close

2024.06.19 17:30

フジロック×サマソニ社長対談 運営トップが赤裸々に語る2大フェスの「今」

左からスマッシュ社長・佐潟敏博、クリエイティブマン代表・清水直樹(Photo = Mitsuru Nishimura)

本誌の人気企画、フジロック/サマーソニック両運営による対談インタビュー。4回目となる今年は、ついにトップ対談が実現。招聘プロモーターとして切磋琢磨し合う両社の関係性、円安などシビアな問題への取り組み、洋楽フェスの矜持と変化を恐れない姿勢、ブッキングの裏話から今年の見どころまで。スマッシュ社長・佐潟敏博さん、クリエイティブマンプロダクション代表・清水直樹さんに包み隠さず語ってもらった。(※編注:対談は5月10日に実施 取材:小熊俊哉/構成:最込舜一)


共存共栄を図る、両社の関係性

―初の社長対談ということで、お二方の個人的な繋がりから聞かせてください。

清水:年に1、2回食事するよね。リキッドルームの山根(克巳)さんが間に入って、年末とかにお互いの近況とか来年のことを話し合ったり。佐潟くんの前に小川(大八)さんが社長だった頃は、ロッキング・オンの渋谷(陽一)さんも交えた三社会談みたいな情報交換を常にやってたかな。あとはブッキングでぶつかりそうな場合は直接電話してますね。

佐潟:小川の頃から、フジロックとサマソニを含めて情報交換はここずっとですよね。

清水:これだけ円安になっているので、マネーゲームみたいにギャラを釣り上げられるのが双方にとって一番良くない。例えばSZAについては絶対フジもやる気だし、金額を上げるためにこっちに来てると思ったから、「オファーしてるよね?」って佐潟くんに電話したら「してます」って言うので、ウチはもうこれ以上のフィーは出さないと伝えて。お互いそれに乗らないようにってことを話したのが最後かな。

佐潟:そうですね。違うフェスとも交渉していると言われたので「清水さん頼みます、次はもう(金額を)上げないでください」って。

―いきなりすごい話が出ましたけど、サマソニもSZAに声をかけていた?

清水:トラヴィス・スコットが決まらなかったときにSZAをヘッドライナーにしようと考えたんだけど、マネスキンとブリング・ミー・ザ・ホライズン(以下、BMTH)をダブルヘッドライナーにした方がお互いのためにもなると思ったので、あえて深追いはしなかった(※編注:フジロック出演が当初予定されていたSZAは、5月28日に突如キャンセル。その後6月13日に、ザ・キラーズが初日ヘッドライナーとして出演することが発表された)。

―ヘッドライナーについては、早い段階でお互いの状況を把握しているのでしょうか?

清水:そうね。逆にトラヴィスは早い段階で「諦めてます」と(フジ側に)教えてもらってた。

佐潟:フジロックでもチャレンジしたんですけど、あまりに返事が来ないし時間もかかるので、もう期限を切ってやめました。

清水:基本的にヘッドライナーや大きいところは調整しているけど、それ以下のオファーはお互い自由にって感じかな。

―それでも、いざ争奪戦となったら紳士的なやり取りがあったりするのでしょうか。

佐潟:お金の張り合いです(笑)。



―フジロックが1997年に初開催され、その後サマソニが2000年に始まったわけですが、お互いのフェスをどのように意識してきましたか。

清水:実は第1回フジロックのとき、クリエイティブマンの名前が協力で入ってるんです。ずっと付き合いのあったグリーン・デイが「フジロックに出たい」と言ってて(2日目に出演予定だったが台風のため中止に)。彼らとはすごくいい繋がりがあったので、来日中のツアーに同行したり、フジロック直前に高田馬場Areaでの公演を手伝ったりしました。

佐潟:やりましたね、キャパ300人くらいですよね。

清水:フジロックに関しては、すごいフェスが始まったなっていう。もちろん僕もプロモーターだから、いつかはフェスをやりたいと思ってた。でも、フジとは全然違うものをやっていこうと考えていましたね。どうにかしてコンセプトがぶつからないようにしないといけなかったし、自分はキャンプも億劫だったから、フジのスタイルに向いていないとわかっていたんです。日高(正博)さんとの違いは最初から明確にあった。

佐潟:最初の年の2日目に台風が来て大変なことになったときは、もう会社が潰れるんじゃないかと思いました(苦笑)。お台場に移した2年目はある意味成功したので、もう東京でいいじゃないかと内心思ったんですけど、日高の意向で「これはフジロックじゃない」ということで苗場に移ったんです。それからサマソニが始まったときは「やっぱり東京でやるよね」と思いました。今でも都市型で(この規模の)洋楽フェスがないことを考えると、先に成功させたサマソニはすごいと思います。しかも、東京と大阪っていうレディング・スタイルで。2箇所でやるって大変なことですよ。



―その後、お互いのフェスにも足を運んできたわけですよね?

