180億円投資家は「ドラマ」から生まれた 五月さん前編

180億円投資家は「ドラマ」から生まれた 五月さん前編

リアル投資家列伝・180億円投資家は「ドラマ」から生まれた 片山 晃(ペンネーム:五月)

2024.8.06

株で億の資産を築けば「億り人」、10億円なら「自由億」なんて呼ばれますが、100億円レベルになると呼び方もありません。それだけ稀な100億円超えの投資家の1人が、今回紹介する五月さんです。元手はわずか65万円ですが、小型成長株への全力投資で資産のケタを増やしていった片山晃さん(ペンネーム:五月さん)。日本を代表する投資家の、約19年にわたるストーリーを伺いました。

ドラマを思い出したら資産180億円になった

「あるドラマのワンシーンが強烈に印象に残っていました。それが株を始めるきっかけになったんです」

株価が100円以下で引けると会社が倒産する、という状況に対して、植木等が演じる老練な相場師が鬼気迫る勢いで買い支え、倒産を回避する――。そんなシーンをきっかけに株式投資を始めたのは、専業投資家の五月さんだ。

「当時はネットゲームに夢中で、ほぼゲーム廃人になっていたころです。そのゲームではトップを取ったものの、空虚さを感じて『なにか新しいことをやりたい、何かやらないとまずい』と思っていた時期でした。そのとき、ふと脳裏に浮かんだのがそのワンシーンでした。ドラマのタイトルも覚えていなかったので、断片的なキーワードを頼りに検索し、DVDを借りてきて見たら、こうなりました」

ドラマを見た五月さんはどうなったか――約19年後、総資産は180億円になり、日本を代表する個人投資家の1人ともなった。

カエル先生の一言

五月さんが株式投資を始めるきっかけとなったドラマは、長瀬智也さんが主演を務めた『ビッグマネー! 〜浮世の沙汰は株しだい〜』。原作は石田衣良さんの小説『波のうえの魔術師』です。

65万円の元手で始めた株式投資

「証券口座を開いたのは2005年5月。現「 バンダイナムコHD 」を買いました。元手は65万円ほどです。当時はインターネットでの株取引が始まって数年経ったころ。インターネット取引の最大のイノベーションは、低コストで取引できるようになったことです。デイトレードのような短期売買でも『手数料負け』しなくなったことは大革命でした」

取引コストの低下によって、デイトレードブームが到来した。今は中長期的な成長株への投資をメインとする五月さんも、最初は短期のデイトレードだった。

「本を読むのは好きではないので、マネー誌やインターネットの掲示板で勉強し、それと同時に地元のゲームセンターでアルバイトも始めました。バイトのシフトはできるかぎり夜にまわしてもらい、日中は相場を見る生活。寝ても覚めても考えるのは株のことばかりでした」

ライブドアなどの新興企業が話題をふりまいたこともあり、株式市場は活況を呈していた。個人投資家が好む成長企業を中心とした東証マザーズ指数(現・東証グロース市場250指数)は、2004年の秋からライブドア・ショック(2006年1月)の直前までに80%以上も上昇した。

「地合いがよかったため、含み損になっても損切りせずに持っていれば助かる。相場にも助けられて、2008年までに資金は約1000万円まで増えました」

長期投資の始まりは「下落率の高い順」

五月さんの転機となったのは、2008年に起きたリーマン・ショックだった。

「リーマン・ショックの直後は新安値をつけた銘柄を空売りすると儲かるような相場でしたが、だんだんとマーケットのボラティリティが低下し、そのやり方が2009年ころから機能しなくなってきた。これはスタイルを変えたほうがよさそうだな、と」

2007年に1万8000円台をつけていた日経平均は、リーマン・ショックで7000円台へと暴落。このチャートを見た五月さんは「これだけ下がったなら、これからは長期投資のほうが有利なのでは」と考えをあらためていく。

「長期投資といっても経験がなく『これを買ったら上がる』という自信もなかったため、『予想しても当たらない』という前提で最高値からの下落率をエクセルで計算しました。そして、本質的に終わっているような銘柄を除いて、上から順番にめちゃくちゃ分散して買っていきました

「ポジティブなサイクルがオンされた」

その中で目についたのが、自動車部品メーカーだった。

「「 デンソー 」や「 アイシン 」などの株価は、リーマン・ショック後の安値から大きく戻っていました。例えばデンソーは2008年12月の安値312.5円から、2009年の夏には700円台まで上昇していた。それなのに、小型の部品メーカーの株価は地を這ったまま。「 ニチリン 」という株などは、リーマン・ショック前の全盛期に1090円まであった株価が120円台まで下落してPBRが0.1倍台になりましたが、2009年を通じてほとんど株価は反発していなかった。このまま放置されるわけがない、と思って持っていたら、2010年の春までには倍になりました。『株ってこういうアプローチでやれば儲かるんだ』と、この体験でポジティブなサイクルがオンされました」

