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「万博の横でカジノ工事なんて」 開催中の工事中断、吉村知事に要求

近づく 大阪・関西万博

 2025年大阪・関西万博の会場予定地の北隣で進むカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備について、博覧会国際事務局(BIE)や経済界の幹部らが、万博期間中の工事を中断するよう大阪府市に求めていることがわかった。景観悪化や騒音の懸念のためだが、工期をずらせばIR事業者の撤退につながる可能性があり、府市の対応は定まっていない。

 万博は来年4~10月、大阪湾に浮かぶ夢洲(ゆめしま)(同市此花区)で開かれる。一方、万博会場の北隣では、30年秋ごろの開業をめざす日本初のIR施設の整備が進んでいる。昨年から地盤の液状化対策工事を開始。来春ごろには施設の本体工事に取りかかる予定だ。これらのIRの整備計画を盛りこんだ実施協定はすでに国から認可されていた。

 複数の関係者によると、万博を主催する日本国際博覧会協会(万博協会)内には、万博期間中のIRの工事を問題視する声が以前から根強くあった。工事が景観を損なうほか、夢洲はごみの焼却灰などで埋め立てられた人工島で、基盤整備ではより深いくい打ちも必要となり一定の騒音も予想されていた。島につながる道路は2本のみで、工事車両による交通渋滞も問題だった。府市側と水面下で協議を続けてきたが、折り合うことはできていなかったという。

会場から見える工事に不快感

 だが、今春になって府市側がIRの工事でクレーンが林立するイメージなどを提示。協会幹部らから反発が強まり、万博の国際機関であるBIEのディミトリ・ケルケンツェス事務局長や万博協会の十倉雅和会長(経団連会長)も状況を具体的に把握。万博会場から見える形でIRの工事が進むことに不快感を示し、工事の中断を府市側に求めたという。

 このため、7月25日には大阪府の吉村洋文知事が東京都内で十倉会長と面会。協会関係者によると、吉村知事は「予定通り工事を進めないとIRの開業が間に合わない」という趣旨の説明をしたが、理解は得られなかったという。

 万博協会幹部は「万博の横でカジノ施設の工事をするなんて、世界から日本の対応はどうなっているんだと思われる」と批判。また、万博は会場建設費に公費を含む最大2350億円を投じる国家事業であることを踏まえ、「国民の税金を使う万博より、(民間事業の)IRを優先するのか」と指摘した。岸田文雄首相にも経済界側から問題を伝えたという。

IR事業者にある「解除権」

 しかし、府市は工事の中断には後ろ向きだ。その背景には、IRの実施協定に明記された「解除権」の存在がある。

 IR事業者はオリックスと日本MGMリゾーツなどが出資する「大阪IR株式会社」。協定では、26年9月までを期限とし、資金調達や土地の整備などの「事業前提条件」が整わず、事業者が事業実施は困難と判断した場合、違約金無しで協定を解除できると定められている。

 このため府市は、工事の中断で開業日を遅らせたり、新たな事業者負担が増えたりすれば、事業者が撤退しかねないリスクを懸念。府市としては、IRへの入場料納入金・納付金として年間約1060億円の収入も見込んでいるだけに「IR工事を万博期間中に行うことは大前提で、公に繰り返し議論してきた。今更何を言っているのか」(府市幹部)といらだちの声が上がっている。

 協会、府市の協議では、高い壁を作って工事を隠すことや、休日やゴールデンウィーク、夏休み期間の工事中止などの妥協案が浮上しているが、着地点は全く見いだせていない状況だ。

 関係者によると、工事への対応をめぐって、吉村知事や大阪市の横山英幸市長とIR事業者幹部が来週にも協議を行う方向で調整しているという。

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