清水:フジロックは1回目からほぼ行ってるね。もう笑い話だけど、国内アーティストだけが出演したコロナ禍の回(2021年)は、行くために検査したら見事に陽性だったので、スマッシュから出禁をくらったっていう。

佐潟:出禁じゃなくて来ちゃいけないんですよ(笑)。僕もサマソニには毎年行ってます。

―それこそコロナ禍の2021年、プロモーター10社による協力組織「インターナショナル・プロモーターズ・アライアンス・ジャパン」(代表は清水氏)が設立された前後で、海外アーティスト招聘のあり方やプロモーター間の関係も変化したのかなと。

清水:10社で集まって会議をするなんて、それまでなかったんですよ。まずそういうことが起こったのは、厳しい今の状況があったからだろうなと。先代はバチバチだったんだよね。有働(誠次郎:ウドー音楽事務所)さんとか林(博通:H.I.P)さんとか、日高さんもそうだけど「一緒にいたらどうなっちゃうんだろう」みたいな人たちだったから(笑)。

佐潟:その中に清水さんもいたわけですもんね。

清水:僕は上の世代と次の世代との繋ぎ役だったので、そういう役割で考えることができた。その後も課題があるごとに集まっているので、前より横の繋がりはできたと思います。

佐潟:今は世代も変わって、社長以外でも(社外のスタッフ同士で)繋がってたりするので、それを形にして全体でマーケットを広げていく取り組みはすごくいい。コロナがきっかけですけど、いい意味で繋がってきたなと思います。

Text by Shunichi MOCOMI

続きを読む

RELATED関連する記事

RECOMMENDED

「黒人のリズム感」みたいな幻想は百害あって一利なしなのでもう手放したほうがいい

著者のイブラム・X・ケンディはクイーンズ・ジャマイカ地区出身のアフリカ系アメリカ人。現在はボストン大学アンチレイシスト・リサーチ・センター所長だそうです。いちど日本語で読んでしまえば難易度が下がるので原書でもちまちま読みましたよ。

中年ミュージシャンのNY通信。音楽メディアでは「黒いグルーヴ」みたいな表現が長らくクリシェ化してましたが、それってどうなの?というのが今回のお話。オスカー授賞式で浮上した差別疑惑の件も然り。筆者もいろいろ思うところがあるようで……。

コロナ禍2年目のこと、私は1冊の本、『アンチレイシストであるためには』と出会った。いまだに私は英語の本を読むのに日本語の100倍くらい時間がかかるし消耗するので、2020年にベストセラーになっているのは横目で眺めながら、翌21年に邦訳が出て、それでようやく読んだわけだ。

この本には、私がそれまで読んだ差別にまつわる書物とはっきり異なるところがあって、それはレイシストを「人種差別主義者」ではなく「レイシズムポリシーを支持する人のこと」と定義づけているところだ。レイシズムポリシーというのは人種間に優劣の差があると考えること、つまり人種主義であり、たとえ具体的な差別被害が発生していなくとも人種主義を採用するものはレイシストということになる。


『アンチレイシストであるためには』(&books:辰巳出版)

この本は150万部ちかいセールスを叩き出したが率直に言って、レイシスト=人種主義者という考え方は、アメリカにおいてメインストリームとはいえないだろう。人や社会が誰かをレイシストと指弾するとき、そこには具体的な差別を伴うケースがほとんどだ。

なぜなら、たぶん世界中のほとんどの人が心のどこかしらに人種主義を抱えているからで、仮にレイシスト=人種主義を採用する人のこと、という定義を厳密に適用すると、社会の構成員ほとんどがレイシストということになってしまう。だいぶラディカルなアイデアといえるだろう。

それでもなお作者は、まず自分はレイシストであったと宣言し、そしてライフイベントのたびに自分のうちに巣食うレイシズムポリシーを発見しては解除していくプロセスを通して、一歩一歩レイシズムを克服していこう、アンチレイシストであろうと語りかける。

そこにはなんだか、ドラッグ中毒の人がダルクに入って、きょうはドラッグに手を出さずに済んだ、明日もなんとか手を出さずに済むよう過ごそう、と日々を重ねていく様子にも似た、痛切な感覚がある。

それくらい人種主義というのはドラッグ的で、私たちはそれにどっぷりと淫している。

以前の私はたとえば「黒人のドラマーはやっぱりビートが強い」みたいなことを当然のように言ったり書いたりしていた。「あのハコはPAがヨーロッパ系だから低音が軽い」とか、「やっぱり日本人は気配りがこまやかだ」とか、「ヒスパニックは陽気でめげないな」とか。

ひとたびネガティブなことが起きればそれは、一気に加速する。大家から家賃大幅値上げのメールが来れば「ユダヤ人まじでがめついなー」。チャイナタウンで信号無視のクルマに轢かれそうになると「チャイニーズには信号って概念がないのか」。そういうことを私たちは、普段の暮らしのなかで、しょっちゅう口にする。

ポジティブであろうとネガティブであろうと、そういった人種に紐づけた考えはレイシズムなのだ、と私はまず受け容れてみることにした。歴史的、構造的、経済的に強化されてきたそれを認識し、解除できないかと試み始めたら、また違った側面が見えてくるようになった。

Tag:
S