Xはイスラエル・ハマス衝突の「偽情報」を溢れさせている

イスラエルとハマスの戦闘について、最新情報を知ろうとX(旧Twitter)を開いた人たちは、数々のフェイク画像、いつ撮影されたか分からない動画、一見本物のように見えるゲーム画面のキャプチャなどを目にすることになった。こうした「偽情報」の氾濫は、かつてないほどのレベルに及んでいると専門家たちは指摘している。
PHOTOGRAPH: AL DRAGO/GETTY IMAGES

10月7日、ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を加え、イスラエルが翌日から報復作戦を開始した。SNSには大量の映像、画像が投稿されている。こうした大量の投稿については、ジャーナリスト、研究者、OSINT(一般公開情報を分析するインテリジェンス)の専門家、ファクトチェッカーらが分析を急いでいるが、X(旧Twitter)では偽情報の洪水が起きている。

偽情報を流す側の狙いは“自分たちに都合のよい物語”を発信することだ。昨今では、世界的なイベントが発生すると、ほぼ同時に偽情報の洪水も始まるような事態に至ってしまっている。ただし、今回のイスラエルとハマスの戦争では、偽情報の規模・速度が前例のないレベルとなっている。

信頼できる一次情報が見つからない

「さまざまな要因のため、Xでの危機情報分析は今回、かつてないほど難しくなっています」と、アラバマ州のOSINTの研究者であるジャスティン・ピーデンはXに投稿した。ピーデンはインターネットでは「Intel Crab」のアカウント名で知られている。「信頼性の高い情報へのリンクで表示されるのは、写真だけになってしまいました。高価な青いチェックマークを取得していない現地報道機関は、ユーザーに情報を届けることが難しくなっています。その一方で、外国人嫌悪の犯罪者は、このプラットフォームの最高経営責任者(CEO)に後押しされています。もう終わりです」

ピーデンが21年にガザ地区で深刻化する情勢を取材した際、彼のフィードには現地の人々や信頼性の高い報道機関が発信した情報が流れてきていた。しかし、先週末に始まった今回の危機については、信頼できるコンテンツや一次情報をX上で見つけることがほぼ不可能だったという。

「パレスチナやイスラエル南部に実際に住んでいる人を見つけるのが、非常に難しくなっています」とピーデンは『WIRED』に語る。「実際に現地で撮影された動画や写真を見つけて、それを共有するのは非常に困難です。信頼できる現場情報は埋もれがちで、特に非英語のものはそうです。今回のように大多数のユーザーが英語を話さない地域では、なおさら難易度が高くなります」

有料会員の情報が優先して拡散される

Xには、月額8ドルの有料サブスクリプション加入者による投稿を優先的に表示する仕組みがある。青いチェックマーク付きの投稿がフィードで上位表示されるのだ。

その結果、Xのユーザーたちは、ファクトチェックされた信頼性の高い情報ではなくて、ハマスの攻撃だとするビデオゲームの映像や、イスラエルの反撃だと偽るアルジェリアの花火大会の画像を目にすることになったのだ。そうした偽情報の中には、サッカーのスーパースターであるクリスティアーノ・ロナウドがパレスチナの国旗を持っている偽の写真や、先週末に撮影されたかのように見せかけている3年前のシリア内戦の動画もあった。

偽情報の氾濫を受けて、ピーデンらOSINT研究者たちは、現地情報の分析というよりも、コンテンツの真偽を確認するために多くの時間を費やさなければならなくなっているという。

こうした偽動画や画像の多くは何十万回も閲覧され、多数のエンゲージメントを獲得している。中にはコミュニティによるファクトチェックがなされ、後から注釈が付けられる投稿もあるが、大多数はそのままだ。

さらなる混乱を招く、CEOマスクの発言

さらに、Xの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク自身も、状況悪化に一役買っている。

「この戦争をリアルタイムで追うには、@WarMonitors と @sentdefender を見るといい」。マスクが自身の1億5000万人のフォロワーに向け、このように発信したのは8日の朝のことだ。しかし、マスクが言及したこの2つのアカウントは、どちらもデマ拡散で有名な存在だ。たとえば今年5月には、ホワイトハウス近くで爆発があったという偽情報を揃って拡散し、米国の株価を一時的に急落させた。

