キャリートレード解消、市場に抜き難い不安残す-落ち着き取り戻すも
Matthew Burgess、Maria Elena Vizcaino、Vinicius Andrade- 円急伸受けてトレーダーはローン返済のために資産売却を急ぐ
- 世界的な市場混乱、日本の低金利継続を頼りにしたリスク露呈

今となっては、今月5日の世界的な市場混乱はどちらかと言えば、日本銀行の小幅な政策転換と米国のリセッション(景気後退)懸念の再燃によって引き起こされた短期的な動揺、つかの間のパニックのように見える。
しかし、これほど急に動揺が生じ、素早く収束したのは、ヘッジファンドが世界のほぼ全域での賭けで、何千億ドルもの資金を投じるのに利用する戦略に対し、市場がいかに脆弱(ぜいじゃく)であるかをさらけ出すものだ。
円資金のキャリートレードは簡単に利益を得られる確実な方法だった。世界最後の低金利資金供給源である日本で資金を借り入れ、利回り10%超のメキシコ債券や高騰するエヌビディア株、あるいは暗号資産(仮想通貨)ビットコインに資金をつぎ込むだけだった。円安が続けばローンの返済コストはさらに低下し、その見返りはそれだけ大きくなった。
その後、投資家は一斉にこの取引から手を引いた。円相場は猛烈な反騰を見せ、トレーダーたちは追加証拠金に対応するために資産を売却し、株式や他の通貨から急速に資金が流出した。日本の株式市場も動揺し、円の急激な上昇が輸出企業に打撃を与えるとの懸念から、1日としては1987年以来最大の下げを記録した。
ジョーンズトレーディングの上場投資信託(ETF)責任者デーブ・ルッツ氏は「円キャリートレードは現在も市場の全ての震源地だ」と言う。
キャリートレードの人気スポットが失速し、ナスダック100指数が最高値から反落、米金融当局が金融引き締めを長期化させ過ぎているとの懸念も強まっていたことから、数週間前から市場への圧力は高まっていた。
そんな中、日銀の追加利上げが飛び込んできた。日銀の政策金利はまだわずか0.25%で先進国で最低水準だが、先月末の引き上げは、日本の金利は常にゼロ近辺にとどまるという長年の信念を投資家に再考させるに十分なものだった。
Yen Funded Carry Trades Have Capitulated
Yen-funded returns have given up most of the year's gain
Source: Bloomberg
Note: Figures represent the cumulative total return of eight EM currencies -- BRL, MXN, INR, IDR, ZAR, TRY, HUF, PLN -- that are short JPY, CNH or USD
市場は落ち着いたとはいえ、今回のエピソードは、新型コロナウイルス禍後の物価高騰の中でも日銀が資金を供給し続けたことで、日本に絡んで積み上がったレバレッジについて警鐘を鳴らすものだ。不安なトレーダーらは巻き戻しが終わったのか、それとも今後数週間も市場に波及し続けるのかを見極めようとしている。
答えを見いだすのは難しい。キャリートレードにどれだけの資金が絡んでいるのか、公式な推計がないためだ。グローバルデータTSロンバードによると、キャリートレードには約1兆1000億ドル(約161兆円)が投じられていた。これは、2022年末以降の外国勢の日本での借り入れが全てキュリートレードのファイナンスに使われ、国内投資家が外国資産購入にレバレッジを活用したとの想定に基づく。
先週の劇的な巻き戻しの後、JPモルガン・チェースのストラテジストは、世界の通貨キャリートレードの4分の3が解消されたとの分析を示した。シティーグループのストラテジストらは、現在のポジション水準は「危険ゾーン」を脱したと指摘した。
JPモルガン「キャリトレ75%解消」年内の米景気後退確率35%に上げ
しかし、BNYメロン・キャピタル・マーケッツのように、巻き戻しはさらに進む余地があり、円相場が1ドル=100円を目指す可能性があるとする見方もある。
ロンドンのスタンダード・バンクでG10戦略を担当するスティーブン・バロー氏は先週の顧客向けリポートで、「キャリートレードの巻き戻しはさらに進みそうだが、このバブル崩壊の最も重大で破壊的な部分はもはや過去のものとなった」としている。
Risk Rewards Deteriorate for Yen-Funded EM Carry Trades
Source: Bloomberg
Note: EM currencies are those of Brazil, Mexico, India, Indonesia, South Africa, Turkey, Hungary and Poland
円が数十年ぶりの安値水準から急反発し始めたのを受け、トレーダーがキャリートレード解消で利益を確定し、借り入れた円資金返済のための投資家による買いで円がさらに押し上げられ、フィードバックループが形成された。
日銀が7月31日の金融政策決定会合で今年2回目の利上げを決め、その後、8月2日に発表された7月の雇用統計が予想よりも弱い内容だったことで、米金融当局が政策方針転回で後手に回っているとの懸念が浮上し、こうした流れは加速した。
日経平均株価が5日に12%安となった後、日銀の内田真一副総裁は7日、金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはないと述べ、投資家に安心を呼び掛けた。市場は安定を取り戻し、ヘッジファンドの間では円への強気が幾分後退した兆候が見られる。
最近の潮流変化を背景に、円資金のキャリートレードは少なくとも一時的には沈静化した可能性がある一方、トレーダーは外国為替市場で年内にさらなるボラティリティーの高まりを見込んでいる。
新興市場8カ国通貨をターゲットとした円キャリートレードのキャリー・トゥー・リスク比率は先週、約1年ぶりの低水準に落ち込み、この戦略のリスク・リワードが悪化したことが、ブルームバーグ集計のデータで示唆された。
ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏は「永続する取引はない。そして現実が変わった」と指摘。「日銀が引き締めて何かが壊れた。今回の場合、キャリートレードだ」とコメントした。
原題:Carry-Trade Blowup Haunts Markets Rattled by Rapid-Fire Unwind(抜粋)