婚活イベントへの参加を主催者から断られた…どうして? 知的障害があることを伝えた契約社員男性のショック
2024年8月11日 06時00分
東京都のウェブサイトに掲載された民間の婚活イベントに申し込んだ軽度知的障害の40代男性が7月、参加規約の「心身ともに健康」に適さないとの判断や運営側の態勢を理由に、参加を断られた。法律や都条例で事業者に義務づけられている、負担が重すぎない範囲で障害者の申し出に応じる「合理的配慮の提供」に反する恐れがある。(奥野斐)
◆東京都運営の結婚支援サイトで紹介されていたイベント
「参加できないとは思わなかった。傷つきました」。都内で会社員として働く男性はそう話し、うつむいた。軽度の知的障害があるが、養護学校(現特別支援学校)を卒業し20年以上、契約社員として働き、都内で1人暮らしをしている。女性との交際経験もある。
「結婚して、家族がほしい」と考え、都が運営する結婚支援のサイト「TOKYOふたりSTORY」で見つけた婚活パーティーに「勇気を振り絞って」申し込んだ。一度は受理されたが、知的障害があることを主催者にメールで伝えると「参加者は規約上、心身ともに健康な方が対象となります」とキャンセルの返信が届いたという。
◆「いたって健康なのに…」
「僕もいたって健康なのに…」と男性は話し「都のサイトに出ている情報だから安心していた。障害のある人も受け入れてもらえるイベント、社会になってほしい」と願う。
主催する民間団体の代表は取材に「『心身ともに健康』な方という規約に適さないと判断した。庭園散策もあるため、持病やけがのある方もお断りしている」と説明。障害の有無を伝えなかったら参加できたかとの問いに「できたかもしれないが、これまで問い合わせはない」と答えた。
団体には、障害者が参加できる婚活イベントの開催要望もあるという。「障害などにかかわらず参加してもらえるのが理想だが、対応できる態勢を現状は整えられない」とも明かした。
◆障害を理由とした差別を禁止する東京都「主催者の判断」
都は2018年10月に障害者差別解消条例を施行。障害を理由とした差別を禁止し、障害者の申し出に負担が重すぎない範囲で対応する「合理的配慮」の提供を、国に先駆けて事業者に義務付けた。都の結婚支援サイトは18年に開設し、都の施策に合致した官公庁や民間団体などのイベントを無料で掲載している。
都の結婚支援を所管する大森有一・都民活躍支援担当課長は「イベント参加の可否は主催者の判断になる。事実確認はしたが、さらに問題があれば今後の対応を検討する。都の主催事業では、障害だけを理由に参加できないことはない」と語った。
◆知的障害の有無と心身の健康とは関係ない
東京家政大の田中恵美子教授(障害学)の話 そもそも知的障害の有無と心身の健康とは関係ない。障害者差別解消法が求める合理的配慮は、どのような対応が必要かを個別に聞くことから始まる。双方の「建設的対話」が重要だ。
事情を聴かずに参加を拒むのは、事業者が合理的配慮を提供する気がないと受け取られても仕方ない。要望を聞いた上で対応できないなら、説明すればいい。
交際や結婚は人々の差別意識が出やすい場面で、障害が周囲からの反対を招き、結婚の妨げになるケースはある。だが、障害のある人をどうとらえるのかは参加者が決めることで、出会いの機会は平等に提供されるべきだ。
結婚支援で障害者の参加が想定されていなかったのかもしれないが、今後は障害に限らず、多様性を考慮した場の提供を前提とする必要がある。多様性と共生を掲げる東京都の姿勢として、差別や排除につながる事業には指導するべきではないか。
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◆婚活に限らず、イベント参加を断られてしまう
東京都のウェブサイトに掲載された民間の婚活パーティーへの参加を、軽度の知的障害のある男性が「心身ともに健康」という参加規約に適さないとして断られた問題。障害者の生活支援に詳しい専門家は「知的障害と心身の健康は関係がない。合理的配慮を提供しようとしない姿勢は問題」と指摘する。
「障害のある人にとって、婚活イベントに申し込むこと自体、ハードルが高く、参加拒否に遭っても表に出にくい」。知的・発達障害者や家族を支援する「全国手をつなぐ育成会連合会」(東京)の又村あおい事務局長が語る。
婚活に限らず、飲食店の利用や同伴者なしでのイベント参加を断られたとの声が、会に寄せられているという。親と同居している障害者の場合、家族が本人の行動を把握し、事前に止めることもある。
又村さんは「過去に嫌な思いをして自己肯定感が低い人も少なくなく、婚活には特に挑戦しづらい。特別支援学校などでの少人数の教育環境や支援の手厚さが逆に、障害者の出会いや交際を遠ざけてしまう現実もある」と説明する。交際や結婚につながる出会いが少なく、出会い系アプリなどに多額を投じてしまうトラブルもあるという。
安心して参加できる、公的な出会いの場の提供を求める声も寄せられる。又村さんは「参加規約が妥当だったのか。次に同じようなケースが起こらないよう、規約や、都のサイトへの掲載条件も検証してほしい」と話した。
障害者差別解消法 2016年4月施行。障害を理由とした不当な差別を禁止し、障害者の申し出に応じ、負担が重すぎない範囲で対応する「合理的配慮」を国や自治体に義務付けた。24年4月、義務の範囲を民間事業者にも拡大。違反しても直接的な罰則はないが、行政機関が必要な場合に事業者に報告を求め、助言、指導、勧告ができる。
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