国がマイナンバーと小中学生の成績を紐づけると一部メディアが報道し、ネットで話題になりました。
SNSでは「ジョークとしか思えない」「成績を一生背負わせるのか」と否定的な声が上がり、楽天の三木谷浩史会長兼社長も「個人の学習管理をマイナンバーでやるという話、さすがにこれは抵抗感というか恐怖感さえある..」とつぶやきました。
本当にそんな構想を描いているのか、文部科学省や教育の専門家に聞きました。(ライター・国分瑠衣子)
●「マイナンバー」と「マイナンバーカード」は違う
日経新聞は12月16日付朝刊で「学習管理、マイナンバーで 成績・履歴データ化 指導活用 小中学生対象」との見出しで、小中学生の学習履歴やテストの成績を「マイナンバー」に紐づけてオンラインで管理する仕組みをつくる、と報じました。FNNも同様の報道をしましたが、こちらは紐づけ先を「マイナンバーカード」としていました。
文科省の担当者に聞くと「マイナンバーは法律で用途が制限されているので、紐づけは考えていません。教育データと紐づける一案として出ているのはマイナンバーカードです」という回答が返ってきました。
マイナンバーとマイナンバーカードは別のものです。12桁のマイナンバーは、日本に住民票がある全ての人がもう持っているものです。使える範囲は「社会保障、税務、災害対策」の3分野に法律で限定されています。
一方、マイナンバーカードは、顔写真付きのプラスチック製のカードで希望した人だけが持つことができます。免許証や保険証と同じ、公的な身分証明証として使えます。また、カードのICチップに搭載された電子証明書を利用すれば、コンビニエンスストアで住民票などを受け取ることもできます。
デジタル・ガバメント閣僚会議の下に設けられた、有識者らでつくるワーキンググループは12月、教育現場のマイナンバーカード活用を盛り込んだ報告書を提出しました。
それによると「学習者のIDとマイナンバーカードの紐づけ等、転校時等の教育データの持ち運び等の方策を2022年度までに検討し、2023年度以降希望する家庭・学校における活用を実現できるように取り組む」と書かれています。
「児童・生徒や保護者が希望した場合は、転校先などに健康診断結果などの情報をマイナンバーカードで共有できないか考えたいということです。あくまで学校や個人で希望があった場合を想定していて、一律ではありません」(担当者)。
文科省はウェブサイトの「FAQ」にも同様の説明を掲載しました。
●各自にタブレット1台「GIGAスクール構想」との関係
ではなぜこのタイミングなのでしょうか。教育現場のデジタル化を急ぐ国は、全国の小中学校の児童・生徒約1000万人にタブレットなどの端末を1人1台整備する「GIGAスクール構想」を進めています。
今春、緊急事態宣言が出され一斉休校になる中、小中学校ではタブレット端末の配備が追い付かず、オンライン授業ができた自治体は一部でした。これを受け、国は端末配備のめどを2023年度から2020年度末に前倒しにしました。
児童・生徒に1人1台の端末が整備されることで、学習履歴などのデータを活用しやすくなりますし、マイナンバーカードを全国民に行き渡らせる目標が2022年度末なので、マイナンバーカードの活用が検討されているのです。
マイナンバーカードの普及率は12月1日現在で23.1%です。国はマイナンバーカードを持っている人がキャッシュレス決済で買いものやチャージをすると、最大5000円分のポイントが付与される「マイナポイント事業」や、来年3月からは健康保険証替わりとして利用できるようにするなど、あの手この手で普及を進めています。
文科省の担当者は、「マイナンバーカードと紐づける学習者のIDは、1人1台配備される端末のIDなどを想定しています。
ただ、マイナンバーカードを使ってどんな教育データを扱うかも決まっていません。いずれにしても個人情報保護に配慮できるのか慎重に検討する必要があると考えています」と説明しています。
●カード活用の案、国が提示した
政府の教育再生実行会議で教育のデジタル化について検討する「デジタル化タスクフォース」のメンバーで、鳴門教育大学大学院・遠隔教育プログラム推進室長の藤村裕一氏は次のように話します。
「個人的にはマイナンバーと、成績のようなセンシティブな個人情報を紐づけることはやるべきではないと考えているし、絶対無理だと思っています。どこで成績と紐づけるという話になったのか全く分かりません」
藤村氏は「今は、学校のシステムは総務や保健など学校によってバラバラです。会議では『就学前から小中学校、高校、大学と進学する中で、アレルギーや学習面で配慮が必要な情報を共有できるユニークID(重複することがないID)が必要だ』という議論をしていました」と説明します。マイナンバーカードの活用は国から一つの案として示されたといいます。
その上で「マイナンバー制度のマイナポータルを認証基盤として扱うなら、可能性はあるかもしれませんが、情報漏洩のリスクもあります。いずれにしてもまだまだ議論が必要です」と話します。
マイナポータルとは、マイナンバーカードを使ってログインできる個人向けサイトで、行政機関が持っている自分の情報を知ることができます。
藤村氏は「教育現場でマイナンバーカードを利用するならば、なんといっても子どもたちにとって役立つものでなければ意味がありません。慎重な議論が必要です」と話しています。