戦地で新たに発見された写真 身元をたどって

戦地で新たに発見された写真 身元をたどって
和服姿でほほえむ女性の写真。

去年、日本から約3200キロ離れた島国パラオで見つかりました。太平洋戦争で亡くなった旧日本軍の兵士の遺骨とともに、土の中で眠っていました。

この旧日本兵と、写真にうつる女性はだれなのでしょうか。特定に奔走する専門家を取材しました。

(宇都宮放送局記者 梶原明奈)

激戦地で発見された女性の写真

「この写真の女性がだれなのか、写真の持ち主がだれなのか、探しています」

ことし6月、NHK宇都宮放送局を訪れた一人の男性。考古学者の山岸良二さんです。
山岸さんがかばんから取り出し見せてくれた、和服姿でにっこりほほえむ女性の写真。

日本から約3200キロ離れた、太平洋の島国・パラオのアンガウル島で去年見つかりました。
太平洋戦争中の1944年9月から10月にかけて、アンガウル島では旧日本軍とアメリカ軍との激しい戦闘が行われました。

戦闘には、おもに栃木県出身者で組織された「旧陸軍歩兵第59連隊」が参加し、約1200人いた兵士のほとんどが命を落としたとされています。
山岸良二さん
「59連隊は、多くが栃木県出身の方で構成されていたので、亡くなったこの写真の持ち主も、栃木県にゆかりがある可能性が高いと思っています」

戦地で続く遺骨収集

アンガウル島では、亡くなった旧日本軍の兵士などの遺骨収集が進められています。

この活動は、厚生労働省の委託をうけた日本戦没者遺骨収集推進協会が戦地となった各地で行っていて、専門家も同行しています。

山岸さんは、アンガウル島での遺骨収集活動におととしから参加し、年に5回ほど現地を訪れているといいます。
女性の写真が見つかったのは去年7月。

島には、米軍が旧日本軍の兵士の遺骨を埋葬した場所が複数あり、その発掘中にある遺骨の胸元から金属製のタバコケースを山岸さんが見つけました。

ケースを磨いたところ、ふたが開き、中から写真が出てきたということです。
何十年も砂地に埋もれていた写真が、顔の特徴が読み取れるほど鮮明な状態で残っていることは極めてまれで、山岸さんは、空気に触れていなかったため写真が劣化しなかったと分析しています。
山岸良二さん
「タバコケースも大切な遺品なので、きれいに磨く作業をしていたんです。するとふたが開いて、女性の写真が出てきました。これまで、タバコケースは見つかったことがあっても、中に写真があったのは初めてですし、これだけ個人の顔がはっきり残っていることはないので驚きました」

身元特定の手がかりを求めて

遺骨や遺留品は、遺族との照合などで本人と特定できれば返還されます。

写真の女性に関する情報を集めて、なんとか持ち主を特定したいと、山岸さんはまず、栃木県内の戦争や歴史に詳しい専門家のもとを訪ねました。
宇都宮市文化都市推進課 大塚雅之さん:写真のうしろに写ってるのは、なにかの木?

山岸さん:自宅の庭先の木か、なにかでしょうか。

考古学者 山野井清人さん:このころの俳優さんたちの宣伝用の写真見てると、木の下で撮るってひとつの定番ですよね。そういう取り方をする一般の方も、結構いるんだけども。

大塚さん:うしろに樹木が写っていたり、着ている和服がなんとなく当時の庶民の感じがするとなると、やはり肉親というか、関係者なのかなと思った。

山岸さん:自分の近しい女の方の写真を、他人に見せないようタバコの裏ぶたにしまっていて、自分がタバコを吸うときだけ見れるという。そんな感じになっていたかと思うと、亡くなった方の意思というか、気持ちが、しんしんと染みわたってくる。
この日に出されたおもな意見は下記でした。

▼戦前に活躍した女優に似ているが、特定するのは難しい
▼写真に使われた紙の材質は、写真に用いられる堅めの印画紙と思われ、雑誌の切り抜きなどではなさそう
▼女性の和服は、一般の人が着用するものと変わらない
▼当時の軍には、家族らとの面会日があり、写真館などで写真を撮ることもあったといわれ、兵士の家族である可能性もある

