インデラルはβブロッカー(β遮断薬)という薬剤の一種で、交感神経のアドレナリン受容体のうち、β受容体を遮断する。基本的には循環器疾患、高血圧症や狭心症、不整脈の治療に使われている。実はあまり知られていないが、(適応外ながらも)向精神薬としても応用ができ、便利な使い方がある。

 

 最も有用性の高いのは「パニック障害」を中心とした不安障害に対して。パニック発作においては、強い不安とともに、動悸、四肢の震え、発汗、過呼吸などの自律神経症状が出現するが、これらの多くは精神的緊張がもたらす交感神経刺激によるものである。インデラルはこれらの症状の出現を予防~軽減する作用があり、それによる精神的不安の増幅を止めて、パニックを起こすのを防ぐのである。つまり軽い不安レベルで抑えるということ。

 

 パニック障害の患者さんでは、車や電車など逃げられない場所や、人の多い場所、など決まった場所での発作を起こす人が多い。が、どの程度の条件で発作を起こすかは人それぞれだし、それ以外の場面でも発作を起こす人もいる。そして多いのは、パニック発作を起こす前に「発作が起きそう」な感覚、前兆を訴える人である。例えば、職場で仕事中、ちょっと気分が悪くなる、軽い動悸がする、急にめまいがする、など。人によっては「軽い発作が起きました」と言うことも。こういう人には、インデラルを頓服として使ってもらうと、その“前兆”がなくなり、明らかな発作に至るのを防ぐことができる。

 

 パニック発作まではいかないが、軽度~中等度の不安障害の人で、外出や仕事にでるのが不安、という人がいる。こういう人が外来に来た時、生活への支障を考えて、向精神薬を処方するなら、精神科医では、SSRIやベンゾジアゼピン系抗不安薬、医師によってはエビリファイ少量などを使いたくなる。しかしこれらの向精神薬を副作用のため飲めない、という患者さんもしばしば。例えば、外出中に不安が高じたときに服用し、眠気や気分不良を生じるようではダメである。こういう人に副作用の少ないセディール(セロトニン1A受容体部分アゴニスト)が好きな医師もいるが、効果が低いので自分はあまり使わない。それよりもインデラルは眠気を生じず、不安に効果的で緊張をとるため、社会生活が楽になる人がけっこういる。もちろん先に述べたように、毎日服用せずとも、頓服としてお守りとして出歩いてもらうことも。

 

 不安障害以外の用途としては、アカシジア、本態性振戦はもちろん、慢性頭痛の治療として知られている。また攻撃性を抑えたり、フラッシュバックによる苦痛の軽減に有効なこともある。

 

 インデラルの副作用で一番気を付けないといけないのは、呼吸器疾患で、喘息のある人では禁忌ということ。β遮断により喘息発作を誘発したり、気道を狭めるのが危ない。同じ理由でタバコをがんがん吸っていたCOPDの人にも使いたくない。なおβ遮断による心抑制を心配する医師もいるが、心機能低下が中等症までなら、通常量ではさほど心配ないと思われる。友人の循環器医もそういう意見。徐脈性不整脈や低血圧の人はちょっと使いにくいけど。あと

 

 ちなみにインデラルは海外では、普通のドラッグストア(コンビニでも)で買える国もある。あがり症の人が緊張を強いられる場面(会議やプレゼンテーションの前とか)で使うことも結構あり、安全な薬と思われているようだ。

 

 あと重要なこととして、数あるβブロッカーの中でも、精神・自律神経症状への効果は、β1非選択性のインデラルがカルビスケンと並んで一番よく効くこと。例えば他のβ1選択性ブロッカーのメインテートは、1日1回投与の便利な薬だが、不安・緊張を抑える効果はインデラルより低い。

 

 以下がまとめ。

 

1.特徴・利点

・不安障害:パニック、全般性不安障害、社交不安障害、吃音

→あがり症の人の動悸や振戦

・本態性振戦にも

・リチウム誘発性振戦:リチウムが効いているけど、振戦で使いにくい人に

・メジャーによる急性アカシジアには第一選択でもいい ←ジストニアやパーキンソニズムには効かない

・慢性頭痛への効果(ガイドラインでも推奨)

・アルコール離脱に、BZの補助として

・攻撃性や暴力、躁状態に →ただし1-2か月かかるという

・PTSDにおけるフラッシュバックの苦痛軽減に

 

使い方

・頓服ではインデラル10mg1錠を

・毎日 3~6錠(30~60㎎)分3で不安障害にいい人がいる

・あがり症では、不安誘発の30分前に、インデラル10mg

・急性アカシジアに、インデラル10-20mg

 

副作用・デメリット

・徐脈や心不全悪化 ←チェックしておく。でも多少の心機能低下ぐらいは大丈夫

・喘息、COPDなど、βブロッカー禁忌の人 ←必ずチェック

・カタプレスと併用注意

・うつの誘発、せん妄を起こすことも

→逆にうつに良い場合も

◎インデラルは短時間作動性なので、副作用出現してもすぐに中止すれば大変なことが起こることは少ない

 

印象

・パニック発作の予兆の際に使うととてもよい、と喜ばれる

→頓服程度で済むような不安障害の人では使いやすい

・緊張が強い人に­=パフォーマンス不安、特に動悸、振戦などによい

・向精神薬に弱い人(副作用の出やすい人)でも、インデラルなら使える人も

→BZと違い、眠気がない

→SSRIやエビリファイなどがダメな人

→ただしこれら少量にインデラルを組み合わせて、総合的によいことも

・アカシジアに対しての効果は、アキネトンと同じくらい早く効く(すぐ効いてくれないとアカシジアは辛い)。リボトリールよりは切れがいい

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