「Nature誌」に削除要請された、太陽で「スーパーフレア」が起きることへの言及…その恐ろしい実態
少しずつ共有されはじめた危機感
「Nature」に論文が掲載された際(2012年5月)、日本のメディアに向けても発表することにしました。抱いている懸念についてもしっかり話しました。すると、やはり災害大国のメディアだけあって、私の意図をきちんと汲んだ報道をしてくれました。 また世界各地でも危機感を共有してくれる人が現れました。2014年6月にチェコでの学会に行ったときには、テレビに生出演しました。同じ学会の研究者がテレビ局に話して実現したのですが、7~8分の時間をもらいスーパーフレアのかんたんな仕組みやもたらす影響について話しました(次のURLから見られます。https://www.ceskatelevize.cz/porady/1096902795-studio-6/214411010100625 98分ごろより)。 ほかにアメリカの「ワシントン・ポスト」や、中国、韓国の新聞などでも「太陽でもスーパーフレアが起こりうることが京大の柴田のグループによって発見された」と記事にされました。 人間には、危機を直視したくない心理が働きます。しかし、災害の到来は人間の意図と関係ありません。スーパーフレアもまた、そうした危機の一つです。これは私の想像ではなく、多くの観測データの解析にもとづく考察から導き出せるのです。 被害を防ぐためには、まずフレアが発生する仕組みの全容を解明しなくてはなりません。解明できれば、どういう現象が太陽上で見られたら発生を警戒すべきなのかがわかるようになるでしょう。 このように、太陽フレアの研究は決して浮世離れした学問ではありません。「今そこにある危機」をコントロールするための研究でもあるのです。 スーパーフレアの危険性については、太陽の研究者も100%理解してくれるわけではありません。「Nature」の査読者たちのようにもし事実なら恐ろしいことなので、本当らしさがかなり確かになるまでは公表すべきではない、と考える人たちもいます。 ところが、意外な分野の科学者が、私の話に強い興味を持ってくれました。 古生物の研究者です。 生物が生まれて以来、40億年の歴史を研究している彼らにとって、地球環境を一変させ、多くの生物を絶滅に追い込むほどの大カタストロフィ(破滅、絶滅)は、決して絵空事ではないからです。 歴史の中で、生物は少なくとも5回以上の大量絶滅に瀕しています。大量絶滅というと、私たちは中生代白亜紀末の恐竜の絶滅をまず連想しますが、史上最大規模の絶滅はそれよりももっと前、約2億5100万年前、古生代ペルム紀末に起きました。なんと全生物種の9割以上が絶滅したというのです。 これらの大カタストロフィはどうやって起こったのか。白亜紀末の恐竜の絶滅については巨大隕石の衝突が有力と考えられていますが、それ以前の4回の大絶滅の原因については未だ謎です。共通しているのは、なんらかの激しい気候変動に見舞われたであろうという見解です。原因は様々取りざたされ、巨大噴火の発生や隕石の落下などが議論されているのですが、私は短期間での大量絶滅については、スーパーフレアが候補に入ってもおかしくないと考えています。 もし今知られている発生頻度の統計法則が、もっと巨大なフレアに対しても成り立っているならば、X10万クラスの巨大フレアでさえ、10万年に一度起きるかもしれません。X10万以上はまだわかりません。起きた証拠はありませんが、起きないともいい切れないのです(統計法則とは、フレアの規模の大きさと頻度の間の法則のこと。図2で、たとえばX10→X100と規模が10倍になると、発生頻度は10分の1になっているのがわかります。ほかの値についてもその関係性は同様です)。 もし、このクラスのフレアによって発生した放射線が一斉に地球上に降り注いだら、生物はただではすみません。9割が絶滅という事態も、十分にありえます。 【もっと読む】『超巨大電波望遠鏡「SKA」が予言する人類の寿命…宇宙物理学者が「人類は今後100年間生き残れるかどうかわからない」と発言するワケ』
柴田 一成(京都大学名誉教授/宇宙物理学者)