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僕はどうしてALPS処理水海洋放出を「完全に安全」と言うのだろう

東電福島第一原発敷地内のタンクに溜めてある「ALPS処理水」の海洋放出がついに始まりました。マスメディア(朝日新聞と毎日新聞がその代表でしょう)や反対派の政治家(社民党・共産党・れいわ新選組に立憲民主の一部)などが相変わらず人々の不安を煽っていますが、なんら危険はないので、粛々と進めることを願っています。福島の完全復興に向けたプロセスのひとつです。

漁連は風評被害を心配しています。それは理解できます。では、その風評は誰が作り出しているのか。煽っているの(いわゆる風評加害者)は上に書いたメディアや政治家です。本来なら科学的に正確な情報で人々の不安を解消するために働くべきメディアや政治家が悪質な放射能デマを振り撒くのは許せません。メディアの中でも読売や産経は風評払拭の方向で頑張っているように思えます。逆に朝日・毎日は処理水放出が悔しくてたまらないようです。SNSではそういった情報に踊らされた「草の根風評加害者」も多々見受けます。まあ、彼らは忘れっぽいから、すぐに静かになるのかもしれません。

以下では、僕がどうしてALPS処理水を安全と考えるのかを説明します。数値が出てきますが、たいしたことはありません。

原発内で融け落ちた核燃料に地下水が触れて、放射性物質を含んだ汚染水ができました。それをALPS(多核種除去装置)で処理して、放射性物質を除去しています。溜めてあるALPS処理水の中には放射性物質の除去が不十分なものもあります。風評加害者がうるさく言い募るのがまずはこの点です。これはALPSの性能が出なかった時期があることと、貯蔵のために線量を下げる処理を急いだからですが、現在のALPSできちんと再処理すれば十分に除去できます。

実際に海に放出される処理水はALPSで再処理して、トリチウム以外の放射性物質(代表的にはセシウム137やストロンチウム90)の濃度が「告示濃度限度比総和が1未満」になるように放射性物質を除去したものです。このいかにも難しげな言葉の意味を平たくいうと、処理された水を毎日2リットル飲み続けてもそれによる年間の内部被曝量が1ミリシーベルトに達しないということです。簡単でしょ?もちろん誰も飲まないのですが、「飲んでも安全」なレベルまで除去するわけです。

ここで、「測定されていない核種が100以上あるぞ」というのも風評加害者たちの定番の批判です。もちろんそれは正しく、決して全ての核種を測定しているわけではありません。しかし、α線総量とβ線総量を測定しています(γ線を出す核種はγ線スペクトルから核種が分かります)。この総量は測定されている核種の量だけで説明がつきます。つまり、測定されていない放射性物質は、あるとしてもごく微量なので考えなくていいということです。

また、ヨウ素129がたくさんあるという指摘も定番です。たぶん、おしどりマコが言い出したのではないかと思います。たしかにI129は除去しづらい核種ですが、量は測定されていて、告示濃度限度比は1未満です(毎日2リットル飲んでもI129だけで年間1ミリシーベルトにはならない)。これも含めて、全放射性物質の告示濃度限度比の総和が1未満になるようにするわけです。だから、「これこれがある」とか「これこれを測ってない」とか言われても、「全部合わせて告示濃度限度比総和が1未満になるように除去するのですよ」で終わりです。トリチウム以外の放射性物質についてはそういうことです。繰り返しになりますが、トリチウム以外の放射性物質の量は0ではありません。0にはなりません。でも、十分に微量になるまで除去されているのです。

