法規制が「日本滅ぼす」、安全保障に焦燥感 「能動的サイバー防御」導入目指す―自民・小野寺氏【解説委員室から】

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 自民党の小野寺五典・安全保障調査会長はこのほど時事通信のインタビューに応じ、日本の安保・防衛体制について、防衛省・自衛隊幹部の中に古い認識が残っていることや、装備の遅れに「焦燥感がある」と吐露した。その上で、サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス=ACD)」の導入を目指す党の提言をまとめ、政府に関連法改正を急ぐよう促す考えを示した。主なやりとりは次の通り。(聞き手=時事通信解説委員 村田純一)

防衛体制、「昭和の頭」切り替えよ

―最近の安全保障・防衛問題で特に関心を持っていることは?

 イスラエルのガザ、ウクライナでどのような戦いが行われているか、今のトレンドの戦い方を見て、日本の安全保障はそれに適合できるのかを深刻に考えている。例えば今、ウクライナ戦争を分析し、いろいろな情報も得ているが、実際の戦いは、サイバーやドローンなど今までにない新しい技術、民生技術が実際の戦場に組み込まれ、有効に機能している。そういう情報が手に入る中で、防衛省・自衛隊が普段考えている安全保障・防衛体制で、そうした備えはできているのかどうか。全く不十分ではないか。そういう焦燥感を非常に強く持っている。

 まず必要なことは「頭づくり」からだ。つまり、防衛省・自衛隊幹部の認識が現在の世界の戦いにきちんと向き合っているか。非常に焦燥感を持って見ていて、何とかしなければいけないと思っている。


―昭和の時代の頃の頭、発想のままではいけないということか?

 そう。今の戦い方に、頭がついていっているのかどうか。私たちもそこはしっかり認識し、防衛省・自衛隊幹部ももっと認識を変える必要がある。「昭和の頭」で戦っても、「令和の戦い」では太刀打ちできない。

―具体的にはどの分野か?

 例えばサイバー。ウクライナでは携帯電話を持っているだけで兵士の位置が特定され、国籍まで特定されるかもしれない。ウクライナでは一般の兵士まで、そのような状況に対応するための装備を携行し、情報戦を戦っている。兵士は自らが出す電波、あるいは使うSIMカードによって位置が特定される。

 最近のドローンは、小型で遠くからでも人を判別できる。顔認識ソフトで、個人の顔まで分かる。例えば、小型のドローンが狙った個人のところまで行って、自爆する。特定の人を抹消することもできる 。

―映画の世界のようだ。

 もうそれが普通になっている。安価な装備だ。例えば日本円で4、5万円の中国製ドローンに殺傷兵器を付けて、数キロ飛ばして、必要なところで自爆攻撃させることが可能だ。それもピンポイントで位置を特定できる時代になっている。

 世界に実際の戦場がある中で、日本の情報戦の対応は非常に遅れている。日本のドローン技術の対応は一番遅れていて、例えば電波の使用帯が限定されているので、安全保障上使えるようなドローンは全く開発されていない。

―法的な規制がある。

 はい。私は、総務省が日本を滅ぼすのではないかとさえ思っているぐらいだ。日本の通信規制、サイバー空間上でのさまざまな法規制が、日本の「ガラパゴス」を完全に招いている。

―自民党は5月17日の経済安全保障推進本部、安全保障調査会などの合同会議で、能動的サイバー防御(ACD)の導入に向けた議論を開始した。次の臨時国会で関連法案の成立を目指しているのか?(※「能動的サイバー防御」とは、サイバー空間を常に監視し、サイバー攻撃の予兆や不審な動きを察知した場合、攻撃元のサーバーに侵入して無力化を図るなど、未然に排除する措置。2022年の国家安保戦略で導入が決まった。憲法が保障する「通信の秘密」との整合性が検討課題)

