隣にいるだけでいいのだ。
ソープで働いている女性M様から「会いたい」と連絡をもらった。最初、ソープを倉庫と聞き間違えて「工場ですか」と、頓珍漢なことを言ってしまった。私は風俗を利用したことはないが、漂泊や性や差別に関心がある。身を売る者の哀しみと切なさ、喜びと自由を感じる。他人事とは思えないのだが、仕事内容についてあれこれ聞くのも違うなと思って、何も聞かなかった。話したくなれば話すだろうし、話したくならなければ話さない。話させることは違うなと思った。それは、私のやりたいことではない。
M様からは「会いたい」とラインで連絡をもらった。自己紹介もなく、プロフィール画像もなく、待ち合わせ場所や希望日時の指定もなかった。最初、これは冷やかしなのかなと思った。指定された場所に行っても、時折、誰も来ない時がある。冷やかしでも構わないと思って待ち合わせ場所に行ったら、M様はちゃんと来た。目の前に現れたのは、綺麗で、細身の、色が白い、若い女性だった。カバンを持つのが嫌いだからと、M様は手ぶらで現れた。ワンピースの大きなポケットに、財布と携帯を入れていた。最近になって坂爪さんを知り、記事を読み漁った。面白い人だなと思って、会いたいと思って連絡した。M様は、そのようなことを言った。
私が「会って何をしたかったのですか?」と聞いた。M様は「特にありません」と言った。私は「それではお茶でも飲みますか」と言った。最寄りのカフェに入り、私は「差し支えなければ、M様の話を聞きたいです」と言った。M様は「何から話そうかな」と言ったあと、自分が生まれた場所と、自分が暮らしている場所と、人間関係についてぽつりぽつりと話した。金を貯めても使い道はない。だから、来月、整形の手術をしようかなと思っている。頬の部分の肉を取る。整形費用はおよそ五十万円。ダウンタイムに一ヶ月程度かかる、脂肪吸引の手術だ。
人間関係が希薄になると、表面的なところで評価を得るしかなくなる。テレビでは「何秒以上黙ったらダメ」などのルールがあり、SNSでは「美しくなければ誰も見てくれない」などと言った、暗黙の了解がある。昔は、親はこどもを塾に通わせた。今は、親がこどもに整形をさせる。整形という言葉のおぞましさを感じる。別に、整形を否定したい訳ではない。ただ、五十万円出すなら、整形をやめて俺を海外旅行に連れて行ってくれと思った。そのことを言うと「坂爪さんと話していたら、整形なんてしなくてもいいかなと思いました」とM様は言った。海外旅行の件は聞き流されたが、整形なんてしなくてもいいかなと聞けたことは嬉しかった。
帰り道、一緒に電車に乗った。タイミングよく席が空き、隣同士腰をかけた。特段何を話す訳でもなく、スマホを見るでもなく、本を読むでもなく、ただ、一緒に座って流れる景色を眺めた。隣にいるだけでいいのだ。そう、思った。もしかしたら、いま、この瞬間が一番満ち足りているのかもしれないと思った。何かを言わなきゃとか、何かをやらなきゃとか、楽しませなくちゃとか、失礼にならないようにしなくちゃとか、そう言ったしがらみから自由になって、ただ、一緒に、同じ空間を共有する。言葉も要らない。退屈を埋めるための娯楽も要らない。言葉はなくても、伝わってくる何かがある。言葉はなくても、湧き上がってくる何かがある。ただ、隣にいるだけでいいのだ。そう思った。
おおまかな予定
7月31日(水)京都府京都市界隈
以降、FREE!(呼ばれた場所に行きます)
連絡先・坂爪圭吾
LINE ID ibaya
keigosakatsume@gmail.com
SCHEDULE https://tinyurl.com/2y6ch66z
バッチ来い人類!うおおおおお〜!
コメント