放送内容
- ■まとめ記事
■まとめ記事
(2023年9月24日の放送内容を基にしています)
<冤罪はなぜ止められなかったのか>
2023年6月30日東京地裁。その瞬間、法廷に詰めかけた人たちは、みな息をのんだ。
(証人調書より抜粋)
原告側弁護士「事件をでっち上げた__というふうに言われても、否めないんじゃないかなと」
捜査員「まあ、ねつ造ですね。捜査員の個人的な欲というか、動機がそうなったんではないか」
現職の警視庁捜査員が、自ら担当した事件をこう振り返った。
事の発端は3年前。中小企業の経営者ら3人が警視庁公安部に逮捕された。軍事転用可能な機械を中国に不正に輸出したという容疑だった。
容疑を否認した3人を待っていたのは、1年近い長期勾留。1人は無実を訴えたまま、勾留中に見つかった病で亡くなった。
事件の摘発は、国の経済安全保障の取り組みとして警察内部で高く評価されていた。
しかし、事態は思わぬ展開を見せた。逮捕から一年半後、検察が起訴を取り消した。
事件は「冤罪」だったのだ。
大川原化工機・社長/大川原正明さん「謝りもしない。申し訳ないとか、そういう話も何もない。相嶋さんの無念さというか。どうしてくれるんだというか」
<つまずきの始まり>
横浜市にある機械メーカー大川原化工機。従業員約90人が働く中小企業だ。
先月(2023年8月)、これまで公にしてこなかった、ある手紙の撮影が許された。
大川原正明さん「ちょうど私が東京拘置所の中に入っていて、弁護士さんから『内部告発の手紙が来たよ』って。そりゃ、警察からというのでまず驚いた」
起訴後の勾留の最中に届いた警察関係者からの内部告発だった。
「匿名での文章で大変申し訳ありません。
地方公務員法に抵触する恐れがあることから、本名を明かさず、文面にて連絡させていただきます。
単刀直入に記しますと、警察側に『A』という捜査員がおり、貴社へも何度か出入りしていると記憶しています。彼は貴社側に立った見解を持っており、警察組織の意向とは関係なく、自分の意見を貫くタイプの人間です。
貴社に有益かつ警察側に不利益となる情報が明らかになると確信しています」
大川原正明さん「これはすごいなって思いました。ある意味、警察の捜査がおかしかったって言ってくれているわけです」
逮捕容疑はこの会社の主力製品、噴霧乾燥機と呼ばれる機械の不正輸出だった。
噴霧乾燥機は液体を粉状に加工する機械。機械内部に液体を噴霧し、そこに熱風を加えることで急速に乾燥させる。
粉ミルクや医薬品の製造などに利用され、乳酸菌など一部の菌は生きたまま粉状にすることもできる。そのため、有害な菌を粉にした生物兵器の製造に転用される恐れがあると疑われた。
大川原正明さん「感染性のあるような毒物、危険性のあるものはやれない。粉がふぁっと出てきちゃって、周辺の人が感染しちゃう。危なくてやれないですね」
捜査は警視庁公安部の中でロシアなどの諜報活動を取り締まる外事一課が担当。不正輸出を捜査する第五係が中心となった。管理官や係長ら捜査幹部が、警部補など約20人の捜査員を指揮していた。
公安部の中でいったい何が起きていたのか。起訴取り消しの後、社長らは損害賠償や事実の解明などを求めて、東京都と国を訴えた。
2023年6月、その裁判に当時の捜査関係者が出廷し、証人尋問が行われた。証言台に立った、当時の第五係の捜査員ら。そのうち2人の警部補があの内部告発の手紙とも符合する、捜査批判を繰り返したのだ。
(証人調書より抜粋)
警部補X「幹部がねつ造しても、その上には指揮監督する者は何人かいたわけですから」
警部補Y「マイナス証拠もちゃんと反証することをしていれば、こういうことは起きなかったと思います」
裁判には、事件に関わった経済産業省の担当者や検察官らも出廷。これらの証言と、独自に入手した資料などを元に「冤罪」の背景を追うことにした。
