急成長を遂げた14歳が勢いそのままに表彰台の中央に駆け上がった。スケートボード女子ストリートの吉沢恋(14)が28日、初のオリンピック(五輪)で金メダルを手にした。娘の練習環境を整えるために転職してサポートしてきた父功さん(58)は「五輪だとしても、練習してきたことを発表する場」といつものように送り出した。

神奈川・相模原市出身の吉沢は、兄の影響で7歳ごろから滑り始めた。功さんは経験者ではないが、子どもたちの様子を見て「努力したことが全部自分に返ってくる。社会人になっても生きる競技だ」とスケボーの魅力に引き込まれた。

そう感じた背景には功さんの経験がある。小学校時代にやっていたサッカーは、集団競技ゆえに自分の努力が報われない場面を経験した。その後に始めた卓球は個人の戦いで、成果が出たときに成し遂げた喜びが大きかった。

もう1つ理由があった。けがと隣り合わせのスケボーは、技を決めるために勇気を振り絞って挑戦しなければならない。「それは社会に出ても同じ。恐怖に打ち勝って1歩を踏み出さないと、やりたいことはできない。それを経験できる」。

当時、功さんは保育士で、帰宅は午後8時ごろ。小さな娘が一生懸命に競技に取り組む姿を見て、介護職への転職を決意。練習の送り迎えができるようになり、一緒にスケボーに向き合う時間が増えた。

ただ、保育士時代と変わらないこともある。子どもたちがお遊戯会や発表会で練習通りに力を発揮するにはどうすればよいかをいつも考えていたように「娘のコンディションをいかに上げて本番にもっていくかしか考えていない」。夏の日差しが降り注ぐコンコルド広場で、演技の合間に吉沢と観客席の功さんが手を振り合う場面もあった。功さんの優しい視線の先に、最高の形で努力を結実させた愛娘の笑顔があった。

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