国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一さん 音声・画像を合成したり、AI(人工知能)を使って偽音声・画像を作り出す「フェイク画像」。最近では、有名人の画像を加工した「なりすまし広告」で投資や副業を紹介し「簡単にもうかる」とうたった詐欺被害が未成年でも起きている。過去には、災害時に被害の状況を誤解させる偽画像が拡散したほか、最近でも東京都知事選で、候補者への誤解を招きかねない画像も話題となった。あふれるうそにどう向き合っていけばいいのか、専門家に話を聞いた。
「ネットに慣れていてもだまされます。誰でも」。衝撃的な言葉で警鐘を鳴らすのは、フェイク問題の専門家で、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一さん。実際のフェイク情報を見聞きしたことのある人について、その真偽を判断する際の行動を分析した。その結果、8割以上の人が誤っていると気づいておらず、さらに半数以上はその情報を「正しい」と思い込んでいたという。山口さんは「『自分はフェイク情報を見分けられる』と思っている人ほど、実際にはだまされています」と話す。
刺激が誘因 拡散速度「6倍」
そして、より問題となるのはフェイク情報を拡散させた結果、他人に被害が広がることだ。正しい情報の6倍の速さで拡散するという米国の研究結果もある。なぜなのか。フェイクニュースを題材に、山口さんに説明してもらった。
「例えば、2016年の米大統領選挙では『ローマ教皇がトランプさんの支持を表明した』というフェイクニュースが広がりました。有名人なので、『えっ本当なの』と思う人が多かったのです。フェイクでは、いくらでもセンセーショナルなものが作れるため、拡散を促してしまうのです」
拡散には、心理面も大きな影響を及ぼす。山口さんは「怒りや不安といったネガティブな感情が募った時や、『伝えたほうが人のためになる』との正義感が働くと、拡散させてしまいがちです」と注意を促す。
未然にできることはないのか。山口さんが勧めているのが「ファクトチェック」。「例えば、『この画像怪しい』と思ったら、その画像をネット上で検索(グーグルクロームなら右クリックから検索可能)してみてください。同じ画像が出ない場合や、全く別の話題で使われていたものしかない場合、その画像はフェイクと思ったほうがいいです」と解説する。ただし、この「逆画像検索」はグーグルの機能で、SNSのアプリからすぐには検証できない。他の方法として、「いつ投稿されたか確認する」「複数のメディアでどう報じられているか確認する」などのチェックも大事と指摘する。
「刺激に満ちた話も、うまい話も、そうそうないです。そして、人に迷惑を掛けないことを心がけることが大事。フェイクの拡散は加害行為です。不安を感じれば恥ずかしがらず、親や先生に相談してください」と呼びかけている。
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【なりすまし広告】
著名な起業家や経済学者らの名前や写真を無断で使った広告のこと。SNS上にあふれている。投資などのもうけ話で関心を集め、「手数料」としてお金を振り込ませたり、関連ビジネスに誘ったり、口座情報をだまし取ったりする手口がある。こうしたSNS型投資詐欺は昨年2271件認知され、被害額は約278億円に上る。フェイスブックやインスタグラムなどに表示された詐欺広告からLINEなどへ誘導される例が目立つという。
【ファクトチェック】
公表されている情報の真偽を検証し、人々と共有する行為。政治家らの言葉の正確性を評価するジャーナリズムの手法が起源。例えば、選挙の候補者の演説に虚偽や誇張がないか評価し、有権者に客観的な判断材料を提供する。その際、検証する対象である発言の内容について、専門家に取材したりして事実を確認する。そして、「この数値は間違っている」「拡大解釈された情報である」といった検証結果を人々に知らせるまでの一連の行為を指す。