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「新型コロナウイルスは武漢の研究室でつくられた」 英米で報道された新証拠

谷口恭・谷口医院院長
フェンスに覆われた華南海鮮卸売市場の入り口=武漢市で2020年7月13日、工藤哲撮影

 新型コロナウイルスの起源に関して、中国当局は流行が始まった2020年の当初、「武漢の華南海鮮卸売市場で売られていた動物が原因と考えられる」と発表していました。一方、「武漢の研究室でつくられた生物学的兵器が漏れたのではないのか」という疑惑が当初からあり、トランプ米大統領(当時)は同年4月17日、「(武漢研究所でコロナウイルスを使った生物学的兵器の開発が進んでいたという前提で)その武漢研究所にオバマ前米大統領の失策で米国から不当な送金(資金援助)がされていた」と発言しました。その後世界保健機関(WHO)は「新型コロナウイルスが武漢研究所から漏えいした可能性は低い」との見解を発表しましたが、世界のメディアは研究室漏えい説を支持する記事を度々報じていました。そして、24年5月15日、米保健福祉省(U.S. Department of Health and Human Services=HHS)はついに「武漢研究所に送金していた非政府組織「EcoHealth Alliance(エコヘルス・アライアンス)」への連邦補助金のすべてを停止し研究所としての資格を剥奪する」と発表しました。今回は武漢研究室漏えい説について、これまでの流れをまとめてみたいと思います。

研究資金を巡る「トランプ発言」

 まず、なぜ米国の非政府組織が中国の研究所に資金援助をしていたのか、その背景から振り返っておきましょう。

 02年に香港を中心に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)は比較的短期間で収束したものの、治療薬が開発されたわけではなく、再び同じウイルスが、あるいは似たウイルスが発生してもおかしくない状況が続いていました。これは中国のみならず、世界的な脅威でもありました。そこで、米国立衛生研究所(NIH)はSARSやコウモリが媒介する他のコロナウイルスが発生するリスクを研究するため、米国の非政府組織エコヘルス・アライアンスに2014年から5年間で総額375万ドルの助成金を授与しました。そして、その助成金の一部が「武漢ウイルス研究所」に資金援助されました。

 そのような状況のなか、19年12月、新型コロナウイルスが武漢で発生しました。中国政府は「起源は華南海鮮卸売市場と考えられる」と発表し、20年1月1日、その市場を封鎖しました。生鮮市場ではコウモリを含む生きた生物が取引されていましたから「海鮮市場起源説」は世間からすんなりと受け入れられました。

 ところが、実際にはその市場に近づいていないのに新型コロナを発症した人が大勢いることが分かり、市場起源説に疑問が投げかけられました。最初に新型コロナを発症した日本人についても「この海鮮市…

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谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。谷口医院ウェブサイト 月額110円メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。