女を爆発させて生きよう。
旦那の都合で東京から地方都市に引っ越し、車がなければ生活できないから四十歳近くになって免許を取ったと話す女性A様にお会いした。A様とは、かつて、一度だけお会いしたことがある。その時、A様は一歳になる愛娘を抱っこしていた。私の記憶にはまったくないのだが、その時、私は「一歳は大人ですよ」と言ったらしい。それを聞いたA様は「えっ!?」と衝撃を受けて、そうか、自分がしっかりしなければと思い込んでいたが、もっと子供の力を信じてもいいのだなと思えて自由になったと言った。
私は「一歳は大人ですよとか、無責任なことを言ったものだ」と感激した。記憶にはないが、自分だったらそんなことを言いそうだなと思った。A様は言った。節目節目に坂爪さんに会いたくなる。前回は育児の悩みをぶっ壊してもらった。今回は人生の悩みをぶっ壊してもらいたい。引越しに伴って、東京の家を整理して、仕事もやめて、いまは何もないカラッポの状態にある。半年くらいなら生きていける貯金はあるが、その後のことは何もわからない。余計なことをして変なことになるくらいなら、呑気に構えて来るものが来たら動ける自分でいたいと思っている。A様は、そのようなことを言った。
私は「仕事はまったく問題なさそうだな」と思った。余計なことをしない。世界に対して自分を開き、来るものが来たらパッと動ける自分でいる。最高だ。文句はない。引越しは大変だったかもしれないが、引越しのおかげで今世は諦めていた免許も取れたし、普通に運転もしているし、何歳になっても新しい技術を習得できることを知った。死ぬまで世話をすると思っていた親も、家の整理に伴って介護施設に預けた。悪いと思った出来事のおかげで、人生が好転することはいくらでもある。引越しが決まったのは半年前だが、半年前と現在の自分は別人みたいだと話すA様は、自然な笑顔を纏っていた。
だが、それだけでは坂爪圭吾(俺)に会おうとはしない。節目節目に会いたくなるなら、今、A様は何かしらの節目を迎えている。表面的にはうまく行っているように見せかけているが、はは〜ん、さてはこれだなと思って、私は「次は男ですね」と断言した。すると、A様は「きゃー!なんでわかったんですか!」と叫んだ。叫び方が可愛くて、私は笑ってしまった。A様は「畜生。見破られたか」と言った。私は「ちょっと待て」と思った。ぶち壊して欲しいと言ったのはあなたなのに、なんで俺だけ悪者みたいになっているのだ。どちらかと言えば、悪者はあなただろ。順風満帆に見せかけたあなたが嘘つきなのに、なぜ、俺だけ悪者になるのだ。
誤解を恐れながら言うと、A様は、自分が女であることを抑えて生きているように見えた。だが、本当は、もっと女である自分を楽しみたいと思っているように見えた。そのようなことを言うと、A様は「実は、今の旦那と添い遂げるイメージを持てない」と言った。優しいし、大好きなのだが、添い遂げるとなると少し違う。家族は必ずしも一緒に暮らさなくていいのではないかとA様は言った。私は「ふふふ」と言った。A様は「ふふふってなんですか!?」と怒った。私は「ふふふ」と、もう一度言った。A様は、何かを諦めたように「購読料です」と言って、餞別をくれた。私は、餞別をくれる人が大好きなので、A様のことを好きになった。いい女の定義とは何か。それは「言い訳をしないで、楽しく生きること」だと思う。それは「クヨクヨしないで、前を見て生きること」と言い換えることもできる。私の母親も言っていた。クヨクヨしても、何にもならない。明るく楽しく生きる秘訣は、クヨクヨしないことである。私は、明日への希望と金一封を握り締めながら「グッドラック(女を爆発させて生きろ)」と言った。A様は「なんなんだよ、も〜!」と言いながら、来た時よりも軽い足取りで帰った。
バッチ来い人類!うおおおおお〜!
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