@WarMonitors アカウントは以前から反ユダヤ主義的な発言をしていると、多くのユーザーから指摘されている。このアカウントは昨年、ラッパーのYe(カニエ・ウェスト)の投稿への返信で謝意を示しながら「メディアや銀行にいる人の多くはシオニストだ」と書いていた。また、6月には別のXユーザーに向かって、「ユダヤでも崇拝しておけ」と発言していたのである。

マスクはこれらのアカウントを推奨する投稿をすぐに削除したが、それまでに1100万回以上も閲覧されていた。マスクはその後、「いつも通り、自分が好きではないことについても、できる限り事実に近い情報に触れるようにしましょう」と投稿している。

Xの変更が偽情報の共有を後押し

今回の戦争についてのデマがXで広まった背景には、マスクがこの1年間でプラットフォームに加えた変更があると、専門家たちは考えている。これには偽情報対策を担当する社員の大部分を解雇したことも含まれる。

「イーロン・マスクが実施したプラットフォームの変更は、テロリストと戦争のプロパガンダを広める人たちにとって全面的に有利なものでした」と、大西洋評議会の電子捜査研究所(Digital Forensics Research Lab)の研究者であるエマーソン・ブルッキングは『WIRED』に語る。「利益と報酬の仕組みが変更されたため、真実でない情報を流してでも閲覧数を増やしたいという傾向が生まれています。どんな人でも、青いチェックマークを買って、報道メディアのようなプロフィール画像を設定可能です。誰が真実を語っているのかを見極めるのに、かなり手間がかかるようになりました」

『WIRED』は、偽情報の拡散についてX社に取材を申し込んだが、「いまは手が離せません。また後で連絡してください」と自動メッセージの回答が得られるのみだった。Xは昨年、広報部門の社員を全員解雇している。

Xのアルゴリズムは、最もエンゲージメントが得られるコンテンツの拡散を促すように設計されていて、それが偽情報を投稿する動機付けとなっていると、ピーデンは指摘する。「Xには空爆の映像や画像がたくさん溢れています」と言う。「これらは非常に衝撃的であることから、多くのエンゲージメントを獲得できます。これらの画像が恐ろしく、劇的だからこそ、非常にうまく機能するのです。つまり、嘘のストーリーを広めたい人たちにとって、何年も前の衝撃的な動画を流用するインセンティブが存在するということです。こうした動画に人々は惹きつけられてしまうのです」

ファクトチェックのプロも騙されてしまう

22年のロシアによるウクライナ侵攻時と同様、今回のイスラエルとハマスの戦争でも、一次情報の多くが、まず暗号化メッセージプラットフォームの「Telegram」に投稿され、そこから他のプラットフォームに再投稿されるという流れが起きた。そして、そうしたコンテンツのほとんどは、再投稿の際にファクトチェックされないばかりか、投稿者の伝えたい内容に合わせて当初の文脈から切り離されていた。

「最初にTelegramのグループに投稿された一次情報は多数ありますが、その情報を検証する手段は基本的にありません。そうした一次情報はほかのプラットフォーム、特にXに投稿される際、文脈が捻じ曲げられてしまいます」とブルッキングは語る。「各方面の投稿者や、方々の団体の同調者らがこれに加わっているのです」

現在のXの状況は非常に悪く、経験豊富なOSINTの研究者でさえ、偽アカウントに騙されている。偽アカウントの中には週末にイスラエルの首相であるベンヤミン・ネタニヤフが入院したという偽情報を拡散したものも含まれていた

「Xでは以前から確かな情報を手に入れることが困難でしたが、いまでは完全に手の届かないものになっています」とブルッキングは話している。

WIRED US/Translation by Nozomi Okuma, Edit by Mamiko Nakano)

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