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宇野康秀
1963年生まれ。大阪府出身。87年、明治学院大学卒業後、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。 89年に独立し、インテリジェンス(現パーソルキャリア)を設立。98年、大阪有線放送社(現 USEN-NEXT HOLDINGS)を創業者である父から受け継ぎ、代表取締役社長に就任。2009年、U-NEXTを設立し映像配信事業や通信事業を手掛ける。14年に東証マザーズ上場。15年東証1部上場。17年、USENとの経営統合でUSEN-NEXT HOLDINGSに商号変更。
https://usen-next.co.jp
※本サイトに掲載している情報は2020年8月 取材時点のものです。

INTERVIEW

子供の頃からの夢だった起業を20代半ばで実現しました。しかし、代表取締役の肩書が入った名刺を持ってみて、ただ会社を立ち上げることには何の意味もないんだなと気づきました。もちろん喜んでくれるクライアントもいましたし、やりがいを感じる場面もあったのですが、ビジネスというのは事業を拡大して世の中から必要とされているのを実感することだと思ったんです。そのために、常に次のステップを求め続けて30年以上経ちました。今もそのスタンスは変わりません。

父に託された会社は多額の負債を抱えた「違法企業」

宇野康秀

子供の頃は伝記を愛読していて、自分も世の中の役に立つ人になりたいと思っていました。小学3年生の頃には将来の夢に「社長」を挙げていた記憶があります。でも特に目立つわけでもない普通の子供でした。父が大阪有線放送社の創業者でしたが、父の会社を継ぐことに興味はありませんでしたし、父も私の生き方に口を挟むことはありませんでした。
大学時代は先輩が立ち上げた学生企業を手伝いながら忙しく過ごし、新卒でリクルートに入社したものの、その1年半後には人材採用サービス会社「インテリジェンス」を立ち上げました。私を含め起業仲間の4人は全員20代半ば。当時は若手の起業家なんて珍しかったので「若造のくせに」とネガティブに見られていたと思います。しかし当時の就活は売り手市場で企業側が人材確保に苦労していた時期でもあったので、新卒と年齢が近い私たちにこそアドバンテージがあると確信していました。最初は順調に業績を伸ばし、不況で企業が新卒の採用を抑制した時期こそ伸び悩みましたが、人材派遣事業に参入したりしながら右肩上がりを維持し、上場も見えてきました。
ところがその直後に突然父から連絡があり、病気で余命が短いこと、会社を私に託したいと思っていることを告げられたのです。父は私の起業に反対していたのでほとんど勘当状態。まさか跡継ぎを打診されるとは夢にも思わなかったので、ただ驚きました。
しかも父の会社は多額の負債とコンプライアンス上の大きな課題を抱えていて「違法企業」のレッテルを貼られていました。有線放送の電線を張るために電柱を無断使用していたのです。こんな状態で継ぐべきかかなり迷いましたが、1万人を超える従業員や全国に張り巡らせたままの電線を放り出すわけにもいかず、私がやるしかないと腹をくくりました。義務感だけでなく、問題を解決して新しいビジネスチャンスにつなげたい狙いもありました。私は試練が大きいほど燃える性格なんです。

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「次はこれが来る」見通しと信念が大事

まず違法状態を解消するために電柱の使用状況を調査し、担当省庁や電柱所有者と話し合い、未払い分をすべて支払うところから始めました。社員たちにも状況を説明し「会社をきちんとした合法企業に変えていこう」と呼びかけました。また、私は「突然よそからやって来た新しい社長」でしたから、全国の支社を訪ねたり宴席を設けたりしてできる限り社員たちとコミュニケーションを図るように努めました。
調査は気の遠くなるような作業で、全国の700万本以上の電柱を1本1本写真に収めていきました。社員からは反発の声も上がりましたが、「みんなでこの苦労を喜びに変えよう」と訴え続けました。最後の1件が受理され、晴れて合法企業になれた時は感無量で号泣してしまいました。
その後の有線事業は安定していましたが、同時にブロードバンド事業やカラオケ通信など新しい事業にも着手したことで会社は業績を大きく伸ばしました。特にブロードバンド整備後は絶対に動画配信サービスが来ると信じて注力しました。まだYouTubeもなかった頃です。「成功するわけがない」と批判も受けましたが、定額制にしたり広告型の無料サービスにしたり、形を変えながら20年でU-NEXTに辿り着きました。新しい事業を始める時は、「次にこういうものが世に求められるはずだ」という見通しと、それに対する信念が大事だと思っています。
今後も世界で様々な問題や新しい動きが起こるでしょう。私たちがホールディングス化した理由は、これに全部対応していくためです。一つひとつの会社に未来へ向けたミッションがあって、現在ヘルスケアの分野なども含め20社以上を擁しています。いずれ100社に増やしていきたいですね。

いつも若い方に話すのですが、やりたいことがあるならすぐに始めるべきです。どんな夢や目標であったとしても、それがおぼろげなものであったとしても、大事なのはまず行動すること。早く始めるほど成功確率は上がります。私も20代で起業して今までいろんなことを手掛けてきましたが、まだ時間が足りないぐらいです。Time is moneyという言葉があります。とにかく一日も早く、行動することをお勧めします。