俺はお前とは違うんだよ、コルニ   作:スゲー=クモラセスキー

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 コルニちゃん視点の起承転結の起。
なお、ハマギクがどん底から上り調子になっていくのに対し、コルニちゃんは上り調子からどん底になっていく予定。
可哀想……でも可愛いね。

 なお、前作の閲覧方法や新作のネタについては作者の活動報告に掲載しておりますので、興味がある方はご一度下さい。


コルニ視点


 あたしの名前はコルニ。

生まれ故郷であるシャラシティの端っこに堂々と看板を掲げている道場の一人娘で、最近はカロス地方で爆発的な大ヒットを記録しているローラースケートが趣味の普通の女の子。

敢えて違うところがあるとすれば、他の女の子達と比べて少しだけ武術とポケモンバトルが得意ってことくらいかな……なんてね!

実は武術もポケモンバトルも少しどころかかなり自信満々だったりするんだけど、その話はまたあとでってことで、まずはあたしがどんな人間で、どういう環境で育ってきたのかを説明していこうかな。

 

 最初にも言ったとおり、あたしはシャラシティ唯一の道場の跡取り娘として生まれてきた。

だけど、あたしも最初は師範代であるお爺ちゃんが教えている武術やポケモンバトル、そしてお爺ちゃんが今も続けているメガシンカを相応しい人達に伝える継承者のお仕事には、正直、殆ど興味がなかった。

何せお爺ちゃんの娘であるママは武術とは全然関係ないファッション系のお仕事をしているし、そんなママと結婚したパパだって真面目な学者さんって感じの人で、どっちも武術どころか喧嘩すらもしたこともない人達だったんだもん。

そんな二人から生まれたあたしが武術以外のファッションやローラースケートに興味が向くのは寧ろ当然って話だよね。

 

 だけど、そんなあたしに武術を──もっと言うならお爺ちゃんの教えを分かりやすく教えてくれる人がいた。

その人の名前はハマギク。

短く切り揃えた黒髪と、力強い光を宿した黒い瞳が特徴的なあたしの兄弟子に当たる人だ。

そんなハマギクさんはあたしよりも5歳年上の男の人で、あたしよりもずっと前からお爺ちゃんの元で武術とポケモンバトルの教えを学んできた人で、あたしとは血が繋がっていないのにどんな時でもあたしを優しく支えてくれお兄ちゃんみたいな人で──。

 

 そして、あたしが生まれてはじめて好きになった素敵な男の人だ。

 

 ハマギクさん──いや、お兄ちゃんがお爺ちゃんの養子になった経緯についてはあたしもそこまで詳しくは教えて貰っていない。

確か、お爺ちゃんが朝の掃除の為に道場の正門を開けたら、そこに「拾って下さい」という張り紙が付けられた段ボールの中で眠るお兄ちゃんの姿があったとかなんとか。

実際のところがどうなのかはあたしにも分からないけど、それがもし本当の話なのだとしたら酷いなんてものじゃない。

まだ生まれて間もない赤ん坊をまるでゴミか何かのように捨てるなんて、はっきり言ってまともな人間のすることじゃないよ。

 

 だけど、そんな辛い境遇にあったにも関わらず、あたしの知っているお兄ちゃんは何処までも真っ直ぐで一本筋の通った人だった。

それは厳しいことで有名なお爺ちゃんの鍛錬にも弱音一つ吐くこともなく自主的に取り組むことは勿論、お兄ちゃんの生活の中心には常に武の心と教えが根付いていることからも明らかだと思う。

まだ両手の指に足りるほどの年齢だったにも関わらず、お兄ちゃんは毎朝早朝4時に目を覚ましては道場の掃除に始まり、お爺ちゃんとの鍛錬や休憩時間の読書など、その歳では考えられないほどストイックな生活を送っていたんだ。

まぁそんなお兄ちゃんの姿を側で見ていたからこそ、あたしも少しずつお兄ちゃんのやっていることに興味を持ち始めたんだけどね。

 

 そんなわけで、毎日欠かさずパートナーポケモンのアサナンと一緒に鍛錬に勤しむお兄ちゃんの姿を見ていたあたしは、気が付けば彼と一緒にお爺ちゃんの鍛錬の受けるようになっていた。

当然、その時にはあたしが生まれたのと同じ日、同じ時間に卵から孵った友達のリオルも一緒だ。

この子を誘った理由は特にないんだけど、強いて言うなら何となく一緒に体を動かしたそうな顔をしていたから……ってことになるのかな?

