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2022.11.23 14:00

自閉症者が「視線を合わせない」ことを好む理由

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PLOS One」に掲載された新しい研究で、イェール大学の研究者たちは、独創的な技術を使い、後頭頂領域として知られている自閉症の社会的症候と関連する脳の特定の領域を突き止めた。

自閉症の人々の大多数は、社会的な交流の際に目と目を合わせないという選択をする。自閉スペクトラム症(ASD)の有病率は少なくとも500人に1人だが、いまだに広く誤解され、スティグマ化されている複雑な神経発達症であるとされている。

2人以上の人間によるリアルタイムのやりとりは、人の表情やアイコンタクトが主な情報源とされる動的かつ相互作用的なものになる傾向がある。

実生活での会話や交流の中で、顔から重要な情報をシームレスかつ戦略的に得ることは、自閉症の成人にとって大きな障害となっている。「ASDにおける現実の顔によるやりとりを調査することの重要性は、最近『二人称の神経科学』を求める声によって認識されています」と、研究者は論文に記している。

「私達の脳は他の人々に関する情報に飢えており、ASD患者だけでなく、定型発達者もこれらの社会的メカニズムが、現実の対話的な世界の文脈でどのように作用するかを理解する必要があります」とイェール大学の精神科医であるジョイ・ハーシュは、プレスリリースで述べている。

ハーシュら研究者はさらに、ASDのような神経発達疾患は多面的であり生物学的、認知的、行動的、社会文化的など、幅広い要因を考慮する必要があることを論文で認めている。

しかし、これまでニューロイメージング技術は「実際の社会的相互作用中の動的な顔処理」に関する情報を収集するには不十分であることが判明している。「この分野の方法の開発と、ASDにおけるこれらのプロセスとそのバリエーションの基礎となる神経生物学おける進歩が課題となってきました」と、研究者は説明している。

さらなる調査のため、研究チームは、非侵襲光学的な脳機能イメージング法である機能的近赤外分光法を使用した。彼らは、参加者の脳に光を照射するセンサーがたくさんついた帽子をかぶせた。そして、被験者が目と目を合わせているときの脳活動のデータと一致するこの光信号の変化を記録し分析した。

驚くべきことに、自閉症の被験者が他の参加者と目を合わせるたびに、後部頭頂皮質という脳の領域で活動が低下していることがわかった。しかし、ASDでない参加者は、アイコンタクトをとっているにもかかわらず、このような脳活動の変化を記録しなかった。

「我々は現在、社会性の差異と自閉症の神経生物学についてより良く理解しているだけでなく、典型的な社会的つながりを駆動する根本的な神経メカニズムについても理解しています」と、ハーシュは付け加えた。

forbes.com 原文

翻訳=上西 雄太

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2022.11.17 15:00

10億人以上の若者にイヤフォン常用やクラブの騒音で難聴のリスクあり

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医学誌『BMJ Global Health』に11月15日に発表された新しい研究論文で、研究者は10億人以上のティーンエイジャーや若者がイヤフォンやヘッドフォンの常用、大音量のコンサートや音楽を流す店の利用により難聴になる危険性があると警告している。

世界保健機関(WHO)は、世界中で4億3000万人以上の人がさまざまなレベルの難聴を抱えていると推定している。また、各国政府が難聴予防を優先させなければ、将来的に難聴の人の割合が倍増する可能性があるとも警告している。WHOは、携帯電話など個人が所有するリスニングデバイスやクラブ、バー、ディスコといった騒がしいところに行くなど、大きな音にさらされることが難聴の原因だとしている。

「危険なリスニングを何度も繰り返したり、あるいは一度でも行うと、聴覚系に生理的損傷を与え、一過性または永久的な耳鳴りや聴力の変化が現れることがある」と研究者は述べている。

また「安全でないリスニングによるダメージは生涯にわたって蓄積する可能性がある。人生の早い時期に騒音にさらされた人は、加齢にともなう難聴になりやすいかもしれない」とも指摘している。

この公衆衛生の問題が放置された場合、難聴は大きな経済的損失をもたらすことが研究で明らかにされている。WHOはこれらの経済損失を年間1兆ドル(約139兆円)近くと推定している。

騒音の許容値は大人で80デシベル、子どもでは75デシベルだが、研究によるとパーソナルリスニングデバイスを使用する若者は105デシベルもの音量で聴いている。一方、音楽会場やクラブでの騒音は112デシベルまでのぼることがある。

研究チームは若年層のリスニング習慣をより深く理解するために、1万9000人以上の参加者があった世界の33の研究から収集されたデータベースを掘り下げて調査した。これらの研究は英語、ロシア語、フランス語、スペイン語などさまざまな言語で発表されている。研究の参加者は12〜34歳で、パーソナルリスニングデバイスの使用状況を追跡調査した。

研究の結果、個人用リスニングデバイスで危険なリスニングにさらされる割合は約24%で、デバイスで難聴になる若者の数は世界で6億7000万〜13億5000万人になる可能性があることが明らかになった。