今回検証したのは捜査が始まった2017年春から、3人が起訴された2020年3月までの3年間。まず注目したのは内偵捜査が始まった2017年。第五係が経産省と行った13回の打ち合わせだ。
輸出する製品が規制に該当するのか、その要件を定めるのは経産省の役割だ。
(証人調書より抜粋)
国側代理人「(公安部からは)どのような内容の相談だったか覚えていますか」
経産省・課長補佐(安全保障貿易管理課)「はい。大川原化工機さんが不許可輸出をしているのではないかという疑いを持っているので、それについて御相談をいただきました」
噴霧乾燥機の輸出規制の要件を定めた経産省の省令。その一文、
「定置した状態で内部の滅菌または殺菌をすることができるもの」
これは菌を粉末にした後、内部に残った菌を殺滅(さつめつ)、つまり無害化できる性能を意味する。
生物兵器を作る際、作業員に危険が及ばないことが軍事転用を可能だとする、条件の1つとされる。
ところが、この「殺菌」という言葉の解釈が問題となった。
もともとこの規制は、日本も参加する国際的な枠組みで合意されたものだ。「殺菌」は、そこで合意した英文「DISINFECTED」を日本語にする際あてられた言葉だ。本来「DISINFECTED」は、「消毒」と訳され、化学薬品を使って菌を殺滅するという定義がある。
特殊な装置がついた噴霧乾燥機は、化学薬品を投入することで機械内部の菌を自動で殺滅、つまり消毒することができる。
しかし、大川原が輸出した機械にはこうした特殊な装置はついていなかった。
後に逮捕された元役員・島田順司さんは、10年前の規制導入前後から経産省に協力し、機械の視察などを受け入れてきた。その際、規制の対象となる機械についても担当者とやりとり。海外の具体例を示されていた。
元海外営業担当役員/島田順司さん「『内部に噴霧システムが装備されているもの』、『洗浄液が投入できて、disinfect、消毒ができる』と書かれてる。生物兵器に使われるような機械は、私どもは輸出しないし作らない。そういう思いでずっと貿易やってきました」
しかし、第五係は独自の解釈を打ち出した。
省令にある「殺菌」という言葉には「消毒」と違って、菌を殺す具体的な方法は規定されていない。
そこで第五係は、噴霧乾燥機にもともと備わる熱風を出す機能に注目。この熱で有害な菌(省令に規定された細菌)を一種類でも殺滅できれば、消毒機能などがなくても規制に該当すると考えたのだ。
当初、経産省の担当者はこの解釈に難色を示していた。入手したメール記録には省内で協議したとみられる内容が記されている。
(経産省・上席検査官のメール)
「殺菌について、一般的/標準的な定義や解釈がないようで、この部分については、現状、悩んでいる状況です」
熱風で「殺菌」可能とすれば、ほとんどの噴霧乾燥機が規制の対象となる。こうした解釈を、これまで事業者に示したことはなかった。
(証人調書より抜粋)
経産省/上席検査官「非該当の可能性を(警察に対し)かなり多く申し上げたように思います。ちょっと待ってくださいといいますか、少しまだ確認の途中ですので、クールダウンしていただくとか」
なぜ第五係は、独自の解釈で事件化することにこだわったのか。
今回私たちは、複数の警察関係者に接触。絶対匿名を条件に、詳細な証言を得た。
警察関係者の証言(取材メモより)
「不正輸出を専門とする第五係は、近年目立った成果が上げられていない。第五係幹部は『このままでは人員を減らされ縮小させられる』、『経産省に殺菌概念がないと言わせるな。経産省がそれを言ったら事件は終わり』と言っていた。無理筋だと思うところもあったが、組織内の筋を通して『これをやれ』と言われれば従わざるを得ない」