さて、もうみなさんおなじみのようにトリチウムは水の一部になっています。改めて確認しておくと、トリチウムは水に溶けているのではなく、水分子の一部になっています。トリチウムは三重水素と呼ばれることからわかる通り水素の同位体で、化学的性質は水素と同じです。酸素に水素2個が結合したものが普通の水分子ですが、酸素と水素とトリチウムが結合しても水分子ができます。これは化学的には水分子ですから、水分子と同じ性質を示します。トリチウムを含む水を飲むと(水道水にもわずかに含まれるので、僕たちは日常的に口にしています)、トリチウムは水の一部として体内に取り込まれ、体内を循環し、排出されます。水なので生物濃縮のようなことは起きません。運が悪い一部のトリチウムは体内を巡っているあいだに崩壊してβ線を出し、内部被曝します。

トリチウムはβ線だけを出す放射性物質ですが、そのβ線は他のβ線核種(ストロンチウム90など)と比べてとりわけ弱く、水中では10マイクロメートル程度しか飛びません。飛ばないという意味は、水分子にぶつかって止まってしまうということです。もちろん、ぶつかられた水分子が電離して生体分子に悪影響を与えるという放射線被曝のメカニズムは他の放射性物質と変わりませんが、その頻度が極端に少ないから影響も小さいわけです。WHOは飲料水に含まれるトリチウムの基準を1リットルあたり10000ベクレルとしています。EU基準はその100倍厳しく100ベクレルです。日本には飲料水についての独自基準はありませんが、排水の基準値は1リットルあたり60000ベクレルで、これは例の毎日2リットル飲んでも年間の内部被曝が1ミリシーベルトに達しない量です。

トリチウムは水の一部ですからALPSで除去できません。そこで、上に書いた「トリチウム以外は告示濃度限度比総和1未満」にしたALPS処理水をさらに海水で希釈してトリチウム濃度を1リットルあたり1500ベクレル以下にします。つまり、放出基準値の1/40です。この時に100倍以上希釈されるので、トリチウム以外の放射性物質濃度は「告示濃度比総和1未満」のさらに1/100になります。

すると、この水を毎日2リットル飲んだ時の年間の内部被曝量はだいたい0.03ミリシーベルト以下になります。これはあくまでも直接飲んだ場合です。もちろん飲む人は誰もいませんが、直接飲むのがいちばん被曝量が多いですから、これが「最悪想定」で、実際の被曝量はこれより何桁も低くなります。この数値をどう考えればいいでしょうか。

『いちから聞きたい放射線のほんとう』を読んでくださった方にはお馴染みでしょうが、放射線被曝は多ければ危険だし、少なければ何も起きません(DNA損傷はDNA修復機構で修理されてしまいます)。では、その「多い少ない」は何と比べればいいでしょうか。

僕たちは自然界に存在する放射線や食べ物に自然に含まれる放射性物質で常に「自然被曝」しています。処理水放出による追加の被曝量はこの自然被曝と比較すればいいでしょう。日本人は平均で年間2.1ミリシーベルトの自然被曝をしています。また、世界平均は2.4ミリシーベルトです。つまり、上の最悪想定による年間被曝量は自然被曝の地域差の1/10程度でしかないことがわかります。これは「誤差の範囲」です。

では、現実の被曝量はどうなるのか、IAEAの包括報告書に書かれている推定値を見てみましょう。海洋放出されたALPS処理水による人体の被曝で最も多いのは、海産物を食べることによる内部被曝です。すると個人差がものすごく大きくなるわけですが、魚を多く食べる人で年間0.00003ミリシーベルト程度と推定されています。上の最悪想定の1/1000です。自然被曝と比べるともはや誤差ですらありません。こんな数値を考える意味もないのですが、とにかく自然被曝とは全く比べものにならない微量の被曝です。自然被曝の地域差・個人差を考えれば、この追加被曝による追加リスクは0です。こんなものは0でいいんです。これを「わずかにある」などと言う意味は全くありません。誤差の4桁下の追加被曝量など0でいいし、それによる追加リスクは0です。

なお、初回放出分のトリチウム濃度が発表されましたが、1リットルあたり63ベクレルだったようです。IAEAもその測定結果を確認しています。予定の1500のさらに1/25です。追加リスクも1/25になりますが、こんなものは0です。0と言うべきです。

