2024-07-31

ソシャゲ運営をしていた時の思い出 2/2

昨日投稿したもの

https://anond.hatelabo.jp/20240730192839



やがて、カスタマーサポート情報提供が入りはじめた。「ガチャで出てくるカードが複製されている」「ヤフオクなどで売られている」という内容だった。

以前からあるにはあった。この時期になって急に増えてきた。これまでは「そのような事実は把握していません」という内容を返してたけど、本格的に調査しないといけない段階に入っていた。

まり詳しく書くことはできないけど、当時の調査結果を掻い摘んで述べる。

ネット掲示板オークションを見たところ、何らかの手段での複製が可能判断

・具体的な手法まではわからない

カード個別IDを付番していないため、細かい追跡作業はできない

 ※本物・偽物の区別はできる。人力になるけど……

解決への道筋には、法律上問題が絡んでいる。

複製されたカード所有権が誰にあるか、そもそもガチャ景表法として問題がないかなど、前例のない中から弊社の見解を表明しないといけない。

業界全体の問題と言ってもいいところにまで発展してた。これまでは消費者庁グレーゾーンとして見逃してくれていた(今思えば、対応が面倒だったのだろう)。この問題が明らかになったことで、ソシャゲ課金物について、業界レベルでの対応必要になった。

当時の私に、そんな法的見解の案を作れるはずもない。また、ベンチャー企業である弊社にそんな知見がある人はおらず……みんな、時間が経つとともに問題がなかったかのように振る舞いはじめた。半ば諦めていた。若き日の私に対処できることはなく、有事に備えてネット掲示板を読み漁るだけだった。あとはカスタマーサポートとか。

カードが複製できるというのは、ネット掲示板参加者には公然事実となっているようで、複製方法について真剣議論している様子があった。中にはヒントを出してる人もいた。

翌年になっても、複製問題は続いた。相変わらず問い合わせは来るし、ネットオークションでは不審レアカードが多数売られている。

こちら(運営側)では、RMT(リアルマネートレード)をしているアカウント自体はわかる。SSRコモンカードを交換してるトレードを調べればいい。でも、ユーザー処分については話が別だ。そうしようと思えば、複製カードであることを証明する必要がある(RMT自体日本法律が禁じてない)。

やろうと思えば、できたと思う。複製について、カードの元情報プロパティを見れば、いずれかの情報が本物=偽物になっている。ただ、人力での作業がどうしても入るので、現実として不可能に近かった。

この複製問題について、弊社の対処が追い付かなかった最大の原因は、対応方針が上の方でまとまっていなかったからだ……と、アラサーになった今ではわかる。社内の誰もが経験したことのない事態で、年長組でも30代くらいだ。まともに対応ができたとしたら神企業である

そんな折にも、次のコンプガチャが始まっていた。社内では危険だという声が上がっていたけど、もうすでに企画済だった。すべて完成していた。やるしかない。利益を失うことになる。

みんな、心の底ではわかってた。このままだと大変な事態を招くことを。それでも、このままでもどうにかなる道はあるんじゃないかって、ほかのメンバーも、上の人間も考えてたんだと思う。

これがドン・キホーテの夢なんだって言い出した人はいなかった。みんな風車小屋は怖かったけど、見えない力に駆り立てられて、失敗の恐怖を感じながら目をつぶって突き進んでいた。

あなたも、仕事がキツすぎて危険状態になると、そういう心持ちになることはないだろうか。組織的にそんな状態になってた。



ある日、複製方法がわかった。ネット掲示板に複製方法を上げてくれた人がいた。やり方が簡単すぎて信じてくれない人もいるだろう、それほど簡単だった。小学生でも思い付くレベルの。

炎上した。ひどかった。見事な炎上だった。ネット掲示板では、1時間以内に1000レスがついて次のスレッドに移行していた。

こうなるとは思ってなかった。炎上はしないと思っていた。複製方法がわかったとしても、「あーそういう方法ね。運営情報提供しなくきゃ~」くらいだと思ってた。現実逃避だった。

翌日には、もっと悲惨なことになった。スポーツ新聞週刊誌大手新聞社も、今回の事件を紙面に載せた。この可能だって考えてなかった。たかだかソーシャルゲームの一事件を取り上げる新聞なんてないだろう、と弊社は呑気に構えていた。

この日から、私は電話当番になった。取引先や、名も知らぬ人間や、マスコミその他いろんな人達からの問い合わせに答えることになった。心ない言葉ボコボコにされた。上司に代わろうとすると、「お前が答えろ!!」と返される。

それだけじゃなくて、チームリーダー層が役員会に報告を上げるための資料作りも命じられた。毎日深夜帰りになって、ホーム電車がくると飛び込みたくなったり、自動車が走っていると、ハンドル操作を誤って私を轢いてくれないかな、そしたら会社に行かなくていいのに……と思うようになっていた。

全力で対応に走ったものの、弊社にできることは限られていた。あまり経験が不足していた。できることといえば、コモン弁護士への相談と、収益を失わない程度に幣タイトル継続させることだった(※トレード機能をしばらく制限)。

あとは、法律論をベースにしてどういう対応をしていくか……私が知っているのはここまでだ。当時のオフィスは確かに狭かったけど、若手社員が手に入る情報はこの程度のものだった。

