「カササギ殺人事件」の感想を好き勝手書く
最近集中力がなくて長いものを読めないのだけど、あまりに評判がいいし古めかしいタイプのミステリが好きなので買って読みました。
上下巻です。
作中作もののミステリで、アラン・コンウェイという作家の書いた大人気シリーズである「アティカス・ピュント」ものの九作目「カササギ殺人事件」の原稿を主人公である編集者が読むところから話が始まります。
この作中作がクリスティっぽい古典的なミステリでめっちゃ面白いんですよね。そしてとてもいいところで上巻が終わって、すぐに手に取った下巻は初めからものすごい展開になります。上巻はゆっくりゆっくり読んでいたんですが、下巻はほぼ一日で読み切ってしまいました。そのぐらい先が気になる。
あと実在の人物とか会社とかがぼんぼん出てきてすごい有名人がアティカス・ピュントものをほめたりしているので相当作中作に自信ないと出来ない代物で、それが実際面白いのですごい。
そんなわけであっという間に読み切ってしまいました。
この先はネタバレしまくりの感想なので気をつけてください。
正直結末が読んでる途中の面白さからしたらちょっと肩透かしって感じだったんですよね。作中の「カササギ殺人事件」がすごく面白いので、あれを従とするなら主の下巻部分はもっと大掛かりな仕掛けがあってほしかった。コンウェイがアティカスに思い入れないのは最初から明白なんで、あの秘密の内容はともかく憎んでいたことには特に意外性もないし……。
作り物めいたアティカス・ピュントもの、というかミステリ自体のアンチみたいな刑事の言葉があったわりに下巻の殺人事件もすごいミステリっぽい文脈の中で解決してしまうのも意外でした。なんかもっと外側の事件であることを利用した何かが……あるのかと……。
そしてそういうミステリ的文脈によって解決されるのならコンウェイが子供の頃に撮っていた写真とかについてもちゃんと書いておいてほしかったです。なんか解決してないこと多くないですか。
そもそもあんなところで切れてる原稿見せたら編集者が必死で続き探すに決まってませんか? なんでそこで切るんだ……。
これは作中作もの全体の問題なんですけど、ああいう長い作中作を書くと作中の作家の個性ではなく作者自身がにじんできませんか? 「カササギ殺人事件」、あれミステリを憎んでるような人間が書けますかね……。あと「滑降」、そこまでつまらないですか? 売れはしないけど読みたい人間は普通にいそうでは。盗作された素人作家の文章(なぜかここがめちゃくちゃ読みにくく感じた。内容がほぼ同じで書き方が全然違うから脳内の文脈がぐちゃぐちゃになったのか?)に比べたらしつこいけど全然読めるし……。
とにかく「私は何かを読み落としたのか? それとも読み方を間違えているのか?」という読後感でした。
あとこれは完全に自分の好みなんですけど作中作の探偵と助手の関係が作家と愛人の関係をトレースしてるなら探偵と助手にももっとなんかにじませるものがあったらいいのになって……これは完全に好みですね……完全な好みだ……。でも作中の二人が全然艶っぽくないから外側の方の二人の関係も嘘なんか? って思っちゃったんですよね。
これも好みの問題ですけど作中の「カササギ殺人事件」、面白いんですけどクリスティ的過ぎてクリスティならもうちょっと食べ応えのある読後感だっただろうなって思ってしまって……クリスティなら読んでいて読者がジョイに幸せになってほしいなって感じに書くと思うんですよね……そういうのがクリスティは天才的にうまい……うまいんだ……ミステリの意外性と読後感のよさの両立が……。だからクリスティはあれだけ多くの人に読まれたんだと思いますね……。
と文句ばっか言ってますけど、すごく楽しめましたし読んでよかったです。あまりにもあまりにもミステリなのでなんだか自分の中のちょっと弱まっていたミステリ好き魂を刺激されました。単純な面白さとか好みだけじゃなくそれがすごく体験として楽しかったです。
私はミステリを読むぞ!!!
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