喫煙・飲酒で五輪辞退の宮田笙子選手「擁護する著名人vs許せない世論」…「協会はトカゲのしっぽ切り」トップ選手”喫煙率95%”証言の衝撃
パリ五輪の体操女子日本代表主将の宮田笙子選手が喫煙と飲酒による代表行動規範違反があったとして代表を辞退した。この件を巡っては猪瀬直樹など多くの著名人が宮田選手を擁護した半面、ネットでは宮田選手に対する厳しい意見がみられる。作家で元プレジデント編集長の小倉健一氏が解説するーー。
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茶番劇が繰り広げられている
トカゲのしっぽ切りのような茶番が繰り広げられているようだ。
<体操女子で19歳の宮田笙子選手(順天堂大)が飲酒、喫煙を認めてパリ五輪代表を辞退した問題で、その他の代表選手9人(男子5人、女子4人)に日本体操協会が聞き取り調査をした結果、行動規範に違反する選手はいなかったことが20日、分かった。女子の田中光、男子の水鳥寿思両強化本部長がパリ郊外での公式練習後に明らかにした>(産経新聞、7月21日)のだという。
絶対他にも吸ってるだろうというツッコミはまず置いて、事件の経緯について、知っている人ばかりとは思うが、簡単に触れてみたい。
日本体操協会が、7月19日、緊急で記者会見を開いた。そこで、体操女子のパリ五輪日本代表のエースで主将にも選ばれていた宮田笙子氏が、代表行動規範に違反した疑いでチームを離脱したことが明らかにされた。同協会によれば、7月15日に宮田氏の喫煙に関する情報提供があり、合宿地のモナコから緊急帰国させて7月18日に宮田氏本人をはじめ担当コーチらが同席の上、聞き取りを行った。その結果、先月から今月にかけて都内で喫煙をしたほか、東京京都北区のナショナルトレーニングセンターの宿泊施設で飲酒していたと確認されたという。宮田氏が在籍する順天堂大学の公式声明にも下記のように喫煙を認めたことが記述されている。
順大「オリンピックに出場することもあり得ると考えておりました」
<本学は、18日夜に本人より事情聴取を行い、本人は友人宅で喫煙したことがあるとの事実は認めておりました>
そして、この記述に続く、順天堂大学の声明は、代表を辞退したことへの悔しさが滲み出ている。
<20歳未満の者は喫煙してはならないことは言うまでもなく、また、上記日本体操協会の行動規範にも抵触する行為ですので、たとえオリンピック出場という大きなストレスを抱えていたとしても、その行為自体は認められるものではありません。/しかしながら、宮田選手は今回の行為を深く反省しており、これまで日本代表のリーダーとして真剣かつ真摯に練習に取り組み、大会に出場することを強く願っておりました。また本学としては、当該選手に対する教育的配慮の点から、常習性のない喫煙であれば、本人の真摯な反省を前提に十分な教育指導をした上で、オリンピックに出場することもあり得ると考えておりました。したがって、この度のオリンピック出場辞退という結果には、本人が負う社会的ペナルティーの重さへの懸念から、誠に残念な思いでおります>
そもそも、喫煙や飲酒が20歳からというのも、諸外国の事例からしておかしな話
筆者は、この順天堂大学の声明を支持したい。そもそも、喫煙や飲酒が20歳からというのも、諸外国の事例からしておかしな話である。
「諸外国における成年年齢・婚姻適齢及び飲酒・喫煙可能年齢」(https://www.city.hirakata.osaka.jp/cmsfiles/contents/0000025/25139/dai2shiryo4.pdf)によれば、イギリス、イタリア、オランダ、スイス、スウェーデン、中国、チリ、ドイツ、ニュージーランド、フランス、ポーランド、メキシコ、ロシアなどほとんどの国が、18歳での飲酒と喫煙を認めている(アメリカは州による)。
