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化物が人間の赤ん坊を連れさり、代わりに化物の子供を残していく、という伝承がヨーロッパの各地にある。人間のもとに残された化物の子供を"Changeling"という。"Changeling"は醜悪な外見と性格で、激しい癇癪をおこし、往々にして大食だったそうだ。

私は神経質で怒りっぽく、感情を抑えることが困難だ。子供の頃はそれこそ病的な癇癪を起こすことも多々あった。そしてご存知のとおり、食べることに対して貪欲だ。

私は"Changeling"だったのかもしれない。
伝承によっては"Changeling"は人間の子供より高い知能を持っていることもあるという。

父親が競馬新聞を読み、母親がワイドショーを見る家に、ドストエフスキーを読む子供は育たない、なんていう話がある。教育水準が家庭環境に左右されるのは当然のことで、世帯収入が知的水準に比例するのは統計的な事実でもある。

父が存在せず、母が帰らない家で育った私はしかし、なぜだかドストエフスキーを読むような子供に育った。
種違いの兄は定時制高校に通い、暴走族になった。家出を繰り返し、ろくに勉強しない私はそこそこの進学校に進んだ。
何人か友人もできたが、それでも「こいつらは俺と違う」という思いが常にあった。多くの同級生は「まとも」な家庭の子供だった。

勘違いしないで欲しいが、兄は情が深く、人間味のある全うな人間だ。
高校生の頃から仕事はしっかりしていたし、頭の回転も悪くはない。ただ生まれた家が不幸だった。
私のちょうど１０コ上の兄は、私の実の父と、それから母に、虐待されていた。私が生まれる前の話だ。

伝承では、本当の子供を返してもらうには、"Changeling"を冷酷に扱うのが良いらしい。


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