その香り、私は苦痛…柔軟剤など「香害」に配慮促す動き
生活用品の香りによる頭痛や吐き気に悩む人が増えているとして、配慮を促す動きが目立ち始めた。香りが原因の体調不良は「香害」とも呼ばれる。詳しいメカニズムは解明されていないが外出や通勤が難しくなったケースもある。人が集まる場所で強い香りがするものの使用を控えるといった対応を自治体などが呼びかけている。
「苦しみはなかなか理解してもらいにくい」。関東地方に住む50代の女性は訴える。約4年前、勤務する学習塾で児童の衣類からした柔軟剤の匂いが発端で、体調を崩すようになった。
頭痛や吐き気、胃痛といった症状は次第に激しくなり、ある日突然自宅の衣類や寝具のわずかな匂いにも耐えられない状態に。医師からは「化学物質過敏症」と診断され、マスクを何枚も重ねなければ外出できなくなった。
柔軟剤や合成洗剤、香水などによる体調不良は「香害」とも呼ばれる。代表例が空気中の微量の物質に反応する化学物質過敏症で、頭痛や倦怠(けんたい)感など様々な症状が現れる。2009年に保険適用となったものの、発症のメカニズムは未解明の部分が多い。
国民生活センターによると、全国の消費生活センターに寄せられた柔軟剤の匂いなどによる体調不良に関する相談は12年度まで年間数十件程度だった。香りの強い海外製柔軟剤のブームもあり、以降は増加傾向にある。22年度は209件だった。
日常生活への影響は大きい。NPO法人日本消費者連盟など7団体でつくる「香害をなくす連絡会」が19年度に会員や知人らを対象に実施した調査によると、外出が難しくなって職を失ったり学校に通えなくなったりした人が18.6%いた。
こうした状況を受け、実態調査に乗り出す例も出てきた。兵庫県宝塚市では市議会で質問があったのをきっかけに、市教育委員会が5月、市立小中学校の保護者にアンケートを実施。27.8%が「子どもが人工的な香りを不快に感じたことがある」と答えた。「体調不良を起こしたことがある」との回答も7.8%あった。
市教委は「人工的な香りに苦しむ子どもが一定数いる」として、給食当番では共用の白衣を使わず、エプロンや三角巾の持参を認めることにした。授業参観でも香水の匂いに配慮を求める。児童生徒の健康診断の資料とする保健調査票に化学物質過敏症に関する記入欄を設けることも検討している。
消費者庁を中心とした5省庁は7月、香りによる苦悩への理解を広げようとポスターを刷新。これまで「その香り 困っている人がいるかも?」としていた表現を「困っている人もいます」と強めた。
商品の提供側も啓発に動いている。洗剤メーカーなどの業界団体「日本石鹸(せっけん)洗剤工業会」は9月、ホームページで「香りのマナーにご留意ください」とする記事を掲載。同会の20年の調査では約2割の人が柔軟剤を目安の2倍以上使っており、適正量の使用を呼びかけた。
新潟県立看護大学の永吉雅人准教授(人間環境科学)は「化学物質過敏症への理解が十分に進んでいるとは言えず、国や自治体が積極的な啓発によって認知度を高めていく必要がある」と指摘する。
その上で「香りつき製品については、より敏感に匂いを感じ取る人がいることを前提として、不必要に使わないことが大切だ」と話している。
(前田健輔)
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(更新)- 柳沢幸雄北鎌倉女子学園学園長・東京大学名誉教授ひとこと解説
厚労省によると、コロナの代表的な後遺症状は疲労感・倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、喀痰、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下などがある。殆どは自覚症状であり、本人の訴え以外に他者に実情を伝えることができない。社会がその実情を共通認識する唯一の方法は患者数が多数となることである。シックハウス症候群、化学物質過敏症、そして香害や電磁波過敏もこの分類に入る症状である。 多くの人が感じることのない鋭い感覚で、絶対音感のように肯定的に評価される感覚は鋭敏、不都合な感覚は過敏と表される。自分と違う感覚の存在を理解する必要がある。
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