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2024.8.9

動画「コロンブス」の炎上から考える、「知のめぐり」の在り方

ロックバンド「Mrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)」の楽曲「コロンブス」のミュージックビデオが炎上してから約2ヶ月。武蔵野美術大学教授で憲法研究者の志田陽子が、この炎上騒動を契機に今後のアーティストたちの表現活動において生かされるべきものを考察する。

文=志田陽子

(C)Unsplush

「コロンブス」炎上

 6月、ロックバンド「Mrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)」の楽曲「コロンブス」のミュージックビデオに「歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現」があったとして、レコード会社のユニバーサルミュージックがこのビデオ動画の公開を停止した。

 問題となった映像では、コロンブス、ナポレオン、ベートーベンに扮装したメンバーが「類人猿」の家を訪れ、ホームパーティーを開く。途中、類人猿に人力車を引かせたり、乗馬や音楽を教えたりするシーンがある。

 この動画がなぜ問題なのかについては、この数日の間に多くの識者、ジャーナリストが解説してきた。筆者もYahoo!上で以下の論説を投稿した。経緯と「なぜ社会的にアウトなのか」については、こちらを参照してほしい。

多文化社会における「ポリティカル・コレクトネス」への覚悟

 「ポリティカル・コレクトネス」の「ポリティカル」は「政治的」という意味である。これは、平等社会を構築するという必須の政治課題に照らしてセーフ(correct)かアウト(incorrect)か、という意味合いを持つ言葉である。この意味に照らして、問題のビデオは「アウト」な中核事例と言える。

 とはいえ、このビデオ作品は「法的にアウト」なものではない。こうした問題は、アーティストがこれを受け止めて、今後の活動によって挽回していくことが可能なものである。こうした表現については法律による規制はなく、「表現の自由」の中で批判や指摘を受けることで「気づき」が起きることが期待されている。

 むしろ危惧すべきなのは、今回のようなことをきっかけに、クリエーターたちが論争のある歴史的テーマを忌避し、タブー化してしまう方向に向かうことである。

 どの国にも、後の歴史に大きな影響を与えた人物や出来事について、複数の観点、複数の理解がある。多文化主義的な思考が広まった現代では、アートや学術にたずさわる者は、いつでもこの衝突に巻き込まれる覚悟をしなくてはならない。

 かといって、炎上する可能性のある社会問題、歴史問題のすべてをあらかじめ知っていなくては表現活動にたずさわれないというのは、無理がある。筆者が務める美術大学の授業でも、学生の関心はこの点に集まった。

 たしかに、「炎上したらアウトだから、絶対に炎上しない題材を探す」というマインドに陥ると、表現は型にはまり、萎縮していく。対話や相互刺激によってらせん状に上昇していくべき知識とアートの連携が、逆に「負のスパイラル」に陥ってしまうのである。実際に、「あいちトリエンナーレ2019」などで起きた一連の「表現の不自由展」妨害事件や、その影響によって多くの自治体イベントで萎縮が起きたことは、記憶に新しい。私たちがとるべき方向は、その方向ではなく、歴史の中の負の側面も見据えながら、ときに「不適切」の指摘を受けて戸惑い試行錯誤をしながら、弁証法的なキャッチボールを重ねながら、ともに進んでいくことだろう。それが文化・芸術を豊かにする方向であり、「表現の自由」を守る方向である。

「表現の自由」における自由と責任のバランス


2024.8.13

猛暑の日でも気楽に行ける。都内の駅チカ美術館をピックアップ

猛暑の日でも気楽に行ける、都内の駅チカ美術館をピックアップしてお届けする。※水分や塩分補給による熱中症対策をしっかりと行ったうえでお出かけください(本稿は随時内容をアップデートしています。8月13日最終更新)。

「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」の展示風景より
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駅直結の美術館

 まずは屋外を通ることなく行ける、駅直結の美術館をピックアップ。千代田線・乃木坂駅の6出口に直結している国立新美術館では、国内外で絶大な人気を誇る女性4人の創作集団・CLAMP(いがらし寒月、大川七瀬、猫井、もこな)の史上最大の原画展「CLAMP展」(〜9月23日)が開催されている。またアートディレクター、グラフィックデザイナー、映像作家である田名網敬一の世界初大規模回顧展「田名網敬一 記憶の冒険」も要チェックだ。

「CLAMP展」の展示風景より
©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.
©C,ST/CEP
「田名網敬一 記憶の冒険」展示風景より

2024.8.13

美術品保険が担う重要性。課題は「貸し手の責任軽減」

高額な美術品に欠かせない美術品保険。その大手であるAon(エーオン)のオランダ支社ディレクターが語る、美術品保険の役割、そして課題とは?

聞き手・文=貝谷若菜

「TEFAF Maastricht 2024」より
Photo: Loraine Bodewes. Courtesy of TEFAF.
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 「私は、美術保険業界の代表者としての立場から、美術保険がアートの世界と関連していることはもちろん知っています。しかし、展覧会やアートフェアの来場者は、それらがどのような関係者の手によって開催されているのか、当然のことながら知りません。多くの場合、すべての準備は数年前から始まっているのです」。そう話すのは、アメリカ・シカゴに本社を置く国際的な保険関連企業、エーオン・コーポレーション・オランダ(Aon Corporation Nederland )のファインアート・クライアント・ディレクター、マーセル・シュロイダーである。保険会社はどのように展覧会やフェアなどのアートイベントを実現に貢献にしているのか、また、美術品保険の観点から美術館が直面する課題についてなど、この美術品保険の分野で20年近くの経験をもつ同氏にアートシーンの舞台裏について取材を行った

マルセル・シュロイダー

 美術館とともに100年


2024.8.12

夏こそ「こわい」絵で涼みたい。日本美術に描かれた「こわさ」を探る

魑魅魍魎や妖(あやかし)、死者に亡者や幽霊は、日本美術でも多く描かれてきた。ここではそんな「こわい」モチーフを描いた作品を5点ピックアップ。怖ろしいけれどそれゆえに人々を魅了する作品は、各時代の「こわい」の感覚を伝えてくれる。その想いとともに、ひととき暑さを忘れてみたい。

文=坂本裕子

『九相図巻』より 鎌倉時代(14世紀) 九州国立博物館蔵 出典=ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 

 梅雨明け前から猛暑日の続く日本列島。海水浴に花火大会、朝顔市に夏祭り、納涼の楽しみは数あれど、ちょっと変わった趣向が肝だめしではないだろうか。魑魅魍魎(ちみもうりょう)や妖(あやかし)、死者に亡者や幽霊は、日本美術の歴史においても多く描かれてきた。こうした「こわい」絵を5点ピックアップして紹介したい。怖ろしいけれどそれゆえに人々を魅了する作品は、各時代の「こわい」の感覚を伝えてくれる。作品の裏側にある物語を知って、ひととき、暑さを忘れてみてはいかがだろう。

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