水耕栽培諦めず結実 熱意続ける決め手

作物の生育状況をチェックする鴨下助教授(右から2人目)と学生

■原発事故で一時休校 いわきの福島高専
 東京電力福島第一原発事故によって一時的に中断を余儀なくされていた、いわき市の福島高専の水耕栽培が再び軌道に乗った。寒さに手をかじかませながらの作業だが、学生の表情に充実感がにじむ。「諦めずにやってきて良かった」-。その気持ちに応えるように、校舎の屋上で青々とした野菜が育っている。
 物質工学科の鴨下祐也助教授(43)の研究室に所属する4人の5年生が中心になってブロッコリー、ハクサイ、トマトなどを栽培していた。3月11日の東日本大震災で施設に大きな被害はなかったものの、原発事故によって学校は休校した。県外に避難した学生もいて、栽培は中止された。

 5月上旬に学校は再開したが、丹精込めて作ってきた野菜は弱り切り、放射性物質で汚染されていた。涙をのんで、処分した。学生の1人、関口倫子さん(20)=いわき市平=は「同じように廃棄をしなければならなかった農家の人たちは、自分たち以上につらかったのだと思う」と話す。
 屋上の施設も放射性物質の影響を直接被った。「栽培は中止するしかないかも」。鴨下助教授は悩んだが、取り組みを中途半端にしたくないという学生の熱い思いが続行の決め手となった。自分たちの手で除染作業を行い、高い場所で毎時数10マイクロシーベルトもあった線量を通常レベルまで戻した。
 水耕栽培は土壌汚染の心配をする必要はなく、栽培した野菜から放射性物質はほとんど検出されなかったという。年明けからの寒さで、ブロッコリーの糖度はイチゴやメロンに近いほどまでに上がった。
 野菜の甘さに顔をほころばせる学生を見て、鴨下助教授は「あの時、続けると言ってくれたことに感謝したい」と話している。