もとから業績や決算への関心はあり、会社四季報や日経新聞などは読んでいたという五月さん。自分の性格とスタイルが一致した瞬間だった。

「粉飾の見抜き方」をテーマにした同人誌

「もう一つのきっかけとなったのは、同人誌の作成です」

五月さんは、投資をもっと身近に感じてもらうための活動を行っている。その一つが、同人誌の作成だ。五月さんが中心となって作成した同人誌「東方マネー」は今なお人気だが、最初のテーマは「粉飾決算をどう見抜くか」だったという。

当時いいと思っていた会社が、実は粉飾していて潰れる、ということが2度、3度とありました。資産を全力で投資していたので、もし粉飾の発覚によって急落したら、一発退場です。そんな地雷を踏まないためにも、粉飾決算は事前に見抜けるのか、ということに関心を持っていたんです

会計を勉強するついでに受けた、簿記2級の試験にも合格するほどの熱の入れようだった。

「そのころIPOしたばかりのエフオーアイという銘柄があり、目論見書を読むうちにキャッシュ・フローに不自然さを感じました。その後、やはり粉飾決算で上場廃止となりました。決算をほじくり返せば、何らかの真実にたどりつくことがある、ということを実感した経験となりました」

値上がり銘柄から逆算して探した勝ちパターン

このころの五月さんは値上がりランキングから新高値、新安値をつけた銘柄をよく研究していたという。

「『今日値上がりした銘柄はなぜ買われたのだろう?』と逆算して考えていました。上昇トレンドはいつ始まったか、トレンドの起点となった材料はなにか、とさかのぼって考えることで、再現性のある上昇パターンを見つけたかったからです。その結果、小売業なら月次売上が参考になるとか、通期予想に対して売上進捗率が高ければ上方修正が出そうとか、そうしたやり方にアルファ(市場平均を上回る超過リターン)を見いだせました」

長期投資へのスタイル転換は成功し、2009年には4000万円、2010年には1億7000万円へと資産は増加した。

「相場にも恵まれたと思います。2005年の活況相場で始められて、リーマン・ショックを退場せずに切り抜けられた。株価が大底の時期だったため、長期投資への切り替えもスムーズでした」

「アムロはいない」と五月さんは言う。名作アニメ『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイは偶然にもロボットを操る天賦の才に恵まれていた。

ガンダムに乗っていきなり勝ててしまうアムロみたいな人は株式市場にはいません。最初に始めたとき、トレンドの波にのせてもらい、運良く成功できるかどうかは重要です。最初に失敗して『お金減った、株つらい』となると『やっぱり仕事がんばろう』となってしまいます」

時価総額100億円未満の成長株

このころ、五月さんの投資力をさらに引き上げる出会いもあった。有名ファンドマネジャー藤野英人さんとの出会いだ。

「藤野さんの話は目からウロコでした。藤野さんいわく、我々みたいな大口だと小型株は買えない、ターゲットになるのは時価総額が100億円を超えてからだ、と。時価総額100億円以下の小型株には個人投資家しか参加しておらず、競争がゆるい。しかも時価総額100億円以下の成長企業を買えば、100億円を超えたときに大口が買ってくれ自動的に水準が訂正される可能性が高い。『簡単でしょ、このゲーム』と」

のちに五月さんが体験した「 セリア 」もこのパターンだった。100円ショップを展開する会社だ。

「2009年頃には時価総額100億円以下でPERも7~8倍ほどでしたが、最盛期にはPER40倍以上まで伸びた。PERが5倍に伸びるということは、業績が変わらずとも株価は5倍。しかも普通はその間にEPS(1株あたり利益)も伸びますから、株価はもっと値上がりする。小型株の成長企業を探すというのは勝ちパターンのひとつでした」

「粗利率オタク」となって見つけた成長株

勝ちパターンに当てはまったのが、医療機器の輸入商社である「 日本ライフライン 」。五月さんが2014年から2016年にかけて大量保有報告書を提出した銘柄だ。

※日本ライフラインは2015年、2016年、2017年に、それぞれ1:2で株式分割しています。

「海外から医療機器を輸入して、国内で販売する商社です。商社は一般的に粗利率が低く儲からない――当時はそう思われていましたが、そこには2つの間違いがありました」

五月さんが間違いに気づくきっかけとなったのは、先述の藤野さんの会社で働いたときの経験だ。

「職場には大型のプリンタがありました。それまで個人投資家とはいえ、ただのニートだったので、高価なプリンタを使う機会がなかった。せっかくなら有効活用してみよう、と長期的に株価が上がった会社の決算を、20年分ほど印刷してみたんです」

