束しなかった麻生氏 「支持率を考えた方がいい」
14日朝、岸田文雄首相は電話を握った。相手は、森山裕自民党総務会長。党幹部として首相を支え、再選した折には幹事長候補と目されていた。
首相は森山氏にこう伝えた。
「自民党総裁選に出ないことにしました」
首相は後見人である麻生太郎副総裁にも電話を入れた。
麻生氏は首相との電話を終えると、すぐさま慌てた様子で側近に連絡を入れた。
「岸田が総裁選に出ないことを決めたぞ」
その前日の13日夜、東京都内のパレスホテルの日本料理店。首相や最側近の木原誠二幹事長代理らの姿があった。首相らは翌日の会見で読み上げることになる会見原稿の内容を練っていた。
政権発足から1046日。在職期間は戦後8番目の長さにもかかわらず、自民党派閥の裏金事件などで政権は窮地に陥っていた。党内から退陣を求める声が公然と上がる中、首相の心は弱気と強気が交錯しつつ、次第に不出馬に傾いていった。
視線の先には、選挙の厳しい見通しがあった。
7月末、首相は周囲にこんな弱音を吐いた。
「来秋までには衆院選も参院選もある。状況を変えたい議員心理はあるよな。複雑だ」
20日には総裁選の日程が決まる。ポスト岸田をうかがう勢力が立候補表明してから不出馬を表明すれば、負け戦を回避するための「逃げ」の判断をしたと受け取られ、3年間の政権運営に傷がつく。そのためには、不出馬であっても、ほかの候補者が立候補を表明する前に、先手を打って態度表明をする必要がある――。
首相側近は「不出馬を表明するなら今週しかなかった」と明かす。
会見が終わった後、首相は前回の総裁選で自身の選対本部長を務めた遠藤利明前総務会長に電話をかけて、不出馬の決断の理由をこう伝えた。
「総裁選で勝っても、衆院選で勝つのは難しい」
終戦記念日を翌日に控えた14日午前11時半、首相官邸の記者会見室。1時間前に突如開催が報道陣に通告された緊急会見だった。
印象付けに終始した会見
登壇した首相は用意していた原稿を冷静な口調で読み上げ始めた。
「今回の総裁選挙では自民党が変わる姿を示すことが必要だ」
そしてこう語った。
「最もわかりやすい最初の一歩は私が身を引くこと。来たる総裁選には、出馬いたしません」
20分余りの会見は、不出馬が追い込まれた末の決断ではないという印象付けに終始しているようだった。自民党派閥の裏金事件について「私が身を引くことでけじめをつける」と説明し、「今回の事案が発生した当初から思い定め、心に期してきた」とも強調してみせた。
だが、首相側の思惑とは裏腹に党内の受け止めは、冷ややかだ。
三原じゅん子参院議員は会見を受けてX(旧ツイッター)にこう投稿した。
「不出馬は当然のこと。責任を取ると言うなら遅すぎた」
無派閥中堅議員は「総裁選に勝てないから辞めるというだけの『けじめ』だろ」と批判した。
不出馬の決定打は麻生氏
通常国会が事実上閉会した6月下旬の記者会見。
首相は「引き続き、道半ばの課題に結果を出すよう努力する」と述べ、今秋の自民党総裁選の出馬へ意欲を示した。だが、高まる首相への根強い不信感は、再選のわずかな可能性を探る首相を次第に不出馬へと追い込んでいった。
「出るとも出ないともまだ言わねえ」
首相は周囲にそう繰り返してきた。自身の進退を明かさずに、立候補に意欲を示す茂木敏充幹事長ら他の候補の動きを封じ、現職として経済や外交で結果を積み上げる戦略を描いた。党内に対しては、憲法改正に意欲を示して保守系議員の支持を得ようとアピールした。
しかし、党内の支持は広がらない。
首相は周辺に「裏金事件を起こした安倍派が『自分は悪くない』と言って、責任は全部、総裁が負う方向に持っていこうとしている。変な雰囲気だ」と漏らし、「誰かを悪者にして状況を変えないとしょうがねえって話なんだろう」と不満を吐露した。
決定打は、後見人の麻生氏から明確な支持の取り付けができなかったことだ。
麻生氏側近によると、麻生氏は首相と会談すると、こう繰り返していたという。
「世論調査の支持率を考えた方がいい」
この側近は「総裁選の告示日までに内閣支持率を大幅に上げないと、派閥会長として子分を抱えているのだから、負ける総理と心中はできない」と麻生氏の心境を解説する。
麻生氏は首相の政策は評価しつつも、派閥解散や政治資金規正法改正で公明党に妥協した政権運営には不満を抱いていた。自身の派閥存続を決めたのも、事前に相談もせずに派閥解散を打ち出した首相への意趣返しといえる。
麻生派内では、河野太郎デジタル相が出馬に意欲を示し、派閥幹部の甘利明元幹事長らは小林鷹之前経済安全保障相を高く評価していた。派内には支持率の低い首相を推すことへの抵抗感も根強くあった。
こうした事情を踏まえ、麻生氏は首相の動向を見極めるかのように周囲に漏らしていた。
「総裁選への対応を決めるのはお盆が明けてからだ」
漏らした本音「政策的には…」
麻生氏からの支持を得ることができなければ、総裁選で勝つことは極めて難しい。そうなれば、首相にとっての選択肢は不出馬だけとなる。あとはいつ不出馬を表明するか。首相のもとには中堅・若手が立候補を模索する小林氏らがお盆明け後に立候補表明するとの情報が寄せられていた。他の候補が出馬表明してからでは追い込まれた末の不出馬という印象が強くなる。不出馬表明のタイミングは15日の終戦記念日を避けた14日しかないという状況になった。
首相は14日の不出馬会見が終わった後、周囲にこんな本音を吐露した。
「俺も政策的には間違っていなかったという自負がある。だからこそ、こういう形は残念だよな」(西村圭史)
「朝日新聞デジタルを試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験
自民党総裁選挙2024
自民党総裁選に関する最新ニュースはこちら[もっと見る]