自民、首都壊滅の危機 次期衆院選で苦戦必至 知事、都議補選の分析(2)【解説委員室から】

2024年07月11日19時00分

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 東京都知事選と同時に9選挙区で行われた都議補選で、自民党は8選挙区に候補者を擁立し、2勝6敗と大きく負け越した。裏金事件に対する有権者の怒りが、敗因の一つであるのは明白。現状のまま衆院解散となれば、東京の小選挙区で自民候補が軒並み落選しかねない。東京で自民議員が激減する「首都壊滅」が現実味を帯びる。(時事通信解説委員長 高橋正光)

裏金響き「2勝6敗」

 都議補選での自民以外の獲得議席は、小池百合子知事が特別顧問を務める「都民ファーストの会」が3、立憲民主党1、諸派1、無所属2。都民ファは、小池氏が圧勝した知事選との相乗効果もあり、2選挙区で自民に、1選挙区で立民に、それぞれ競り勝った。

 この結果を踏まえ、自民の2勝(板橋区、府中市)を細かく見ると、地元事情に助けられた面は否めない。

 板橋区は、都民ファの元議員が選挙期間中に無免許運転で事故を起こし、辞職したことによる。また、裏金事件で党員資格1年の処分を受けた下村博文元文部科学相の地元でもある。

 選挙は、自民、維新、共産,都民ファの4候補による激戦となった。結果は、不祥事による辞職の影響もあって、都民ファ候補の票が伸びず、自民批判票が分散。同党元職が抜け出した。

 公明党は、小池氏を支援する知事選優先を理由に、補選については「基本的に静観」(石井啓一幹事長)した。ほとんどの選挙区に現職がおり、自民候補が勝利すれば、来年夏の都議選にマイナスになりかねないからだ。

 府中市は、自民都議の死去に伴う。いわば「弔い合戦」で、無所属2人との三つ巴の戦いとなった。ただ、府中市選挙区に公明現職は不在で、前回2021年6月の都議選では、死去した都議を推薦している。今回の補選でも、公明支持者は、自民候補に投票した可能性が高い。公明党の実質支援を得られたことに加え、与野党対決の構図にならなかったことが幸いしたようだ。

 府中市と同様、足立区も自民都議の死去による「弔い合戦」。立民との一騎打ちとなったが、762票の僅差で敗れた。河野太郎デジタル相が応援に駆け付けた2日午後の東武伊勢崎線竹ノ塚駅前の街頭演説会では、河野氏を含め、応援弁士全員が演説の最中、聴衆の一人から「裏金自民党」「説明してください」などと野次られ続けた。

 公明党は足立区で、2議席を占めるほど強固な地盤があり、知事選のために投票所に足を運んだ公明支持者の一定程度は、補選で自民候補に投票したとみられる。とはいえ、公明が補選での自民支援を打ち出していれば、勝利したのは確実だ。

 このほか、八王子市は、都連会長で裏金事件で役職停止1年の処分を受けた萩生田光一前政調会長の地元。市内に創価大学があり、足立区同様に公明が強固な地盤を誇る。選挙は、自民新人と諸派元職との一騎打ちとなり、4万5000票強の差で惨敗した。

 公明は前回都議選の八王子選挙区で、4万5000票を得てトップ当選している。仮に、公明が総力で支援しても、逆転できたかは微妙。自民党に対する逆風の強さを裏付けた。

菅政権以上の逆風

 前回都議選(定数127)で、自民党は33議席で、第一党を都民ファ(31議席)から奪い返したものの、候補者全員が当選した13年の59議席には遠く及ばなかった。約4カ月後に行われた衆院選で、自民党は25の小選挙区で「15勝8敗=2選挙区で公認候補を立てず」と大きく勝ち越した。

 都議選当時はコロナ禍で、直後(21年7月)の菅義偉内閣の支持率は29.3%と低迷。自民党の支持率も21.4%と振るわなかった。その後、岸田文雄政権に代わり、衆院選時には内閣支持率は大きく回復し、自民党に対する逆風は止んでいた。