 政府の動きが遅いから党で議論を始めた。党として、政府に「早く動かせ」と。今までは政府が閣法で法律を改正したいと言って、それから政治の世界でどうするかと考えることが多かったが、安全保障やサイバーの面では本当に政府の動きが遅い。だから(国家安全保障戦略など)防衛3文書も党として提言をつくって、むしろ政府を動かした。今回のACDに関しても、党として提言を出し、政府を動かすつもりだ。

 防衛装備の海外移転問題で私の時間も取られてしまっていたが、決着がついたので、ACDの方に取り組めるようになった。

 結局、党が動かないと、政府は何も動かない。ずっとそうだ。防衛3文書も、防衛装備の海外移転の話も。ようやくサイバーの話もできるようになって動かそうと思い、今は自民党を動かして、それから政府のお尻をたたいていこうと思っている。


―関係各省は縦割りだから、なかなか自分から前に進もうとしないのでは?

 一番、危機感を持ってやらなければならないのは政治の側だ。だからもっと一生懸命やらなければいけないと、焦燥感を持ってやっている。

日米指揮系統の一体化、現場はまだ動かず

―先の日米首脳会談では、日米同盟強化の一環で、米軍と自衛隊の指揮系統の一体化を進める話が出たが、どのような動きで進んでいるのか?

 (首を横に振りつつ)だから心配で、5月にワシントンに行った。国務省や国家安全保障会議(NSC)で確認したが、米側にはまだそんなに大きな動きはない。確かに首脳間ではやろうと言っているが、下が動いていない。だから、それをたき付けに行って、早くしてくれとお願いしているわけだ。


―日米指揮系統の一体化に懸念はないか?

 実態は、まだ何も決まっていない。

―海上幕僚監部は昔から日米連携が進んでいる。

 海幕が強いのは、例えばミサイル防衛のイージス艦対応で日米の統合した形があるからだ。ミサイルが飛んできたらどのイージス艦で対応すればいいか、日米で情報交換し、協力して撃ち落とす―という実態の任務がある。他は実態の任務がない。所用がない中では、まだはっきりしたものをつくれていない。

 米国のカウンターパートが全く決まっていない。「スリースター」(中将)にするか、「フォースター」(大将)にするかも決まっていない。米国自身がまだ何も決めていないので、まだそんなに野党が心配するところまで話は進んでいない。

―日米の指揮系統が一体化された場合、自衛隊は主体性を維持できるのか。米軍の言いなりになるのではないかという懸念の声もあるが。

 米国の言いなりになるほど日本の政治は弱くはない。米国がどこまで日本に期待するかということは、よく考えなければいけないと思う。

―米国は、中国、ロシア、ウクライナ、中東あちこちに単独で手を出せる状況ではないので、日本にそれなりの肩代わり、協力をしてもらいたいと考えているのでは?

 いや、それは真逆の話だろう。日本は最も危険な安全保障環境にあり、地政学的にその真っただ中に置かれている。われわれは米国チームに入っているが、米国は非常に遠いところにいる。

 そうすると、米国がチームから引いてしまうと、周りが敵だらけの中で日本はどうやって生き残っていくのか。中国と北朝鮮とロシアが周囲にいて、いずれも核兵器国だ。日本は、どうやって米国が日本にコミットしてもらうかを考えなければならない。

【略歴】
小野寺 五典氏(おのでら・いつのり)東京水産大卒、東大院修了。東北福祉大助教授を経て、97年衆院初当選。外務副大臣、防衛相などを歴任。現在、衆院予算委員長、党安全保障調査会長。当選8回。64歳。

【横顔】
 好きな食べ物は、かつ丼。参院内のそば屋もよく行く場所。趣味はテニスとスキー。好きな本は、海洋研究のきっかけになったというレイチェル・カーソンの「沈黙の春」。座右の銘は「一隅を照らす」。「人の目が届かないところ、社会で見逃されているところに光を当てるという意味もあり、政治の原点だと思う」と語る。

(※時事総合研究所ホームページ掲載記事を一部修正しました)

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