どういう議論があって、最終的にあの対応になったのかはわからない。十分な対応だったかといえば、そうともいえるし、そうでないともいえる。報道されている範囲説明する。

・複製ができないよう対策実施

・複製及びRMTに関わったアカウントは(真っ黒に限り)永久凍結

・複製されたカードプログラム+人力判定で順次削除

監督官庁への顛末書と改善報告書の提出

コンプガチャ廃止して新しいガチャシステムに変更

カードを複製した人への損害賠償請求は行わなかった。電子データであるカード金銭価値があると認めたことになるから

個人勝手富くじ(ガチャ)を作って売ったら捕まる。ソシャゲガチャにその要素があったと認めることになってしまう。

※今は「ソシャゲガチャ景品表示法の景品に該当しない」となっている。当時は消費者庁見解を表明してなくて、慎重な対応必要だった。

今だから言うけど、カード複製は反社組織がやっていたように思う。最初素人が見つけただけで、それが広がっていったのかなって。

多くのソシャゲにある通常の1回300円などのガチャ違反でないのは、『ソーシャルカードゲーム』を利用するための取引物だからあくま利用者は、ソシャゲというサービスに対してお金を支払う。ガチャ自体は仕掛けにすぎない。

でも、特定カード(景品)を手に入れるためにコンプガチャを回さないといけないとなると、グレーゾーンからクロに変わる。絵合わせ、という違法行為。それが消費者庁見解だった。

騒動後に発表されたソシャゲアニメも、ひどい叩かれようだった。Youtubeでもニコニコ動画でも、「コンプガチャ推進クソアニメ」というコメントが多数あった。本当はニコ動配信予定だったのに、時流に従ってやめざるを得なくなった。地上波放送されたのは救いだった。



その年の瀬会社を辞めたいと思った。一方で、そんなに早くやめたら転職で不利になるんじゃ? という不安もあって、あと1年、長くても2年だけ働くことにした。そのあたりの時期がくる頃には、転職先を見つけて退職した。

理由としては、自分反社会的なことをしてると思ったから。消費者(プレイヤー)から、とにかくお金をもらうことばかりを考えている会社で働いてる気がしたから。

……今は、やっぱりゲーム業界にいる。ゲームプランナーの端くれとして家庭用のタイトルを作ってる。大きい会社とかじゃない。中くらいのところである

実際、アップルグーグル配信しているソシャゲの一部は反社組織(の企業舎弟)が作っている。内容は純然たるギャンブルでも、ガワだけを美少女ゲームにしていることが極めて多い。

あの当時(2012頃)は、自分でも法律とか勉強して、どうやったら今の事態解決できるか、そしてその後は、利用者お金の苦労をせずにゲームを楽しめる方法自分なりに考えていた。

そして、導き出した。

有料ガチャをやめればいい。

当たり前のことだった。月額料金制にして、ガチャで出るのはおまけカードだけにして、魅力的なカードについては参加者同士によるゲーム通貨での入札にすればいい。回復アイテムや便利アイテムなど、いわゆる時短グッズは普通に現金で売ればいいと思う。

そんなゲームが、かつてあった。私が最初担当した穴掘りゲームだ。岩を砕いて地面を掘り進めるだけの、ボタン一つでできる単純なゲームだった。奥が深かった。

参加者同士で交流できる掲示板があって、宝を発掘して集めたポイントを貯めてアバターと交換できた。みんな楽しくプレイしていたっけ。



ここまで付き合ってくれてありがとう

これからも、ゲームを作る側の1人として、いい作品を残せたらと思う。

よろしければ、心の中で応援をお願いします。

最後に、思い出深い利用者について。

感謝言葉を伝えたい。

1人目

の子は、カードトレード掲示板管理人だった。10万人以上の登録がある掲示板の。高校生女の子1人で開設スタートして、最後まで1人で管理していた。掲示板を作った目的参加者に共有して、利用規約を制定して、参加者からの苦情にも対応していた。経営力のある子だった。利用者トラブル仲裁をしているのを何度も見させてもらいました。ゲームを好きになってくれてありがとうね。

2人目

カード情報まとめクラブの人。全てのカード情報を集めるという目的団体があって、ある参加者がいた。その人は、数学理論を使ってゲーム攻略最適化や、コンプガチャ期待値研究していた。私も興味深く読ませてもらったし、騒動当時も上への報告の一部に使わせてもらった。確か、プロフィールには京都大学卒業して帝人に勤めているとあった(※今はアカウントが残ってない)。ほかの運営スタッフの人も、幣タイトル情熱思い入れのある人ばかりだった。感謝している。

3人目

カードの複製について最初情報提供してくれた利用者の人。ネット掲示板を見ていれば、いつか犯人尻尾を出すとのアドバイスをいただいた。おそらく若い人かなと思う。幣タイトルが好きだからこそ、こういうメッセージをくれたんだと思う。本当にありがとうございました

記事への反応 -
  • 前の会社を辞めて、今月でちょうど十年になる。いい機会だから振り返ってみたい。若かりし日のことを。 この振り返りの日記が、ソーシャルゲーム業界や、ゲーム開発者への理解を...

  • ソシャゲの運営時にカードの複製問題が発生し、問い合わせが急増したんだ。複製方法が公開されて炎上し、大手メディアにも取り上げられた。最終的にガチャシステムを変更し、運営...

  • カードの元情報のプロパティを見れば、いずれかの情報が本物=偽物になっている え? DBエンジニアいなかったの?

  • 携帯二台用意しておいて、受け取り完了する前にオフラインにするんだよな

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん