東京大学の授業料免除制度を具体的に批判する

上の記事で学費値上げに「賛成」と書きました。
しかし記事の内容を読んでもらえれば分かる通り、あくまで「学費を払えない層に対する授業料減免制度が絶対のものであることを前提にした上」での「賛成」です。

この絶対の授業料免除制度は不可能であると考えている方もいると思います。
もしその方達の言う通りそれが不可能なのであれば、私は学費値上げに反対です。

最近東大で学費値上げの動きがあります。
授業料免除になる基準の世帯年収を引き上げることも同時に検討しているということですが、あくまで現行の授業料免除制度を引き継ぐ形での施策のように見えます。

現行の東大の授業料免除制度には明確な欠陥があります。
よって私は今回の東大の学費値上げには反対です。

以下では現行制度の欠陥(の一部)を具体的に指摘したいと思います。
以下のページを参考に指摘します。

基本的に独立生計で申請できないこと

東大の授業料免除制度では学部生の独立生計での申請を原則認めていません。

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「令和6年度 学費免除申請のしおり」p.5
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「独 立 家 計 調 書」p.2

私も学部生だったときに独立生計で申請しようとしたことがありますが、独立生計要件を全て満たしているにも関わらず認められませんでした。
またそもそも扶養から外れるほどアルバイトしないと独立生計要件は満たせないのです。

世帯は裕福だが親が学費を払ってもらえないような例を私は実際に知っています。
(より具体的には、その親はある宗教にのめり込んでおりその系列の大学以外に進学することを認めないといった状況だったと記憶しています。)
これではそういう学生が授業料免除を受けることができません。

ちなみに大学の寮の審査も似たような基準になっていたはずで、そういう学生は格安の寮に入ることも出来ません。
これは長年見過ごされてきた問題です。

また親の出す書類も結構複雑なので、これがうまく手に入らないということも十分あり得ます。
私も親が書類を集めることに非協力的だったことがあり、そのときは大変でした。

全額免除になる保証がないこと

申請後、結果は前期分は 7 月末、後期分は1 月中旬に明らかになりますが、免除が通る保証はありません。
また免除にも全額免除と半額免除があって、一部しか免除にならない可能性があります。

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「令和6年度 学費免除申請のしおり」p.19

この家計評価額が0円以下で免除の対象となりますが、必ず全額免除となるわけではありません。
これは事務方から聞いた話ですが、この家計評価額というのを小さい順に並べ、その順で予算の範囲内で全額免除にするということらしいです。

大学院生で学振を持っている人は上の独立生計が認められると思いますが、その人たちは半額免除か全額免除かの当落線上にいることが多いというのも聞きました。
(理論上半額免除にはなると思っていましたが、半額免除にさえならなかったという話も聞いたことがあります。記憶が定かではありませんが。)
これは学振を持っている人たちは皆同じ収入条件になりがちで、全員全額免除にするかしないかということになるからだそうです。

最近は学振も副業okなので事情は少し異なるかもしれません。
そしてその副業も問題で、なぜなら副業をしたことにより全額免除が半額免除になってしまうということになりかねないのです。

私もTAをやっていましたが、それによって全額免除にならなくなったらどうしようと思いながら働いていました。
そうなれば働いて得た分以上が出ていくことになりかねません。
これも制度上の明らかな欠陥です。

授業料免除になるかわからない以上、学生は学費を準備する必要に迫られます。
(あるいはこれができないと、退学せざるを得ない可能性があります。ずっと全額免除だったのが半額免除になって退学した方もいるようです。)
そうなると結局免除になるとしても、学費を実際に払うのと同等の労力を要求されるわけです。

留年・休学ができない

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「修業年限超過者の授業料免除申請について」p.1
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「修業年限超過者の授業料免除申請について」p.1

最短修業年限を超過している場合、原則授業料免除の対象となりません。
よって私は留年しないように綱渡りを余儀なくされました。

特別な時由による一年以内の超過に限り審査対象となることがあるということですが、特別な時由の範囲は狭く、また一年というのも短いと言えます。

例えば家庭で起こった問題に対処するために修業年限を超える必要が出てくる可能性は容易に想像できますし、それが一年で解決しない可能性も十分あるでしょう。
またどれだけ頑張っても論文が書けないことというのはあります。
論文が書けないというだけでも大変なストレスなのに、それに授業料免除が通らなくなるというプレッシャーも加わるのはあまりに惨いと思います。
(ちなみに海外ではこの修業年限という概念自体があまりないようなことも多いと思います。結構カジュアルに博士課程を延長しているのを見かけます。)

加えて、休学や留年という選択肢が潰されてしまっているのも問題だと思います。
休学や留年して留学したりインターンをしたりというのはそれほどめずらしくもないと思いますが、貧困層だけこの権利を奪われているのはおかしいと思います。

現状の修業年限に関する規定はこれらのケースを含めていないという問題を抱えています。
明らかに拡充すべき項目だと考えます。

成績要件の存在

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「令和6年度 学費免除申請のしおり」p.21

授業料免除には成績要件もあります。
決して高い要件だとは思いませんが、必死にやっても難しい人はいると思います。
また、私はそうではありませんでしたが、大学の授業が最優先ではないという人もいると思います。
(個人的には、研究者になりもしないのに、大学の成績を重視する風潮はあまりよく分かりません。)

例えば東大数学科の授業で単位を取るのは非常に難しいです。
東大の学生でも少なくとも半分は上記の基準を満たせないのではないかと感じます。
また学部4年以降の基準が曖昧なのも問題です。

まとめ

長くなりすぎても良くないので、これくらいにしておきますが、現行の東大の授業料免除制度は多くの問題を抱えており、
私が入学してから博士号を取るまで殆ど改善しませんでした。

家計収入の上限を上げたとしても上述したような現行制度の問題点は一切改善しません。
この制度を改善しようともせず授業料値上げというのはあり得ないと強く主張したいです。

東大の貧困層支援制度には他にもたくさん問題があります。
そういう制度ができてしまうのは教員の側に貧困層がいないからではないかと思います。

例えば女性を会議に一切入れずに男女共同参画について何か決めようというのはあり得ないと思います。
一方困窮学生への支援については、困窮を経験したことのない教員が全て決めているのではないかという気がします。

私も早く意思決定に関われるように頑張ります。



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生活保護世帯から東大に進学し、数学者になりました。このアカウントでは自分の経験を共有し、次の世代を励ますことと既存の社会制度の問題点を指摘することを目的とします。
東京大学の授業料免除制度を具体的に批判する|R. Shimada
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