ところが入学翌年の1月15日夜、千葉さんは突然の凶行に命を絶たれる。『一番、そんな目にあっちゃいけない人だった』。榎屋さんはひどいことを言ってしまった、と悔やむ。
卒業後、プロになった榎屋さん。楽しさの何十倍もある辛さに直面する中、才能とは何かを自問する。思い出したのは、机にかじりついて作品を描く千葉さんの後ろ姿だ。マンガを好きでい続ける力、才能が彼にはあったんじゃないか。
『彼が生きていたらマンガ家になれてたかどうかはわからない。でも、もっともっとマンガで喜びマンガで苦しめるはずだった』
こう記した作品は反響を呼び、投稿は2万件リツイート(転載)された。榎屋さんは「マンガを通じて、事件を知ってもらえたんじゃないか」と感じた。
昨年の命日に投稿した2作目は、榎屋さんと友人が街頭活動の後に千葉さんの親戚の男性と酒を酌み交わしたエピソードだ。なかなか進展しない捜査にいらだつ榎屋さんに、男性は優しく語りかける。『色んな人が大作の話をしたり大作のために動いてくれてる。それってすごいこと』
今年公開する3作目は、事件の風化を題材にする。「早く犯人が捕まってほしい。忘れないことが解決につながるはず」。榎屋さんは、そう信じている。