とあるデータベンダーのサービスを使うと、大判サイズで20年分の決算数値が一覧で出力できた。

「俯瞰してみると、売上はそこまで伸びていないのに、利益が劇的に伸びている会社があることに気がつきました。粗利率の低い商品を売って利益を2倍にするには、売上も2倍近くにする必要があります。ただ、売上2倍はハードルが高い。でも、高い利益成長をする会社は、売上の増加はそれほどではなくても、粗利率の高い商品を多く売ることで利益を効率よく伸ばしていました。それからは『粗利率オタク』になって、さまざまな業種の粗利率を調べました」

人生をかけた銘柄で資産150億円へ!

そんな経験があったからこそ、日本ライフラインは気になる銘柄だった。

「日本ライフラインをよく調べると、海外製品を輸入して日本での治験や薬事申請を行い、日本で販売していました。商社というよりメーカーに近い。私の分析では、仕入れ商品でも粗利率が40%台と非常に高く、自社で開発した粗利率が60%ほどの製品も売れ始めていたため、全体の粗利率は50%くらいあった。とんでもない高収益な会社だったんです

それなのにPBRは0.4倍ほどで放置されている――。五月さんは「いつか市場は勘違いに気づくし、高齢化とともに対象疾患の市場規模は拡大するのだから、EPSは確実に爆伸びする」と判断した。

「市場からの評価の見直しと、利益成長で株価が大きく伸びるポテンシャルを感じました。「 東京エレクトロン 」も商社からメーカーへと転換して大きく伸びたと聞いたことがあり、同じパターンかなと。日本ライフラインには人生をかける価値がある、と」

思惑どおり、日本ライフラインの株価は20倍に。五月さんの資産は150億円へと急増した。

次回はそんな五月さんに、今注目しているテーマや初心者へのアドバイスを聞いていきます!

次回は8/13(火)配信予定です。
日経平均4451円安で歴代トップ!今後の反転の機会を探る

日経平均4451円安で歴代トップ!今後の反転の機会を探る

日興フロッギーNEWS 日興フロッギー編集部

2024.8.05

8月5日の日本株市場で日経平均株価は3万1458.42円(前日比4451円安)で引けました。日本銀行の利上げ、米雇用統計の悪化などが背景にあります。今後の反転の機会をサクッと整理しましょう!

日経平均4451円下落は歴代トップ

日経平均の1日の下落幅としては、1987年のブラックマンデー(3836円の下落)を超え、歴代最大となりました。また、下落率としては、歴代2位の記録となりました。


年初からの上昇を「3日」で打ち消し

7月末の終値から合計で7643円下落し、年初以降の上昇分をたった3日間で打ち消したかたちとなりました。

投資家心理悪化はリーマン・ショック並み

また、投資家の心理状況を表すとされる日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)は70.69まで上昇。コロナ・ショックを超えて、リーマン・ショック以来の水準にまで上昇したことが読み取れます。

カエル先生の一言

日経平均ボラティリティー・インデックスは、投資家が日経平均株価の将来の変動をどのように想定しているかを表した指数です。指数値が高いほど、投資家が今後、相場が大きく変動すると見込んでいることを意味します。

複雑に絡み合った「下げの要因」

これだけの株価暴落はなぜ起きたのでしょうか。時系列を追って相場環境を整理すると以下のようになります

①インフレ長期化による米FRBの利上げ長期化
②日本銀行による利上げ
③米国の雇用情勢悪化の兆し
④米テック株を中心とした割高感の台頭
⑤米大統領選を巡る不透明感

上記の要因が複雑に絡み合いつつ、とくに日米金融政策の方向性の違いから、円高が進行。輸出関連企業やインバウンド銘柄だけでなく、世界的な景気悪化などが懸念され、ほぼ全面安の商状となりました。

反転のきっかけはやはり「金融政策」頼みか

これだけパニック売りがある状態では、しばらくボラティリティ(変動幅)が大きい状態が続くものと考えられます。どんな材料が出ても「売り」の材料とされやすい環境が続くのではないでしょうか。

ただ、今回の相場急変を受けて、金融当局が緩和的な姿勢を示し始めれば、急速に反転する可能性もあります。リーマン・ショック時やコロナ・ショックと違い、まだ大きな景気悪化・企業倒産が表面化している状況ではありません。米国の雇用も傷が浅い状態で終わる可能性もあります。そのため、金融政策面を中心にサプライズとなる緩和的な姿勢が示されれば、「そこまで景気は悪化しない」という見方から、一旦底打ちする可能性もあります。

目先は金融当局関係者の発言などに注目が集まります。