これがいつまでも正しく運用される保証はあるでしょうか。放射性物質濃度は東電による検査に加えて、国内の第三者機関が検査することになっています。またIAEAも検証を続けます。IAEAは福島に事務所を開設し、「最後の一滴まで見守る」と宣言しています。僕はこれで十分だと思います。これでも足りないと考える方は、国に追加対策を提案されればいいでしょう。

なぜ僕がALPS処理水の海洋放出を「完全に安全」と考えるかを説明してきました。正直、こんな微量の(誤差にもならないような)放射性物質で大騒ぎするのは時間の無駄だと思います。いや、多くの方はこんな細かい数値など知らなくても、「まあ安全だよね」と考えているのではないでしょうか。こんな微量の放射性物質で大騒ぎしているのは福島の復興を願わない風評加害者だけでしょう。それが誰なのかは、最初に少し書きました。

最後に、でも決しておまけではなく言いたいことがあります。東電原発事故は起きてしまいました。その責任はやはり津波を想定して電源を設置しておかなかった東電にあるというべきでしょう。でも、そのことと「放射能問題」とは分けるべきです。東電が起こした原発事故だから、無責任な放射能デマを流していいんだなどという話は通りません。放射能デマや風評は放射能デマ発信者や風評加害者の責任です。放射能デマや風評加害は多くの人々の命を奪いました。許されることではありません。風評加害者という言葉は新しいですが、SNSの時代になって誰が風評を振り撒いているかが可視化されたのだと思います。

東電の責任は追及するべきです。同様に放射能デマや風評加害の責任も追及していかなくてはなりません。

福島の早い「完全復興」を願っています。

追記(2023/12/20) 処理水を危険視するためならあらゆることに妄想を働かせる人はいて、希釈用の海水がそもそも汚染されているのではないかという主張を散見します。希釈用の海水は仕切られた港湾外の6号機北側から引き入れ、5号機取水口から取り入れられます。場所は1Fの配置図で確認できます。港湾外の海水の放射性物質濃度は測定・公開されているので、このあたりは公開データで確認してください。なお、すでに三回の放出を終え、放出地点での実測値には異常ありません。それがすべてだと思います。

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コメント

TABASCO
桑の鶴 さん
>海水の汚染度
>百回繰り返せば汚染度は百倍
例えば、塩分濃度10%の水で半分満たされた浴槽に、
毎日塩分濃度20%の水をコップ1杯ずつ入れ続けるとします。
この条件で浴槽内の塩分濃度がいつか20%を越えるときがくる、ということでしょうか?
むしろ半減期をご存じなら、塩と違って減少していくと思いますが...

>18,000Bq/kgのクロソイ
おそらくここで指している線量はセシウムのものと思いますが、
このクロソイは港湾内の特にセシウム濃度の濃いK排水路排水口にて見つかったものであり、
またクロソイは岩礁性で岩場の陰に隠れる生態のため、原発事故当時からの堆積土砂の影響も強く受けており、移動防止網で区切られた港湾外で通常獲れる魚とは状況が大きく異なると認識しています。
https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2023/1h/rf_20230626_1.pdf
ユクサ・ターヤ@本当の国益を考える
濃度に騙されない様に注意した方が良いですよ。今の放出量でも数十億ベクレルのトリチウム以外の放射性物質が放出され東北沿岸に蓄積されていきます。東電の検討はそれらが考慮されておらず、IAEAからも指摘されている根本的な間違いを修正できないままの検討結果です。https://twitter.com/koueki2/status/1695420816840880587

それにしても設定値1500/Lに対し2桁違う63ベクレル/Lとはあまりにもビビり過ぎというか、東電自らが自分技術力を信じていない証拠ではないでしょうか。
masaaki_tetu
TABASCO さん
ありがとうございます。
sile
「論文の丸パクリ」はさすがに草
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僕はどうしてALPS処理水海洋放出を「完全に安全」と言うのだろう|kikumaco
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