日本軍が敗戦間近の大戸島に、故障した軍用機をうけいれるちいさな整備基地がつくられていた。そこに特攻機が着陸するが、乗っていた敷島の主張する故障を整備兵は見つけられなかった。その夜、大戸島につたわる伝説の存在ゴジラがあらわれ、整備基地を壊滅させる。
敗戦後、廃墟となった東京にもどった敷島は、ひょんなことから行き場のない女と娘との同居をはじめる。そして機雷を回収して爆破処理する危険な仕事につくことで、生活を向上させていったが……
日本におけるシリーズ30作目として、独立したオリジナルストーリーでつくられた2023年公開の日本映画。過去作のカメオ出演などでゴジラにかかわってきた山崎貴が監督と脚本とVFXをつとめ、ゴジラデザインも共同で担当した。
『窓ぎわのトットちゃん』*1や『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』*2のように2023年末に日本の戦争を描いた映画群のひとつでもある。その観点で見ると、日本におけるシリーズ前作『シン・ゴジラ』*3とも違ったかたちで、こうでありたかった理想の日本の戦争を描くことで、逆説的に現実の日本がどのように愚劣だったかを浮かびあがらせる。
外国を攻めるのではなく自国を守る。戦う相手は人ではなく獣。徴兵による強制ではなく自発的な参加。精神論でも兵器の巨大さでもなく、科学的な思考で作戦を立案する。必勝などという嘘をつかず、成功の確率が低いことを素直に認める。傷病者や若者の参戦を年長者が断る。玉砕を正面から否定して、全員が生還することを目標にする……
つまりは1990年代にブームとなった仮想戦記の怪獣版といったところか。そういう意味では特に目新しい良さも悪さも感じなかった。大日本帝国の加害性を正面から明言することもさけて、主人公が処理する機雷は日本だけでなく米国もばらまいたものだと説明するし、過去に植民地にしてきた周辺国の被害を日本がひきうけるという贖罪にもしない。そもそも政府はたよりにならない存在とされ、国体だった天皇もふくめて戦争をはじめる主体は空白のまま物語が進行する。もっと踏みこめそうなところで足を止めた残念さはあった。
一方でモンスターアクション映画としては予想外に出来が良かった。ゴジラ自体はただの巨大生物でしかないところは1998年版『GODZILLA』*4と通じるが、全面的にアップデートされている。
モンスターとしてのゴジラの強さ、大きさを段階的に見せること。過去の失敗が未来の成功の伏線となること。口から内臓がとびでて浮かびあがる深海魚も、ゴジラの登場の前ぶれというだけでなく、海神作戦の原理的な伏線にもなっている。
そうしてモンスターアクションは幼稚なB級だからと手を抜きがちな細部をていねいに埋め、サスペンスを持続しつつ*5バトルの帰趨にゲームのような説得力がある。大規模な災害から個人の葛藤に収束することで怪獣の強弱が恣意的に変化することもなく、戦争で心に傷を負った主人公の周囲に同じような人々が集まり、少しずつ抵抗する力を獲得していく。クライマックスのどんでん返しは見ていて予想がつくし、それを長々と回想で説明するわかりやすさも、あくまでモンスターを攻略する映画と考えれば美点といえなくもない。
旧作でも近年の米国作品でも珍しく、ゴジラと戦う軍艦が多くの搭乗者がいる機械ということを印象づけ、たがいの実在感と巨大感を対比的にきわだたせる。怪獣映画でここまで艦船のディテールが細かいのは2005年版『キング・コング』くらいだろうか。
アカデミー視覚効果賞をアジアで初めて獲得した特撮も見どころが満載だった。突出した部分が多いかわりに粗いころも散見された『シン・ゴジラ』と違って、細部まで技術的に可能なことをすべてやって無理なところは捨てて、観客として冷めるところがない。
あまり怪獣愛好家からは評価されていない前半も、大規模なセットと背景のVFXで焼け跡の東京を再現した特撮映画として楽しめる。復興に同調して主人公の生活が一直線に向上する単調さは『ALWAYS 三丁目の夕日』に近い問題はあるが、後悔をせおいつづけている主人公のキャラクターと、何よりゴジラ襲来で叩き落すために持ち上げていることが明確なので、能天気な姿が鼻につかない。
ただし都市破壊は全体的に特報で驚かされた描写の延長にとどまり*6、田舎の蹂躙も白組がかかわった『シン・ウルトラマン』*7とくらべて新しさはない。せいぜいゴジラの熱線による爆風が邦画では珍しいレベルで核爆発を連想させるくらいか。念のため、予告で感じた新しさを本編で再確認したようなものなので、映画が悪いわけではない。
予想外に目を引いたのが船の撮影で、洋画では多用されても邦画では珍しい構図が多い。俯瞰や正面からの撮影、人物の後方に船体がのびる構図などが目を引いた。実景の艦船だけを3DCGでおきかえる手法の蓄積にくわえて、ドローン撮影や若手スタッフの流体描画技術がカメラワークの制限をなくしたおかげでもあるだろう。
*5:結果がぎりぎりまでわからないことを表現するため台詞で「やったか?!」を多用しすぎて天丼ギャグになっているところはさすがに気になったが……
*6:映画館で鑑賞すれば違った印象があるかもしれないが。 山崎貴監督の最新作『ゴジラ-1.0』の特報が公開 - 法華狼の日記