経産省側との協議がこう着する中、第五係が曲解ともいえる文書を作成していたことが取材で判明している。
防衛医科大学校の四ノ宮成祥 学校長。微生物学の権威として、捜査員から複数回意見を求められた。捜査員に強調したのは“殺菌”という言葉の曖昧さ。規制対象が広くなり過ぎると、懸念を伝えたという。
防衛医科大学校/四ノ宮成祥 学校長「“殺菌”と、ここで書かれていると、言い方は悪いですけど、『何でもあり』ということ」
この聴取を担当したのは警部補Z。ところがZがまとめた報告書には、こうした懸念は記されなかった。書かれていたのは、四ノ宮さんとは真逆の意見。
(四ノ宮氏の聴取結果報告書)
「熱風で一部の菌を死滅させられれば、全ての機械が規制に該当する」
第五係の解釈に近い内容が、四ノ宮さんの見解として記されていた。
防衛医科大学校長/四ノ宮成祥さん「結論ありき、逮捕起訴ありきで、そちらの方向に向かって、都合のいい結論にしてしまったっていうことなのかなと」
4ヶ月もの間、平行線をたどった打ち合わせ。ところが、ある日を境に経産省が強制捜査を許容する姿勢に転じたという。
(証人調書より抜粋)
原告側弁護士「(経産省の姿勢は)いつ変わったんですか」
警部補X「2月8日です。ガサ(強制捜査)はいいと」
原告側弁護士「経産省から何か(理由や背景の)説明はなかったですか」
警部補X「ありました。(警視庁)公安部長が動いたと聞いていると」
打合わせで「公安部長が動いた」と発言したとされるのは、経産省の課長補佐。
(証人調書より抜粋)
原告側弁護士「(公安部長が動いたと)あなたの口から説明されたっていう、そういう証言が先週あったんですけど」
経産省/課長補佐「あったかなかったで言うと、分からないです」
この発言の真意はどこにあるのか。本人に取材を申し入れたが「裁判以上のことは答えられない」と回答しただけだった。「動いた」とされた当時の公安部長。取材を申し込んだが、コメントする立場にないと繰り返した。
裁判で被告東京都は、次のように主張している。
東京都(警視庁側)「X警部補は、公安部長が具体的にどう動いたのか証言できていない。公安部長の働きかけにより、経産省の解釈が変更となった事実など無いことは明らかだ」
その後、第五係は独自に実験を重ね、熱風で殺菌可能と主張する資料を経産省へ提出。そこには、あの「曲解」ともいえる報告書も含まれていた。
それに対し経産省は「これら資料を前提とすれば」、輸出規制に「該当すると思われる」と回答。
これが大川原に対する強制捜査への道を開くことになる。
<止まらない見込み捜査>
経産省の回答の2ヶ月後、警視庁公安部は大川原本社や社員らの自宅などを一斉に捜索。大量の資料を押収。さらにその2ヶ月後、社長をはじめ、50人以上に対する任意の事情聴取を開始。1年あまりで延べ、300回近い聴取に会社は協力した。
事情聴取が始まった当初、島田さんは警部補Zから思わぬ話を聞かされた。
元海外営業担当役員/島田順司さん「『中国のあってはならない所に、うちの機械があったから捜査している』と言われたんです。われわれの装置が生物兵器製造場所で使われているんじゃないかと思い、これは大変だと思いました」
指摘を受け、会社は中国にある自社製品の所在を全て確認したが、軍事利用された事実はみつからなかった。念のため、詳細な納入先のリストを警部補Zに提出し確認を求めた。
島田順司さん「この中のどこにあるのか教えてください、と。そしたら急に『いや、そうは言っていない。いま捜査している段階なんだ』と言われて」
警視庁公安部は、中国の軍需産業への技術流出を懸念していたという。当時、捜査を推し進めた、公安部の幹部は、こう語る。
警視庁公安部 元幹部の証言(取材メモより)