理由はどうあれ、こうしてあたしとリオルが軽めながらも鍛錬するようになったことにお爺ちゃんはすごく喜んでくれていたし、お兄ちゃんもまた、自分の隣で慣れない武術の真似事をしているあたし達のことを優しい顔で見守ってくれていたことをよく覚えているよ。

 

 そうしてお兄ちゃんの背中を見ながら興味本位で鍛錬の真似事をはじめたあたしとリオルだけど、そんな日々を続ける内に、二人とも武術の奥深さやポケモンバトルの面白さにどんどんのめり込むようになっていった。

その中でも特にあたし達が嵌まったのは、1週間に一度だけ鍛錬の最後にお兄ちゃんとアサナンのコンビを相手に行うポケモンバトル──通称「模擬戦」だ。

本来はその週の鍛錬で習った技や知識を師範代であるお爺ちゃんの前で披露するのが目的の模擬戦なんだけど、それも遊びたい盛りのあたしやリオルにとっては、中々一緒にいる時間が取れないお兄ちゃん達と思いっきり遊べる貴重な時間になっていたんだ。

だからこそ、あたしもリオルも全力でお兄ちゃんとアサナンに挑んでいたし、そんなあたし達の意図を汲んでくれたお兄ちゃん達も、全力でとはいかないまでも手だけは抜かずにあたし達のバトルごっこに付き合ってくれていたんだ。

 

 また、本来の目的である武術の習得と、そこに込められた様々な教えの理解の方にも本格的に取り組み始めたのはこの頃だったかな。

相変わらずお爺ちゃんの言っていることは小難しい上に妙に遠回しで、子供のあたしには殆ど理解出来ていなかったけど、そんなあたし達のことを何時もフォローしてくれていたのがお兄ちゃんだった。

お兄ちゃんの教え方はとても分かりやすい上にすごく丁寧で、お爺ちゃんの語る堅苦しい教えの話も子供のあたしにも理解出来るように噛み砕いてくれるばかりか、それでもピンと来ていない時には、面白い例え話やお伽噺を交えながら何度もあたしにお爺ちゃんの言わんとすることの意味を教えてくれたんだ。

多分、この時点であたしはお爺ちゃんよりもお兄ちゃんの方が人に物を教えるのは上手なんじゃないかなぁと考えていたと思う。

 

  同時に、あたしの中でのお兄ちゃんへの想いが、身近な男の人に対する憧れから、自分のことを大切に想ってくれる素敵な男性のそれに変わっていったのも丁度この歳くらいだったと記憶している。

正直に言って、この時のあたしは我ながら結構なおませさんだったと思う。

だけど、それも仕方のないことだと思うんだ。

だってまだ6歳になったばかりの女の子の側に、他の同年代の子達と比べても一回りも二回りも大人っぽくて、男の子特有の意地悪もバカなこともしない上、どんなに忙しい時にでもあたしが声を掛けたら笑顔で相手をしてくれる5歳年上の異性がいたら、誰でも好きになっちゃうと思うから。

 

 そんな鍛錬とポケモンバトル漬けの毎日を送り、あたしとお兄ちゃんがそれぞれ7歳と12歳の年齢になったある日のこと。

何時ものように鍛錬を終えたあたしとお兄ちゃんに向かって、普段よりも幾分か難しい表情を浮かべたお爺ちゃんがこう言った。

 

「ハマギクにコルニよ。これまで、ワシはお前達に等しくワシの知る限りの武術とポケモンバトルに関する技と知識を授けてきた。しかし、それも新たな一歩を踏み出す時が来たように思う──そこで、じゃ。ハマギクよ。今日よりお前には、ワシに変わってコルニの指南に当たる任を与える。そしてコルニよ。お前も今日よりこのハマギクに師事し、更なる武術の会得とそこに秘められた数多の教えの理解に努めるように」

 

 そんなお爺ちゃんからの言葉を聞いたあたしの心は舞い上がった。

それはもう、お爺ちゃんの目さえなければその場で小躍りしたくなるほどの勢いで舞い上がっていた。

何せあたしは、純粋な武術とポケモンバトルへの興味からお爺ちゃんの鍛錬に参加していたわけではなく、ただ単純にお兄ちゃんと触れ合える時間が欲しくて彼と同じ鍛錬に参加していたのだ。

そんなあたしの目的或いは原動力とも言えるお兄ちゃんが付きっきりで指導してくれると聞いて、彼のことが大好きなあたしのテンションが上がらないわけがないのだ。

 

 そして、更に喜ばしいことに、お兄ちゃんの方もお爺ちゃんからあたしの指導役という名のお仕事を貰えてとても嬉しそうだった。

これでもしもお兄ちゃんがお爺ちゃんの言葉に対して乗り気じゃなかったり、少しでも嫌な顔をしていようものならあたしもテンション爆下がりだったかもしれないけど、少なくともあたしを指導することが彼にとっても決して迷惑な話ではないと分かったのは大きな収穫だったかな。