山岸さんが次に向かったのが、宇都宮市内にある陸上自衛隊の駐屯地です。
ここには、パラオなど戦地から持ち帰った遺品や歴代の幹部の名簿など、歩兵第59連隊に関する貴重な資料が残されています。

なかには、アンガウル島の戦闘の数か月前に作成されたとみられる幹部の名簿もありました。
しかし、今回の調査では、身元の特定につながるような有力な手がかりは見つけることができませんでした。
山岸良二さん
「今回は残念でしたが、残されていた資料は今後の調査の大きなヒントになると思います。身元特定につなげられる可能性は大いにあると思っています。また、女性の写真を見て、自分の近しい人に似ているという方がいましたら、かすかな情報でもお寄せいただきたいです。戦没者のご遺骨がなかなか日本に戻らない、もしくは戻せないという状況を、少しでも打破してもらいたいです」
写真をひとりでも多くの人に見てもらいたいと話す山岸さん。

女性に関する情報をもっている方がいらっしゃいましたら、NHK宇都宮放送局までお寄せ頂ければと思います。

NHK宇都宮放送局 電話:028-634-9155(平日9:30~18:00)

取材を終えて

写真の女性がもし、持ち主の肉親だったとしたら、無事に日本に帰ってくるのを待っていたかもしれない。持ち主のことを見つけてくれるのを待っていたかもしれない。

私には想像することしかできませんが、胸が締め付けられる思いです。

この写真がひとりでも多くの人の目に触れ、いつか親族の人のもとに返却されることを願っています。

そして今回、この情報を寄せてくれた山岸さんから、まだ身元が特定できないご遺骨が世界中に数多く残されていることを教えていただきました。

ことしで戦後79年となり、今を生きる私たちのなかには「戦争は自分とは無縁」と感じている人も多くいるかもしれません。

ですが、今回の写真を通して、戦時中に日本で、そして日本から遠く離れた地で、お互いを思い合っていた人たちがいたことを心にとめ、戦争や平和について考えるきっかけにしてもらえたらと思います。

(8月13日「首都圏ネットワーク」で放送)
宇都宮放送局 記者
梶原明奈
2019年入局
栃木県政を担当
戦地で新たに発見された写真 身元をたどって

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戦地で新たに発見された写真 身元をたどって

和服姿でほほえむ女性の写真。

去年、日本から約3200キロ離れた島国パラオで見つかりました。太平洋戦争で亡くなった旧日本軍の兵士の遺骨とともに、土の中で眠っていました。

この旧日本兵と、写真にうつる女性はだれなのでしょうか。特定に奔走する専門家を取材しました。

(宇都宮放送局記者 梶原明奈)

激戦地で発見された女性の写真

「この写真の女性がだれなのか、写真の持ち主がだれなのか、探しています」

ことし6月、NHK宇都宮放送局を訪れた一人の男性。考古学者の山岸良二さんです。
考古学者 山岸良二さん
山岸さんがかばんから取り出し見せてくれた、和服姿でにっこりほほえむ女性の写真。

日本から約3200キロ離れた、太平洋の島国・パラオのアンガウル島で去年見つかりました。
パラオでの戦闘の様子
太平洋戦争中の1944年9月から10月にかけて、アンガウル島では旧日本軍とアメリカ軍との激しい戦闘が行われました。

戦闘には、おもに栃木県出身者で組織された「旧陸軍歩兵第59連隊」が参加し、約1200人いた兵士のほとんどが命を落としたとされています。
山岸良二さん
「59連隊は、多くが栃木県出身の方で構成されていたので、亡くなったこの写真の持ち主も、栃木県にゆかりがある可能性が高いと思っています」

戦地で続く遺骨収集

戦地で続く遺骨収集
アンガウル島では、亡くなった旧日本軍の兵士などの遺骨収集が進められています。

この活動は、厚生労働省の委託をうけた日本戦没者遺骨収集推進協会が戦地となった各地で行っていて、専門家も同行しています。

山岸さんは、アンガウル島での遺骨収集活動におととしから参加し、年に5回ほど現地を訪れているといいます。
女性の写真が見つかったのは去年7月。

島には、米軍が旧日本軍の兵士の遺骨を埋葬した場所が複数あり、その発掘中にある遺骨の胸元から金属製のタバコケースを山岸さんが見つけました。

ケースを磨いたところ、ふたが開き、中から写真が出てきたということです。
何十年も砂地に埋もれていた写真が、顔の特徴が読み取れるほど鮮明な状態で残っていることは極めてまれで、山岸さんは、空気に触れていなかったため写真が劣化しなかったと分析しています。
山岸良二さん
「タバコケースも大切な遺品なので、きれいに磨く作業をしていたんです。するとふたが開いて、女性の写真が出てきました。これまで、タバコケースは見つかったことがあっても、中に写真があったのは初めてですし、これだけ個人の顔がはっきり残っていることはないので驚きました」