「警察としては噴霧乾燥機という機器は、軍事転用も可能なデュアルユース(軍民両用)の製品だと捉えていた。技術を中国に持って行かれたり、さらにはイランとか北朝鮮などの国家に製品が行ったりしてしまうことを防ぐというのが捜査の目的だった」
当時、第五係が作成したと見られる内部資料には、大川原の輸出先や提携先と中国の軍需産業とのつながりを調べていたことがうかがえる。
島田さんが警部補Zによる事情聴取を録音した音声。
警部補Z「はっきり言っちゃうと、ここ(大川原の合弁先の親会社)は中国におけるバリバリの軍事の組織です」
島田氏「それはユーザーリスト(経産省の懸念先)に載っているんですか」
警部補Z「ユーザーリストに載ってなくても、完全にバリバリですね」
取材に応じた警察関係者は、こうした疑念は根拠が薄く、後付けの理由に過ぎなかったと話した。
警察関係者の証言(取材メモより)
「ガサ(強制捜査)で徹底して調べたが、軍事転用など問題となる事実は無かった。国のため、大義があるという思い込みが、手段を選ばない捜査に傾く一因となる。無理筋でもガサまでやるというのは、これまでもあった。ここまでは仕方ないという思いもあったが、何も出なければ“目が覚めるだろう”と思っていた」
しかし、捜査は止まらなかった。
警察関係者の証言(取材メモより)
「第五係幹部らは『お前の“できません”のひと言でダメにできる案件じゃないんだよ。警視総監までいっている話なんだから』と発言していた。上層部にはマイナスの報告を上げていないのではないか。こうやって自分で自分の首を絞めていったのだ」
事情聴取は徐々に厳しさを増していった。捜査員らは、警察も独自の実験を行っていることを示唆。不正と知りながら輸出したと認めるよう迫ったという。
島田順司さん「警察は『熱風が入れば該当なんだ』、『われわれも熱風を入れて、菌が死ぬテストをしている』、『経産省もそう言っている』と。何回も同じことを言われて、だんだんそう思わされてくる。もしそうなら、誰か責任取らなきゃいけないんだろうなと。取るなら、私が取るしかないのかなと思いました」
一方この頃、後の起訴取り消しにつながる決定的な指摘をした人物がいた。勾留中に病がみつかり、無実を訴えたまま亡くなった相嶋静夫さん。
問題となった機械は相嶋さんが設計開発を担い、性能については当然熟知していた。
相島さんの遺族「『(警察は)何回言っても分からない』って言ってました。『機械の仕組みとか、何回も説明するんだけど、全然分かんないんだよね』って」
事情聴取が続く中、相嶋さんが社長らに宛てたメールには「機械の構造上、完全な殺菌は出来ない。警察の実験方法に問題があると捜査員に指摘した」と書かれていた。
警察の実験では、ある場所の検証が抜け落ちていた。それは測定口と呼ばれる突起状の部分。袋小路になっているため、熱風が行き渡らない。熱風によって機械内部の全ての菌を殺すことはできないのだ。
相嶋さんの指摘を捜査員はどう受け止めていたのか。
(証人調書より抜粋)
原告側弁護士「再度、実験すべきだと考えませんでしたか」
警部補Y「考えました」
原告側弁護士「それに対して係長は」
警部補Y「従業員の言い訳だ、信じる必要はないと」
捜査を指揮したその係長は、Yとは違う認識を示した。
(証人調書より抜粋)
裁判官「この機械について一番詳しいというふうに認識されていたのは」
第五係長「技術者の方で、すいません、今名前出ないんですけれど」
裁判官「相嶋さんではなかったですか」
第五係長「相嶋さんが一番詳しいというような感覚はございませんでした」
裁判官「温度が上がりにくいところがあるということを供述しているということを」
第五係長「それは聞いておりません」
第五係は、測定口の存在を認識していなかったのだろうか。
