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Conversation

このすれ違いは海洋微生物学の入門として良いお話なのでちゃんと書こうと思います。最初に謝ると、サイエンスコミュニケーションや公衆衛生の観点からは最初の僕の呟きはあんまり良くないです。海で洗った白菜が真水で洗った白菜より不要なリスクがあるのは間違いないです。正直全くバズると思ってなかった内輪向けのツイートで軽率でした。 しかし、海水に腸炎ビブリオみたいな人間に害のある菌があんまりいないのも事実です。このすれ違いには病原性微生物を研究する古典的な細菌学と、最近の環境微生物学のギャップがあると思います。 まず、古典的には細菌は栄養の多い寒天培地で増殖させ、分離します。栄養の多い寒天培地では、富栄養な環境に適応した微生物だけが増殖します。 腸炎ビブリオは基本的には魚の腸内細菌ですが、海水中にも非常に少ない割合で存在します。寒天培地で培養する場合、「環境中にはめちゃくちゃ少なくても、寒天培地で増殖する能力を持つ」微生物が増えます。魚の腸内は富栄養な環境なので、腸炎ビブリオも富栄養な培地で増殖が可能です。 昔は「微生物=寒天培地で増えるやつ」だったので、海には腸炎ビブリオのような細菌がそれなりの割合でいると考えられていた時代もあります。しかし、メタゲノムと呼ばれる手法で海水中の細菌の詳細な群集構造が明らかになってきた2000年代以降、そもそも富栄養な培地で増殖可能な細菌は海水中にはそんなに多くなく、貧栄養な環境に適応し寒天培地で増殖しない微生物の方が圧倒的に多いことがわかってきました。代表例としてはα-ProteobacteriaのSAR11があり、こちらの分離培養に成功した論文はNatureです。 医学や古典的な微生物学を学ばれた方にとって一番身近な海洋細菌は恐らく腸炎ビブリオなのですが、海洋細菌をやっている立場からすると「主に腸内細菌だったり、マリンスノーのようなparticle上で存在しているグループの中のマイナーな株」というぐらいの印象でしょうか。 海水中で遊離している細菌の中にはほとんどいないとはいえ、存在してはおり、増殖能力は高いのでコロニーが増殖できる条件を作ってしまうと爆発的に増えます。 ビブリオ属は海洋中であんまり数が多いわけではないので環境へのインパクトは少ないですが、ラボで扱いやすいのと、genetic manipulationが確立している数少ない海洋細菌である点が環境微生物学の世界では重要で、wetな実験でそれなりに使われたりします。 海洋微生物学の文脈だとそこまで重要ではない株である一方で、医学的には有名なので、腸炎ビブリオやビブリオコレラに関して医学系出身の人と認識のすれ違いが起こることは微生物海洋学者にとって一種のあるあるネタでもあると思います。
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𝑯𝒊𝒓𝒂𝒔𝒉𝒐
@minipinJ
突然魚の腸内細菌のビブリオの話をされている理由はよく分かりませんが、腸炎ビブリオは海水中や底質中に普遍的に存在していることを認識された方が良いかと思います。我が国で最初に発見された細菌でもありますし、今でも食中毒事例が発生しています。 hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro
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