「これらの結果は、難聴予防を促進するために世界中で安全なリスニング習慣に焦点を当てた政策を緊急に実施する必要性を強調している」と研究者は書いている。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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2022.11.13 12:30

中国社会において、マスク着用がモラルの象徴に

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米国科学アカデミーの機関誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に2022年10月4日付けで発表された研究論文から、中国社会においては、マスクが「モラルの象徴」という役割を果たしている可能性が明らかになった。マスクを着用している人のほうが、社会規範に反する行動をとることが少ないのだという。

中国・北京の清華大学と、米マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の社会科学者で構成された研究チームは、詐欺や現金の搾取、交通ルールや駐車ルールの違反など、社会規範に反する行動をテーマにした研究10件を検証した。対象となったのは、中国で記録された6万8000件ほどの観察データだ。

10件の研究のうち1つでは、交差点に設置された交通監視カメラの録画内容を精査した。その結果、マスクを着用した人のほうが、マスクを着用していない人よりも、赤信号を無視する傾向が低いことが確認された。

マスクを着用した人々のほうが道徳意識と義務感が高く、社会全般の安全を維持するためにルールを守ろうとする姿勢が強いことが認められたわけだ(マスクを着用することで匿名性が上がり、ルールを守らない例が増えることも考えられたが、実際には、マスク着用によってルール順守が増えたことが確認された)。

研究チームは、マスクをずっと着用している人のほうが、より慎重なタイプであり、かつ、交通ルールを守るということは、不運な事故を防ごうと格段に注意している証拠であることを認めている。そこで、リスク回避をめぐる考え方の違いを除外するために、研究チームは他の分析を行った。

自転車を駐輪する人々の行動を観察したところ、マスクを着用している人のほうが、マスクを着用していない人よりも、法律に従って駐輪するケースが多いことがわかった。現金の搾取についても、同様の結果が得られた。

人間の行動に影響を与えるさまざまな要素のなかで、マスクを着用する人と、マスクの着用を拒否する人を比べると、社会規範に反する行動に関する相違は4%程度だと研究チームは推測している。

研究論文の共著者で、MITスローン経営大学院の准教授ジャクソン・ルー(Jackson Lu)はプレスリリースで、「マスクの着用がモラルの象徴であり、道徳的な義務や、他人を守ること、全体的な幸福のために自らが不利益を被ることの重要性を示すのであれば、マスクをすることが道徳的に正しい行動をとることにつながる可能性がある」と述べている。

「しかし、研究対象となったのは中国のデータだけであり、今回の結果を一般論としないようにしている」

ルーはさらにプレスリリースで、「マスクを着用する目的はさまざまであり、状況によっても異なる」と述べ、こう続けた。「現時点では、マスクがモラルの象徴としての働きを持っているのかもしれないが、マスク着用の目的は今後、変わっていく可能性がある。さらなる研究が必要だ」

forbes.com 原文

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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2022.08.19 11:15

オミクロン株感染、半数以上が「気付かず」 米調査結果

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米国医師会雑誌(JAMA)のオープンアクセスジャーナル「JAMA ネットワーク・オープン」に新たに掲載された論文によると、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株に感染した人のうち、自分で感染に気付いた人は半数に満たない割合(44%)だった。

感染に気付いていなかった56%の人のうち、90%は無症状だった。残る10%の人たちは、風邪などSARS-CoV-2以外に感染したと考えていた。また、驚くことに調査を行った医療機関で働く人たちの間でも、感染に気付いた人は多くなかった(それ以外の人たちと比べれば、高い割合だった)。

カリフォルニア州ロサンゼルスにあるシダーズ・サイナイ医療センターのシュミット心臓研究所のチームが発表したのは、現在主流となっているオミクロン株の感染者が急増し始めた昨年12月15日から、今年5月4日までに成人210人から集めた血液サンプルの分析結果。サンプルの提供者の93%は、ワクチン接種を受けていた。

この調査では、感染に気付いた人は比較的若く(参加者の年齢は23〜84歳で中央値は51歳)、女性よりも男性の割合の方が高くなっていた(サンプル提供者に占める男性の割合は35%)。

研究チームは論文の中で、「症状があまり出ないこと、あるいは適切なタイミングで検査を受けていなかったことで感染に気付かなかったことが、市中感染が急速に拡大したことに関連していると考えられる」と説明している。

これまでの研究の結果、パンデミックが発生してから最初の6カ月間には、感染してもそれに気付いていなかったケースは(症状の有無にかかわらず)、感染者全体の少なくとも50%、多ければ83%に上っていたと推測されている。

新たに公表したこの結果について、論文の筆頭著者であるシュミット心臓研究所のスーザン・ チェン医師はプレスリリースで、「この調査結果が、感染者と接触した可能性がある、あるいは少し体調が悪いと感じたときにはすぐに検査を受けるという行動につながることを希望しています」と述べている。

ただ、研究チームはこの結果について、サンプル数が少ないことからデータが限られており、感染に気付く割合に関連したその他のさまざまな要因を十分には特定できていないと指摘。そうした要因をさらに明らかにするためには、より大規模な研究が必要だとしている。

編集=木内涼子

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