大川原の噴霧乾燥機を所有する、とある企業。相嶋さんのメールの3ヶ月後、捜査員らが温度測定の実験のため訪れていた。実験を現場で取り仕切っていたのは、法廷で事件を「ねつ造」だと証言した、あの警部補Xだった。
この企業の代表は、Xらに温度の上がりにくい測定口の存在を指摘したという。
「この機械では、滅菌も殺菌も全くできないんです。どうしても温度がかかりにくい場所がある。最初から分かっていましたから、警部補には『不可能である』と、はっきり言いました」
実験後、捜査員らが作成した資料に温度の測定記録があるのは2カ所。測定口の温度は測っていなかった。警部補Xはなぜ、計測しなかったのか。
(証人調書より抜粋)
都側代理人「測定口の温度が上がらないかもしれないと、あなた自身は思っていたと」
警部補X「上がらないかもしれないということは思ってました」
都側代理人「あなたの指揮で行われた実験でも、測定口の温度は測らなかったということですね」
警部補X「現場にいたのは私が最高の階級ではありましたが、実験の指揮をしたのは私ではありません」
では誰が実験を指揮していたのか。
警部補Y「出なかったらどうするんだ、事件潰れて責任取れんのかというのを、(捜査幹部から)ずっと言われてますので、測ってないということです」
これに対し、第五係を率いる係長は。
都側代理人「そういったことを言った事実というのはありましたか」
第五係長「それはありません」
機械を貸した企業は、起訴取り消し後も、警部補Xとやりとりしていたという。その際、Xが語った言葉が忘れられない。
警察に機械を貸した企業代表「『もっと早く何とかできたら、人は死ななかったかもしれない』と、私は彼(警部補X)に伝えると、それに対して『何らかの責任は、当事者の方でやらなければならないだろう』と言っていましたので、後悔はしていたと思います」
<ついえた最後の機会>
捜査開始から3年。2020年3月11日、ついに社長らが逮捕された。
島田順司さん「連行されて逮捕状を見せられて、同時に手錠と腰縄でパイプ椅子に縛られました。屈辱感ですね」
逮捕直後に作成する弁解録取書。逮捕事実について、容疑者に弁解の機会を与えることが法律で定められている。その際にあり得ない事態が起きたという。
島田順司さん「もう出来上がっていて、『サインしろ』と言われて。そこには“社長、相嶋さんの指示により、許可を取らずに輸出した”と書かれていたので『絶対に同意できない』と。『前から主張しているように(輸出管理支援団体の)ガイダンスに従って輸出したと書き換えてくれ』と」
島田さんに署名を迫った警部補Z。修正に応じる意思を示し、作業を始めたという。「修正が終わった」と手渡された書類に島田さんは署名した。しかし、改めて読み直すと・・・。
島田順司さん「“ガイダンスに従って”という文章ではなくて、“社長らと共謀して”と書き換えられていたので激高しました、私は。『日本の警察、こんなだまし討ちみたいな事をするんですか』と。『私が言ってない事が書いてあるじゃないですか』と」
警部補Zは係長と相談。書類を作り直した。結果、署名入りの弁解録取書が2通存在することになった。このやりとりを、その場に立ち会った巡査部長から聞きつけ問題視したのが警部補Yだったという。
(証人調書より抜粋)
原告側弁護士「修正したふりをして、それがばれたっていう話も聞きましたか」
警部補Y「はい、聞きました」
警部補Yは、この問題を外事一課課長代理の管理官に報告したと、裁判で証言した。その後、内部で一部の捜査員に聞き取りが行われたという。しかし。
(証人調書より抜粋)
警部補Y「Z警部補の弁録に関して聞き取りをしたのが係長ですが、係長はZのことを信じると。島田さんの言ってることを誰も信じない、だから余計なことするなと」
ところが事はそれでは収まらなかった。
