【岡島悦子×前田裕二】秋元康さんから学んだこと

2017/8/23

秋元康のすごさ

──前田さんは常にPDCAを回していると思いますが、特にリーダーとして参考にしている人はいますか。
前田 1人挙げるなら、秋元康さんでしょうか。秋元さんは、僕の何十倍も、抽象と具象の上げ下げがすごいです。
秋元さんと初めて対談したとき「前田さんと会った時にどんな印象でしたか?」という質問が秋元さんに振られたのですが、秋元さんは「前田君は腕のいい猟師だと思いました」と答えたんです。
秋元さんが言いたかったことは「前田君は複眼的だよね」ってことだったのですが、普通に「前田君は複眼的だと思います」って言ってたらつまらないですよね。
でも「猟師」っていうと「えっ?」ってなりますよね。
「猟師ってどういうことですか?」と詳しく話を聞いてると、「腕のいい猟師は、狙いを定める時に片目で見るんじゃない、両目でこう見る」と秋元さんは言うんです。
銃を撃つ時って片目で狙いを定めるイメージがありますよね。秋元さんの凄さは、他人に「おぉ、学びになった」といったハード面での効用と、「この人何か面白いことを言っていてワクワクする」というソフト面の効用を両立させているところだと思います。つまり、身のある内容を、高度なレトリックで伝えている、ということですね。
岡島 秋元さんは、やはり究極の作詞家なのですね。
文字数が限られた中にギュッとエッセンスを入れるっていうことをずっとやってきているから、喩えの上げ下げが圧倒的に上手。しかも、他者の関心の集め方も天才的。
前田 異常に上手ですね。秋元さんから、抽象と具象の上げ下げセンスを教えてもらったのかもしれません。
前田裕二(まえだ・ゆうじ)
1987年東京都生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券会社入社。2011年、UBS Securities LLCに移りニューヨーク勤務を経た後、2013年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。ライブストリーミングサービス「SHOWROOM(ショールーム)」を立ち上げる。2015年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。現在は、SHOWROOM株式会社・代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。

すぐに答えを求めてしまう

岡島 秋元さんとのエピソードにもあるように、前田さんは学習能力がものすごく高く、人から(スキルの)借り物をすることがすごく上手ですよね。
前田 自分が他人から借りるか借りないかの判断って、自分の琴線に触れるかどうかで判断をしているのですが、僕は琴線に触れる回数が人よりも多いのかもしれません。というか、割と変なところでもいちいち琴線に触れるので、自分でも時々困ることもあります。
例えばですが、講演が終わった後に人が並んできますよね。そのやり取りをしている時に抽象化することも結構あって。あ、この人がこういう質問をしてくれるっていうのが面白い、と。そこから抽象化の旅が始まると、頭で抽象化ゲームをしつつ、質問に答えるから、忙しくなります(笑)。
いかにも学びがありそうなところよりも、一見皆が学びだと思わないところにこそ、面白い学びがあると思っています。
岡島 「一見皆が学びだと思わないところの方が面白い学びがある」というのは素晴らしいですよね。
それで言うと「大企業モンモン病」みたいな人たちを見ていて私が危惧しているのは、すぐに答えを求めたがることです。
前田さんは「この意味合いは何なんだろう」といったように、常に自分で考えますよね。