筆者が中学生のときに、アメリカ人の英語教師が「アメリカは学校に銃や武器を持ってくることで問題が起きているのに、日本の中学校はアメ玉を持ち込むかどうかで同じぐらいの騒ぎになってる。笑える」と、日本の平和ボケをジョークにしていたが、今回も似たような騒ぎだろう。大麻や違法薬物、ドーピングに手を染めていたならまだしも、珍しく19歳での喫煙・飲酒を認めていない日本だからこその騒ぎだ。あまりにも馬鹿馬鹿しい。
嫉妬なのか、何らかの正義感なのかわからないが、
また、内部の通報というのも残念な話だ。嫉妬なのか、何らかの正義感なのかわからないが、チクリによって、宮田選手の将来を奪ってしまったわけだ。
取り返しがつかないぐらいの、心の傷を負っている可能性がある。団体規律の問題とか、ガバナンスの問題とか訳のわからないことをいって、処分を正当化する識者がいることも残念でならない。
週刊文春電子版(7月24日)には、こんな証言もあった。
体操協会関係者の匿名証言として<体操協会の行動規範は喫煙に対して厳しい姿勢をとっているように見えますが、実態は真逆。特に男子の体操選手の間では伝統的に喫煙文化があります>とある。
また、バルセロナ五輪銀メダリストの池谷幸雄氏も<僕らの時代は95%の選手が吸っていましたよ。体操はプレッシャーやストレスが強くかかる競技なので、精神を落ち着かせるために喫煙する選手は多いです。五輪に出場する選手でも吸っていました。大学の練習では1種目が終わるごとに吸いに行く人もいたくらい。他の競技と比べれば体操には持久力が求められないので、煙草を吸っていても大きな影響は出ない。近年でも吸っている選手は多いと思います>と話している。
五輪に出場できない処分が妥当だとする人の意見
みんな吸ってるのに、なぜ、宮田選手だけが出場辞退に追い込まれないといけないのだろうか。
冒頭でもとりあげたが、<代表選手9人(男子5人、女子4人)に日本体操協会が聞き取り調査をした結果、行動規範に違反する選手はいなかった>とする調査がいかに茶番であるかがわかるというものだろう。
五輪に出場できない処分が妥当だとする人の意見には、<今回の件は宮田さんが成人になったとしても代表は辞退となる。未成年の喫煙・飲酒が問題なのではなく、団体活動の場であるトレーニングセンター内での飲酒が問題だ。未成年・成年関係のない団体規律違反だ>というようなものもあった。しかし、先の文春電子版の証言を総合すると、みんな当たり前のように、練習の合間にタバコを吸っている現状があるわけだ。この識者は、全員をしょっぴけとでもいうのだろうか。
持久力を必要としない競技のトップアスリートの一定数に、喫煙者がいることは常識的に知られている。オリンピック憲章は、タバコのない五輪などと実態と乖離した理念を掲げているが、東京五輪の選手村には喫煙所ががっちりあった。タバコがもたらす効用の悪い部分ばかりが強調されるが、トップアスリートが喫煙者が多いという現実から目を逸らしてはならないだろう。
体操協会が何を目指している組織なのかわからない
「若者を罰することの負の結果は十分に立証されており、大人と子どもの関係の障害、道徳的価値を内面化する能力の低下、自尊心の低下、反社会的行動、紛争解決のための戦略としての身体的攻撃の正常化などが含まれる」(2023年『行動マネジメントに関するスポーツ関係者の理解の調査』トロント大学、https://www.researchgate.net/publication/369325317_Investigating_Sport_Stakeholders’_Understanding_of_Behaviour_Management_within_a_Competitive_Youth_Baseball_Team)
しっぽ切りを含めた一連の対応から考えて、体操協会が何を目指している組織なのかわからないが、協会の定款には目的として<この法人は、我が国における体操界を統括し、代表する団体として体操の振興及び普及奨励を図り、 もって国民の心身の健全な発達に寄与することを目的とする>とある。今回の事件を通して、体操の振興は完全なるブレーキを踏むことになりそうだ。
体操協会は、もう少しアスリートに寄り添った組織であってほしかった。