<土曜訪問>銃撃事件追い続ける 統一教会問題を長年取材 鈴木エイトさん(ジャーナリスト)
2023年9月16日 13時22分
安倍晋三元首相が奈良市で街頭演説中に凶弾に倒れて1年2カ月余り。霊感商法などが問題となった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党議員らの関係が次々と明らかになり、多くの2世信者が教団による家庭崩壊を訴えだした。そうした報道があるたびに的確なコメントで注目されているのがジャーナリストの鈴木エイトさん(55)だ。
◆パンク系バンドの長髪ボーカルだった大学時代
風変わりな経歴を持っている。滋賀県出身で日本大学に入学後、ミュージシャンを目指していた時期がある。「若気の至り」と言うが、パンク系のバンドを組み、ライブでは長髪をなびかせたボーカルとして、ちょっとした人気者だった。結局、メジャーデビューは果たせずに26歳で髪を切った。アルバイトをしていたビルの管理やメンテナンスの会社に就職した。
週5日勤務。作業着で空調機点検-といった業務をこなした。挫折感はあったが自分の選択。可もなく不可もない日々を送っていた。2002年、教団に関する特集番組を偶然、見た。「アンケート」「手相を勉強」と言って入信者を導く偽装勧誘を知った。東京・渋谷でそれを目撃。近寄って「これは問題の宗教団体の勧誘」と阻止した。
「強い正義感を持っていたわけではないが、ウソをついての勧誘は問題だし、無垢 な人がはまってしまうのは見過ごせなかった」。毎週末、そんな阻止活動で渋谷のほか、新宿や池袋にも通うようになった。
◆姉も信者、でもきっかけではない
「善良で真面目な人ほどはまりやすい」とは知っていた。実は姉が教団の信者。ちょっとしたきっかけで入信し、身内の不幸を突かれては「一族のメシア(救済者)が必要」とマインドコントロールされた。
「『姉の問題で阻止活動を始めた』と矮小 化されると困る。姉は家族の問題で、教団は社会の問題。誰だって何か問題に気付けば、できる範囲でやることをやるでしょう。私にできることが阻止活動だった」
教団から脅迫されたり、暴行されたりもした。それでも活動を続けた。教団を知れば知るほど問題意識は高まった。教団の被害者を救済する全国霊感商法対策弁護士連絡会や日本脱カルト協会とも連携。09年にはニュースサイト「やや日刊カルト新聞」に参加して、本業の傍ら副業のジャーナリスト活動を本格化した。
◆「安倍さんの死に大きな喪失感」その意味は
教団の霊感商法や合同結婚式は1980年代に社会問題化し、メディアが盛んに報じた時期があった。しかし、教団が信者による選挙応援を武器に自民党の政治家に近づくにつれて下火に。メディアの監視が働かない中、2012年末に首相に返り咲いた安倍氏は教団に接近。21年9月に教団関連の集会で安倍氏のビデオメッセージが流された。鈴木さんなどによる、ごく少数の報道によって山上徹也被告は安倍氏と教団の関係を確信。銃撃事件を起こしたとされている。
その事件でメディアが教団の問題を再び報じるようになり、20年間余りも孤独な闘いを続けてきた鈴木さんにもスポットライトが当たった。それまでは出版社に相手にされなかったが、著作が次々と出版されて日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞なども受賞。副業だったジャーナリスト活動がやっと本業になった。
しかし、心中は複雑だ。「安倍さんと教団の関係は問題だが、その代償で命を落としたのは何とも皮肉。それに、山上被告が犯行に至る経緯には私の報道の影響がある」と言う。
「安倍さんの死に大きな喪失感があった。選べるのなら、注目される今の自分より、無名のまま安倍さんを追及する自分を選ぶ」
◆当事者として最後まで事件を追及する責任がある
教団の問題はヤマ場を迎えている。政府が解散命令を請求するかどうかだ。鈴木さんは「政治家が邪魔しなければ、10月には出る」と予測する。ただ、請求されても霊感商法の被害者救済や信者の社会復帰など、多くの問題は残る。教団と関係の深い大物政治家の問題も未解決のままだ。
「後に知ったが、事件前に山上被告は私に接触していた。もしかしたら、事件を止められたかもしれない。間接的とはいえ、私は事件の当事者の一人。最後まで事件を追及する責任がある」(鈴木伸幸)
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