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── 近そうなお仕事として特殊効果(入佐芽詠美氏)がありますが、どんなところに使われているのでしょうか?
篠原 印象的なものでいえば雛人形周りです。着物の質感や、特に印象的なのは人形の顔でしょうか。雛人形の顔って生で見ると、想像以上にやわらかい印象があって、かつ情報量もすごいあるんですよね。作画だけでそのディテールを描いてしまうと、雛人形が本来もつやわらかさが出てきません。かと言って印象を近づけるように作画してしまうと……すごくのっぺりしてしまう。これらを両立させないと新菜自身の人形へのこだわりも浅く見えてしまうところを、入佐さんが調整してくれています。ほかにも細かい部分で、作画だけでは描き込みが足りないところを入佐さんが全般に渡って緻密なディテールを足してくれました。あと、特効に関してのディープな話としては、第9話の電柱です。ここではアナログのセルに特効を乗せた感じをデジタル上で再現しようとしています。この話数の絵コンテ・演出を担当した山崎(雄太)さんが、「カレカノ」調(「彼氏彼女の事情」。アニメーション制作 GAINAX、J.C.STAFF)を目指していて、ガイナックスさんは小道具をセルで描いていたので、それにならって電柱をアナログのセル調で描きたいと言い出したんです(笑)。その場面はお2人にお任せしたところいい感じに仕上げてくれました。
── 先ほどのコスプレ衣装だけでなく、雛人形というリアリティラインも存在するので、それを作中でどのようなバランスで見せていくのかも大変ですね。篠原 そうですね。特に物語冒頭の雛人形や最後の打ち上げ花火は、新菜が見惚れないといけないので力を入れました。キャラクターが見惚れるからには、それだけ絵に説得力を持たせなければなりません。それで、視聴者が見てもきれいだなと思ってもらえるような映像を目指しました。特に雛人形については入佐さんのお仕事に深く感謝をしています。
── あともうひとつ、今回リアリティにからめてうかがいたいのは、海夢の「ギャルしゃべり」です。キャストの芝居のほかにコンテの尺だとか、編集でのタイミングの取り方とかさまざまな要素が考えられるのですが、主にはどこがポイントだったのでしょうか?篠原 大きくは2点あると思います。ひとつは語彙の部分です。原作の福田(晋一)先生からはアニメ化に際して基本的にリテイクはなかったのですが、海夢のキャラ感についてのチェックは何度かありました。原作にない部分を足すときに、セリフを足したりするのですが、そこでよくある「ギャルっぽい」感じのイメージでセリフを書くと、「今風じゃない」とチェックが入りました。つまり、海夢は先生の中でそういった像からは一線を画しているわけです。多くの方が想像するギャルのキャラクターの喋りからは少し遠ざかりますが、誇張しないことで括弧つきの「ギャルキャラ」にはならないでいられたのかもしれません。2点目は、やはり海夢役の直田(姫奈)さんのお芝居によるものだと思います。実は彼女は最初のテープオーディションのときにそれほど目立っていたわけではなかったんです。
── そうなんですか。直田さんはほかの作品でもギャルしゃべりをするキャラクターを演じられているので、元々お得意なのかと思っていました。篠原 その作品を自分は知りませんでしたので、それをもとに選んだというわけではありません。テープだけでは本来の実力が見定められないことは、ままあります。その時点で彼女に注目をしていたのは音響監督の藤田(亜紀子)さんぐらいでしたね。選んだ決め手はオーディションで実際に目の前で演じていただいたときです。それまで誰も決定打がなくて困っていたところ、彼女がしゃべったときに「海夢ってこういうことだよね」と、皆の意見が一致しました。素で海夢を演じられそうな印象があったというか、海夢というキャラクターが持っているポジティブさを直田さんも持っていそうな感じがしました。結果的にほかのメインキャラクターも、新菜、心寿(しんじゅ)はキャラクターと演者の印象が近くなった気がします。そこにジュジュ(紗寿叶)役の種﨑(敦美)さんが加わり、トータルにまとめてくれた現場になりました。
── どんなお芝居が印象に残っていますか?篠原 第8話のBパートで新菜が「(海に)今日は撮影にきたんですか?~映える所でって…」と聞いた後の、海夢の振り返りの「え?」。これは天才の芝居だなと思いました。あと、最終話の花火のシーンでかき氷を食べた後に舌を出すシーン。何度も「べっ」と言う芝居はアドリブなのですが、そこもよかったですね。
コロナ禍でどうしてもバラバラ録ることが多い中、石毛(翔弥)さんと直田さんの2人は一緒に録れたからこその呼吸感も大きかったと思います。直田さんにとって、出ずっぱり・しゃべりっぱなしの作品はこの作品が初めてだと思うので、そんななかで石毛さんとともに藤田音響監督の指導のもと、最後まで駆け抜けてくれました。
── 作品作り全体を通じて監督が大きく悩んだことは何でしたか?篠原 自分の手の遅さに悩みました。コンテチェックで時間がかかり、それが現場の足を引っ張っているようで、辛かったです。第4話の小室裕一郎さん、第8話の川上雄介さん、第11話の山本ゆうすけさんがそれぞれの修正点をご自分で手を動かして直してくれたので、クオリティに妥協せずともどうにか間に合いました。もしその3話もすべて自分の手で直していたら、後半のクオリティが一段下がっていたと思います。以前、別作品で監督をしたときはスケジュールを引っ張ってしまって、スタッフにも作品にも迷惑をかけてしまった部分がありました。作品を面白くしようと思って手を入れた結果、全体のクオリティを下げてしまうジレンマがあったので、今回はそのバランスを見極めるようにがんばって作業していった結果、うまくいったという感じです。
── シリーズ制作における監督のバランス感覚とは?篠原 自分の感覚を信じないようにしていたことがバランスでした。自分が面白いと思っている部分が、「本当に面白いのか?」、「これが最良なのか?」と常に疑って、人の話を聞いて受け入れようとしていました。その部分をスタッフの皆さんに支えていただいたことで、全体のクオリティを保てたのかなと思います。スタッフを頼って長い視点で見てシリーズの完成度を上げるということを体感できた、そんな作品だったと思います。
(取材・構成/日詰明嘉)
(C) 福田晋一/SQUARE ENIX·「着せ恋」製作委員会