あした.05【前編】
御曹司×元令嬢(蒼操)
先生×生徒(剣薫)
※現パロ注意※
約束していた旅行編。
7~8月頃。
新たに登場した人達と絡めたくて思いついたのですが、恐ろしく長くなってしまいました…。
前中後編で纏められたらと考えてましたが、前編にあたる栄次くん編がそもそもまだ終わっていないのです…もしかしたらもっと長くなるかも。汗
最後までお付き合い頂けましたら嬉しいです。
人物紹介はこちら【あした.00】novel/4506144
※時尾さんが出てきますが、基本的にそらまめは史実を知りません。
なので原作の「出来た女・菩薩・家内」というキーワードで書いた、ほとんどオリジナルキャラのようなものです。苦手な方はご注意下さい!
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書斎に籠る主に出す珈琲を持って部屋へ向かう。
近頃立て込んでいた仕事は未だ片付かないらしい。
家に仕事を持ち込んでも主が書斎に籠るのは珍しく、それは"仕事中だから構うな"という無言の拒絶である。
人を寄せ付けない雰囲気に誰もが萎縮して、自然こうして主である蒼紫に休憩を促す役目は般若に回ってきていた。
放っておけば体を休める事も忘れて没頭するので、多少強引でも休憩を取ってもらいたい。
ノックをする。しかし返事がないのはわかりきっているので、少し不躾ながら返事を待たずに入室する。
こちらに顔を上げもしない蒼紫は、やはり構うなという雰囲気を纏っていた。
「蒼紫様、少し休憩なさっては?」
「………」
返事はない。
カタカタカタと静かな部屋にひっそりキーボードを打つ音だけが響く。
仕方ないので早々に切り札を出す。
「操様からです」
カチャリとカップが音を立てる。
珈琲に添えて出したのは、一口サイズの小さなチョコレートだった。
蒼紫は聞こえてきたその名前に反応を示すように漸くふいと顔を上げた。
「…操から?」
PCを触っていた手を初めて止めて、その小さな包みをまじまじと見る。
その様子に般若は苦笑した。
「最近蒼紫様が根を詰めておいでなので、とてもとても…それはもう心配していらっしゃいますよ。疲れた時には糖分を摂って欲しいからと、託されました」
操が心配しているのは事実だが、般若は少し脚色を加えて大袈裟に言う。
こうでもないと中々体を休めてくれないのだと承知していた。
こうして書斎に籠って長時間仕事をする時に眼鏡をかける蒼紫は、それをはずして片手で目頭を押さえた。
ふう、と息を吐いて休憩の姿勢を取ったのを確かめて般若は話し出す。
「難航しているようですね」
「…ああ」
今、蒼紫が抱えているのはとある企業との提携交渉だ。
あまり大きくはないが、蒼紫は以前から注目している。
柏崎グループに取り込められれば強みになるはずだ。
先見の目を持つ蒼紫だからこそ、その企業との提携を考えたのだが周りの役員はそれを良しとはしなかった。
日本に帰って来た蒼紫は翁の鶴の一声で役職についていたが、いくら柏崎グループの身内とはいえ突然やってきた若造を認めたくない連中も多い。
そういった経緯もあって蒼紫は今回の提携を何としても成功させたいのだ。
「なかなか手強い相手だ」
相手は蒼紫の予想通り有力企業ではあるがやはり一筋縄ではいかなかった。
明日からは操と約束していた旅行のはずだったが、それも半分は仕事に潰されそうだ。
相手側の都合で向こうで商談する事になっている。
幸か不幸か、仕事を兼ねていたので旅行には一週間の期間が取れている。
操は説明すると理解してくれたのだが、やはり寂しい思いをさせてしまうだろう。
それなのにこうして気遣いを見せてくれるあたり、頭が上がらないなとつくづく思う。
そしてふと思い出す。
「そういえばあいつも初日は仕事だったな…」
どうしても都合がつかなかったらしい。
今回共に旅行へ行くはずのもう一人の男から“あとから合流するのでくれぐれも宜しく頼むと”連絡が入ったのは昨日の事だ。
普段ゆっくり過ごす事が出来ない相手との時間のために頑張っていた操達には、無粋な事をしてしまった。
相手の薫も納得してくれているとは言っていたが全くいい歳した男が二人、揃いも揃ってこの体たらくとは…。
「何か穴埋めを考えてやらなければな」
そう呟いてチョコを口に入れると、再び眼鏡をかけてキーボードに手をかけた。