島田さんから抗議を受けたという最初の1通を警部補Zが破棄していたのだ。署名入りの公文書を故意に破棄することは違法行為。悪質な場合には、重い懲戒処分になる可能性がある。
警察関係者の証言(取材メモより)
「本来なら2通の弁解録取書を両方とも(検察へ)送致するべき。検察が見たら、何故2つあるのかという話になる。ここを突破口にZの捜査や係長の指示まで、問い直される可能性があった」
なぜ、文書を破棄したのか、法廷で問われたZ本人は、こう答えた。
(証人調書より抜粋)
警部補Z「新たに作成し直した弁解録取書のみが必要なものでっていうことで、最初に取ったものはもう、頭の中からずっと完全に抜け落ちてました」
破棄から2週間後、警部補Zが事のてんまつをまとめたとする報告書には、自らが誤って破棄した「過失」だったとし、その後、組織としてZへの処分は行われていない。
島田順司さん「保身の為、何とかつじつまを合わせるために、このような報告書にしたんだと思います。自分たちの事実を、そのままあからさまにするとまずいから。信用できないですよね。こんな組織では」
2020年3月31日、中国への不正輸出で起訴。
2020年6月15日、韓国への不正輸出で追起訴。
なぜ、捜査は止まらなかったのか。警部補Xは法廷で聞かれ、こう答えた。
(証人調書より抜粋)
警部補X「輸出自体は問題ないので、あとは捜査員の個人的な欲というか、動機がそうなったんではないかと私は考えます」
裁判長「欲を抱くような具体的な理由とかについて、御存じのことというのは」
警部補X「年齢があって、定年も視野に入ってくると、自分がどこまで上がれるのかと、そういったことを意識されたんではないかなと思います」
私たちは捜査を指揮した当時の第五係長本人に問うたが、答えはなかった。
起訴後、第五係長は警部から警視へと昇進している。
<事件はまだ終わっていない>
大川原化工機に内部告発の手紙が届いたのは、3人が逮捕された8ヶ月後。相嶋さんが勾留中に見つかった病に倒れ、入院が決まった頃だった。
大川原化工機・社長/大川原正明さん「相嶋さんの話も、捜査の関係者には伝わったんだと思うんです。そういうことを言ってくれている人がいることは、すごく安心した。人間って、上から言われたことをするだけじゃないんだなって」
起訴が取り消されたのは、さらにその8ヶ月後。相嶋さんが亡くなった後のことだった。私たちは今回の取材で手紙を書いた人物を特定、接触することができた。
法廷で証言したXやYとは別の人物。捜査に疑問を持っていた警察関係者の一人だった。
警察関係者の証言(取材メモより)
「相嶋さんの死について、自分の親だったらと思うと、本当に申し訳ない。今、捜査当時に戻っても、こうすれば止められたという方法を思いつかない。上層部がそろって応援し、令状もある。そこで違うと言い出すには勇気がいる。自分には止める力が無かった。やりそうな人材は、組織にまだまだいる。非を認め、決裁をした人それぞれに責任を取らせる。それができないなら、また同じような事件が起きるだろう」
相嶋静夫さんが亡くなって、2年半。遺族は、これまでの裁判を全て傍聴し続けてきた。
相嶋さんの遺族「主人を助けたくて。そして、助けることができなかったむなしさが、『ねつ造』という言葉の中に、急に沸き上がってきて、警察官には主人のお墓の前で謝罪してほしいし、遺族に対しても謝罪してほしいと。それが人間としての道じゃないかと思うんです」
現職の捜査員が事件を「ねつ造」だと証言した異例の裁判は、2023年9月15日結審した。
被告の東京都は、XやYの証言は具体的な根拠がなく、憶測が含まれていて信用できないと反論。一方、原告の大川原化工機側は、客観的証拠とひとつの矛盾もないと、主張した。
判決は、12月27日に言い渡される。