魔法の遺伝子編集技術「CRISPR」、特許をめぐり法廷バトル中

  • author福田ミホ
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魔法の遺伝子編集技術「CRISPR」、特許をめぐり法廷バトル中


技術によるお金と名誉、そして世界を動かす権利は誰のものか。

遺伝子編集を一気に効率化する技術「CRISPR/Cas9」。これによってエイズ治療法開発とか移植臓器の不足解消とか、はたまたデザイナー・ベビー作成とか、いろんなことが可能になるんじゃないかと期待されています。

ただ、その技術を開発したのが誰なのかってことで今、もめにもめています。ふたつの研究者グループがそれぞれ、CRISPRの特許権をめぐって争っているんです。一方はカリフォルニア大学バークレー校(UCLAB)、一方はハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)が共同運営するブロード研究所です。12月7日、両サイドの弁護士が口頭弁論を行なったとSTAT Newsが伝えています。

申請はUCLABが先だった

ブロード研究所側はすでに2014年、CRISPRに関する13件の特許を承認されています。でもUCLABのほうも、CRISPRの根本的な部分の研究に関して権利があると主張しているんです。そもそもUCLABのほうが特許申請は先にしていて、でもブロード研究所のほうは申請のときに特許申請処理を早める追加料金を払っていたので承認が早かった、みたいな経緯があります。

彼らはただ法廷で争ってるだけじゃなく、たとえばブロード研究所のEric S. Landerさんが学術誌「Cell」に寄稿したCRISPRの歴史に関する文書の中ではUCLABの役割がやたら小さく書かれていたり、ブロード研究所がUCLABと係争中であることが書かれていなかったりしたために炎上するなど、スキャンダラスな展開を見せています。

このバトルはすぐには決着しなさそうです。判事たちはまず、両者の主張が本当に食い違うものなのかどうかを判断する必要があります。その後、たぶん2017年のどこかで、誰がCRISPRの商業的権利を持っているかが判断されると思われます。

CRISPRによってすでに多額のお金が動いていて、無数のブレークスルーが起きてもいます。先月中国の研究者は人間の肺がん患者に対しCRISPRを使った実験を行ないました。他にもCRISPRは、飢餓の撲滅や農薬の利用廃止絶滅危惧種保護などに使える可能性があるとされています。しかもそれらはまだまだ始まりに過ぎません。

それにUCLAB側もブロード研究所側も、その技術をEditas MedicineやCRISPR Therapeuticsといったいくつかの企業にすでにライセンスしています。そうした企業は、CRISPRをライセンス提供する権利を本当に持っているのが誰なのかわからない状態、つまり自分たちもその技術を使っていいのかどうか不明な状態のままで事業運営しています。EditasもCRISPR Therapeuticsも2016年に上場を果たしましたが、この裁判の結果によっては、最悪の場合CRISPRが使えなくなったり、ライセンス料が跳ね上がったりするかもしれません。

技術の進化にも影響

特許が誰のものかという問題は、誰がその技術を売ってもうける権利があるのか、という話だけじゃありません。CRISPRの技術そのものがちゃんと進化していけるのかどうかがかかっているんです。

一般に研究者が何かを発明した場合、それが特許申請されるとは限りません。でも特許申請の結果承認された場合、それによってその技術が他の研究者から使えなくなったり、使うのにものすごく高額の費用が必要になったりして、その後の発展の障害になる場合もあります。

「この問題は、生物学界で特に大きな問題になっている。生物学では、研究の道具の開発と交換が進歩のために重要だからである」2009年、ある研究者グループがNature Biotechnologyで訴えていました。さらに、「生物学者が研究の道具へのアクセスに関する困難を訴える例が増えていることは、よく知られている」とも。

たとえばMyriad Geneticsという会社は、乳がんに関連する人間のふたつの遺伝子についての特許を取得。その特許のおかげで、彼らは乳がんのリスクを判定する遺伝子テストの権利を独占していました。でも2013年、米国最高裁判所は、「人間の遺伝子は特許化できないのだから、Myriad Geneticsの特許も無効」とする意見で全会一致しました。でもたとえばCRISPRもそうですが、他の遺伝子関係の発見の多くがまだ特許化可能になっています。

オープンなプロセスを求める研究者の声

一方当事者以外の研究者たちは、どっちに転んでもCRISPRを自由に使えると考えられていて、特許紛争の影響をそれほど受けずに済んでいます。ただこのバトルのせいで、特許制度ってそもそもどうなの?という議論が活発化しています。

最近、特にバイオ関係の研究者の間では、特許を批判し、よりオープンで協力的なプロセスを求める声が広がっています。MITの合成生物学者Kevin Esveltさんは「実験を始める前からその内容を公開してしまおう」と他の研究者に呼びかけています。それによってより進化が早まるし、間違った遺伝子編集も防げる、という考えです。Esveltさんは特定の遺伝的特徴が次世代に確実に受け継がれるようにする「遺伝子ドライブ」の特許を持っていますが、それを使って他の研究者に自身の成果物の公開を働きかけていく予定です。

UCLABの生物学者Michael Eisenさんも、ブログにこう書いています。「UCLABもMITも、CRISPRの特許を持つべきではありません。学術研究者が知的財産権を主張することは、科学や公共社会にとって害になるからです」。

UCLABとブロード研究所のどっちかが勝訴したとして、勝ったほうがその後どう動くのかはまったくわかりません。でもその影響は大きくなるはずです。我々の世界のコーディングを編集する権利を誰が持っているのか、それがこの裁判にかかっています。

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image by Omar Bustamante / FUSION

source: STAT News, Cell, Jezebel, Fusion, Huffington Post, New Yorker, Nature Biotechnology, Scotusblog, Michael Eisen

Kristen V. Brown - Gizmodo US[原文
(福田ミホ)

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