まぁ実際は尊敬するお爺ちゃんの手前で断ることが出来なかったって可能性もなきにもあらずだけど、そんなもしもの話なんてこの時のあたしにはどうでもよかったんだ。

お兄ちゃんがあたしの師匠になってくれる……それだけで、あたしはこれまで以上に彼との鍛錬やポケモンバトルに精を出せると考えていたから。

 

 ──ただ、尊敬する師匠から初めて大きな仕事を任されたことを喜ぶお兄ちゃんの姿を見ながらお爺ちゃんがぼそりと口にした「この子への指導を通して、彼奴にもポケモンと心を通わせることの本当の意味を理解してくれるといいのだが」という呟きを聞いた瞬間。

あたしはそんなお爺ちゃんの言葉に対して、自分でもよく分からないほど小さな……だけど決して無視できないほど確かな違和感を覚えたのだった。

 

 そうして指導役がお爺ちゃんからお兄ちゃんへと変わり、昔から大好きだった彼から教えて貰うことが格段に増えたあたしの生活はこれまで以上に明るく、そして楽しいものになった。

勿論、この頃からあたしの興味は学校を中心に流行り始めたローラースケートや、ママのお仕事でもあるファッションにも目が向くようにもなったんだけど、それでも毎朝早く目を覚ましてはお兄ちゃんと一緒に道場の掃除をして、お兄ちゃんと一緒に武術とポケモンバトルの技と知識を研鑽し、そしてお兄ちゃんと一緒の休憩時間に何気ない話をするというルーティーンを欠かさず行っていたんだ。

それは単純にあたしがお兄ちゃんの側にいたかったからという理由もあるけれど、それ以上に同年代の子達──特にお兄ちゃんと同じ男の子なのに、中身がまるでダメダメな子達と付き合うのが煩わしかったというのもある。

理由はまぁ……少し前にも説明したとおり、クラスの男子にはお兄ちゃんのような落ち着きも、沢山の本を読んできたことで得た深い知識も、お爺ちゃんとの鍛錬の末に身に付けた逞しい体も抜群のバトルのセンスもない子達だったからだ。

 

 つまり、あたしは色々と理由を付けてあたしにちょっかいを掛けて来たり、あたしとルカリオのコンビとのポケモンバトルに負けてはギャーギャーと文句を言う同年代の男子には全っ然興味がないってこと。

中には純粋な好意であたしに声を掛けてくれた男の子もいたんだけど、それでもあたしの中の価値観が変わることはなかったなぁ……ちょっとだけ申し訳ない気もするけどね。

 

 だからこそ、あたしは大好きなお兄ちゃんに振り向いて貰いたくて、彼が教えてくれるものは何でも自分のものに出来るように努力した。

武術を極める上で大切な冷静沈着な心を手に入れるための座禅も、古い本の中から新たな知識を得るための日に数時間の読書も、そして昔からお爺ちゃんにも口酸っぱく言われ続けて来た「ポケモンと心を通わせ、その先にあるメガシンカの極地」に至るためのルカリオとの対話も、その全てをこれまで以上のやる気と熱意を持って取り組んできたんだ。

おかげであたしは心身共に師匠であるお兄ちゃんにも負けないくらい強くなれた自信があるし、小さい頃から何となくお互いの考えていることが分かり合っていたルカリオともより一層仲良くなれた。

その分、趣味のローラースケートや流行のファッション調査なんかに割く時間を確保するのが大変な時もあったけど、あたしはそれでも全く問題なかった。

 

 何故なら、あたしはそんな自分だけの時間を他の誰かと一緒に過ごすより、日々の鍛錬の合間の僅かな時間をお兄ちゃんと一緒に過ごしたり、流行りに疎い彼をあたし色のファッションセンスで染めていく時間が何よりも好きだったから。

そうして武術とポケモンバトル以外にはとんと無頓着なお兄ちゃんにあたしという存在を意識して貰えるように努力すれば、何時かは彼もあたしのことを妹弟子のコルニではなく、一人の女の子のコルニとして見てくれるようになると信じていたから。

お爺ちゃんの後を継いでメガシンカの神秘を後生に伝える継承者のお仕事なんてどうでもいい。

ただあたしは、大好きなお兄ちゃんとずっと一緒にいられればそれだけで幸せだったんだ。

 

 ──だけど、そんなあたしの思う幸せと、お兄ちゃんの思う幸せが全く違うものだということを思い知らされたのは、あたしとお兄ちゃんの節目の歳を祝う和やかな夕食会の次の日の朝に起こったある出来事からだった。




 コルニちゃんの笑顔可愛いね。





でも泣き顔はもっと可愛いよ。

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