 都議選ごろの菅内閣と現在の岸田内閣を世論調査で比較すると、比べ物にならないほど現状が厳しいのが分かる。時事通信社の7月調査で、内閣支持率は15.5%、自民党支持率は16.0%。内閣支持率はほぼ半分、自民党支持率も5.4ポイント低い。

 この数字は、衆院選に惨敗して野党に転落した麻生太郎内閣(09年7月、内閣支持16.3%、自民党15.1%)と同水準。数字からは、自民党は野党転落前夜と言える。

首都圏9増もマイナス要因

 前回衆院選で自民党が勝利した東京の15選挙区について、次点との票差を見ると、「2万票以内」5、「2万~3万票以内」3、「3万~4万票以内」2、「4万票~6万票以内」2、「6万票以上のダブルスコア」3。

 次期衆院選は、「政治とカネ」が争点の一つになるのは確実。裏金事件の実態解明、事件を受けた政治資金の透明化と再発防止策など、自民党のこれまでの取り組みが問われることになる。しかし、報道各社の世論調査によれば、取り組みを「評価しない」が多数を占めている。

 また、公明・創価学会は1小選挙区あたり、2万票前後の組織票があるとされるが、創価学会員は金銭スキャンダルに極めて敏感だ。さらに、自民、公明両党は衆院小選挙区の「10増10減」に伴う候補者調整で対立。公明党は一時、東京での選挙協力を白紙に戻した。最終的には関係が修復されたものの、しこりも残っているだろう。

 裏金事件などによる激しい逆風に加え、公明・学会票の上積み分も減れば、各自民党候補の得票が、前回から大幅に減るのは避けられそうにない。仮に、2万票差以内で勝った5選挙区で敗れれば、その時点で10勝13敗。2万~3万票差以内の3選挙区でも逆転されれば7勝16敗。さらに、4万票差以内の2選挙区も失うと5勝18敗となる。

 自民党にとって、さらなるマイナス材料は、衆院小選挙区の10増のうち、9が首都圏(東京5、神奈川2、埼玉1、千葉1)であること。東京の小選挙区数は25から30になる。全体で負け越す状況なら、「5増」により負け幅が拡大することになるだろう。

 ある中堅議員は、独自の票読みとして「東京で確実に勝てそうなのは3選挙区」と、「3勝26敗」(1選挙区は公明が候補者擁立)もあり得るとの見方を示す。当然、東京で示される民意と、埼玉、千葉、神奈川3県の民意が大きく異なることはあり得ない。首都東京で惨敗すれば、3県でも議席を減らすのは確実だ。

東京惨敗なら過半数割れ

 東京での惨敗は、自民、公明両党の過半数割れに直結する。ちなみに、09年の衆院選で自民党は東京で「4勝20敗」(このほか公明が1敗)と大敗した。

 もちろん、野党候補が乱立すれば、政権批判票は分散し、自民党に有利に働く。菅政権から岸田政権に交代した時の様に、「自民の顔」が代われば、逆風が和らぐかもしれない。

 さらに、都知事選で165万8000票を獲得した石丸伸二氏が地域政党を結成し、各選挙区に候補者を立てれば、与野党対決に割って入るだろう。その場合、自民票、野党票のどちらをより多く食うかは読み切れない。不確定要素が多いのも事実だ。

 とはいえ、自民が負け越した都議補選を細かく分析し、これまでの衆院選の結果や、世論調査が示す岸田内閣や自民党の現状などを考慮すると、次期衆院選での「首都壊滅」がおぼろげながら見えてくる。

 高橋 正光(たかはし・まさみつ)1986年4月時事通信社入社。政治部首相番、自民党小渕派担当、梶山静六官房長官番、公明党担当、外務省、与党、首相官邸各クラブキャップ、政治部次長、政治部長、編集局長などを経て、2021年6月から現職。

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