身元特定の手がかりを求めて

遺骨や遺留品は、遺族との照合などで本人と特定できれば返還されます。

写真の女性に関する情報を集めて、なんとか持ち主を特定したいと、山岸さんはまず、栃木県内の戦争や歴史に詳しい専門家のもとを訪ねました。
宇都宮市文化都市推進課 大塚雅之さん:写真のうしろに写ってるのは、なにかの木?

山岸さん:自宅の庭先の木か、なにかでしょうか。

考古学者 山野井清人さん:このころの俳優さんたちの宣伝用の写真見てると、木の下で撮るってひとつの定番ですよね。そういう取り方をする一般の方も、結構いるんだけども。

大塚さん:うしろに樹木が写っていたり、着ている和服がなんとなく当時の庶民の感じがするとなると、やはり肉親というか、関係者なのかなと思った。

山岸さん:自分の近しい女の方の写真を、他人に見せないようタバコの裏ぶたにしまっていて、自分がタバコを吸うときだけ見れるという。そんな感じになっていたかと思うと、亡くなった方の意思というか、気持ちが、しんしんと染みわたってくる。
この日に出されたおもな意見は下記でした。

▼戦前に活躍した女優に似ているが、特定するのは難しい
▼写真に使われた紙の材質は、写真に用いられる堅めの印画紙と思われ、雑誌の切り抜きなどではなさそう
▼女性の和服は、一般の人が着用するものと変わらない
▼当時の軍には、家族らとの面会日があり、写真館などで写真を撮ることもあったといわれ、兵士の家族である可能性もある

山岸さんが次に向かったのが、宇都宮市内にある陸上自衛隊の駐屯地です。
ここには、パラオなど戦地から持ち帰った遺品や歴代の幹部の名簿など、歩兵第59連隊に関する貴重な資料が残されています。

なかには、アンガウル島の戦闘の数か月前に作成されたとみられる幹部の名簿もありました。
しかし、今回の調査では、身元の特定につながるような有力な手がかりは見つけることができませんでした。
山岸良二さん
「今回は残念でしたが、残されていた資料は今後の調査の大きなヒントになると思います。身元特定につなげられる可能性は大いにあると思っています。また、女性の写真を見て、自分の近しい人に似ているという方がいましたら、かすかな情報でもお寄せいただきたいです。戦没者のご遺骨がなかなか日本に戻らない、もしくは戻せないという状況を、少しでも打破してもらいたいです」
写真をひとりでも多くの人に見てもらいたいと話す山岸さん。

女性に関する情報をもっている方がいらっしゃいましたら、NHK宇都宮放送局までお寄せ頂ければと思います。

NHK宇都宮放送局 電話:028-634-9155(平日9:30~18:00)

取材を終えて

写真の女性がもし、持ち主の肉親だったとしたら、無事に日本に帰ってくるのを待っていたかもしれない。持ち主のことを見つけてくれるのを待っていたかもしれない。

私には想像することしかできませんが、胸が締め付けられる思いです。

この写真がひとりでも多くの人の目に触れ、いつか親族の人のもとに返却されることを願っています。

そして今回、この情報を寄せてくれた山岸さんから、まだ身元が特定できないご遺骨が世界中に数多く残されていることを教えていただきました。

ことしで戦後79年となり、今を生きる私たちのなかには「戦争は自分とは無縁」と感じている人も多くいるかもしれません。

ですが、今回の写真を通して、戦時中に日本で、そして日本から遠く離れた地で、お互いを思い合っていた人たちがいたことを心にとめ、戦争や平和について考えるきっかけにしてもらえたらと思います。

(8月13日「首都圏ネットワーク」で放送)
宇都宮放送局 記者
梶原明奈
2019年入局
栃木県政を担当

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