モスクが消える?尾行される取材班 ルポ・新疆ウイグル

モスクが消える?尾行される取材班 ルポ・新疆ウイグル
そこには、モスクがあるはずだった。

しかし、代わりにあったのは「社会主義核心価値観」という中国共産党の標語を掲げた公園だった。

「いまは、宗教を必ずしも信じるということもなくなったよ」

いあわせた地元の男性は、言葉少なに、そうつぶやいた。

かつての祈りの場で、いったい何が起きているのか。多くのイスラム教徒が暮らす新疆ウイグル自治区の各地を訪ね歩いた。

(上海支局 道下航 平井克昌 / 中国総局 花井利彦)

厳しい当局の監視の目

新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチの中心部に近づくと、高層ビル群が目に飛び込んできた。これだけを見ていると、ほかの中国の都市と似たような景色だと思った。

「ついて来ているね、あの人。白い服の人」
取材を始めてほどなく、同じナンバーの車が私たちを尾行していることに気がついた。私たちが場所を移動すると、その車もついてくる。まるで私たちの行動を確認しているかのようだ。
話しかけてくることはなかったが、その男は遠巻きにこちらにスマホを向けていた。

写真や動画を撮っているのだろう。たびたび誰かに電話している様子もうかがえた。こちらの状況を報告しているのかもしれない。

この地域での取材は、ほかの中国の地域に比べて緊張感がともなう。ただ、こうした監視の目は、決して私たちメディアにだけ向けられているのではない。

中心部の至るところで装甲車が走っている。大量の監視カメラも設置されている。住民たちも厳しい監視のもとに置かれているのが実態だ。

新疆ウイグル自治区で何が?

中国の西の端にある新疆ウイグル自治区。

カザフスタンに接するなど中央アジアへとつながる場所で、かつてはシルクロードの要衝だった。
人口はおよそ2585万。半数近くがイスラム教を信仰する少数民族のウイグル族だ。

アラビア文字で書かれるウイグル語を話し、その多くがイスラム教を信仰している。羊料理をはじめとしたウイグルの食文化も、漢族が中心となっているほかの中国の地域とは違う独特のものだ。

いったいなぜこの地域で厳しい監視が行われているのか。

理由の1つは、15年前に起きた事件だ。

2009年7月、ウイグル族による中国政府への抗議デモが起き治安部隊と衝突。

政府側の発表でおよそ200人が死亡した。背景には、ウイグル族の間で漢族との経済格差などへの不満が広がったことがあったとされる。

少数民族とどう向き合うのか、中国政府に難しい問題を突きつけた事件だった。

政府側「天地がひっくり返るほどの変化」

危機感を覚えた中国政府は自治区の経済政策にいっそう力をいれるようになった。2023年の域内総生産は抗議デモが起きた2009年と比べておよそ4.5倍になったという。

地元政府は「天地がひっくり返るほどの変化が起きた」と評価し、少数民族にも発展の成果をもたらしていると主張している。
15年前に衝突の現場となったバザールも今では人気の観光地になっている。

漢族の観光客の女性は「治安はとてもいいですね。民族団結の状況もいいですし、問題は何もありません。子どもにウイグル族の衣装を買おうと思います」と話す。

一方、バザールの土産物屋で働くウイグル族の女性は「15年前のことは早々に忘れた」とだけ話し、敏感な問題には触れたくないといった様子だった。

「異常な」ひげは禁止に

経済発展の一方で、かつての慣習にも変化が見られた。

NHKが2015年に新疆ウイグル自治区で撮影した映像には、長いひげをはやした男性が多く映っている。
しかし、取材班は今回、自治区各地を訪れたが、長いひげの男性の姿を見かけることはなかった。背景にあるのが中国政府による宗教活動への管理強化だ。

中国では憲法で「信仰の自由」が保障されているが、2017年に地元政府は条例で「異常な」ひげをはやすことや、女性が頭からかぶって全身を覆う衣服・ブルカを公共の場で着用することを「過激思想」の兆候があるとして禁止したのだ。

進む宗教の“中国化”

市民が信仰するイスラム教の祈りの場にも変化が起きていた。

これは自治区南部の都市・カシュガルで2018年に撮影されたモスクの写真。
しかし、同じ場所を訪ねると、そこにはがれきが積み上がっていた。

周囲はフェンスで覆われ、近づけなくなっていた。
大半の住民がウイグル族である南部の都市ホータンも訪れた。

地図にモスクがあると書かれていた場所に行ってみると、モスクの姿は消えて公園になっていた。公園には「社会主義核心価値観」と中国共産党が掲げる標語が掲げられていた。

公園にいた若い男性はモスクがなくなったことを認めた上で「モスクに行くのは老人だけだよ。若者は行かないよ」と語った。

また、別の男性は「いまは、宗教を必ずしも信じるということもなくなったよ。共産党員はマルクス主義だから、宗教を信じないでしょ」と語った。共産党の統治が人々の信仰にも大きな影響を与えていることを伺わせた。
中国政府の発表ではモスクの数は大きく変化していない。また、老朽化などを理由に新設や移転などを進めているとも説明している。

しかし、オーストラリアの政府系シンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所」は、衛星写真などの分析から、主に2017年以降、自治区全体の65%にあたるモスクが破壊や損傷を受けたとする推計を出している。

また、地元政府は、ことし2月にも宗教活動を管理する条例を見直し、宗教施設の新築や改築、拡張をするときには「建物、彫刻、絵画、装飾は中国の特色と風格を体現しなければならない」と定めた。

中国では宗教の「中国化」が推し進められている。

“100万人拘束” 「収容施設」を訪れると…

新疆ウイグル自治区をめぐっては、欧米などから繰り返し人道上の問題があると指摘されているものがある。

それが「収容施設」と呼ばれるものだ。

アメリカ政府は「テロ対策などの名のもとに、2017年以降、ウイグルの人たちをはじめとするイスラム教徒など100万人以上が収容施設で拘束されてきたと推計される」と指摘し、人権侵害が行われてきたと繰り返し非難している。

オーストラリアのシンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所は「収容施設」と疑われる場所はあわせて380か所以上あると指摘している。
このうち少なくとも61か所については、2019年7月からの1年間に新たに建設されたり増築されたりしたという。

中国政府はシンクタンクの報告書を「でっちあげ」などと否定している。

そして自治区では、地元政府が過激思想の影響を受けた人の教育や職業訓練を施設で行い、2019年末までにすべての人が受講を終えたと説明してきた。

「収容施設」は果たしてその役目を終えたのか。

私たちはシンクタンクが2020年に新たに開設されたと指摘する施設へ向かった。
カシュガルの中心部から車で1時間ほど走ると、広大な荒れ地の先に巨大な施設が現れた。敷地は有刺鉄線がついたフェンスとその内側にある高さ10メートルほどの外壁に囲まれていた。

施設は厳重に警備され、外壁の上にはいくつもの監視塔が設置されていて、迷彩服を着た人物の姿があった。

敷地から出てくるウイグル族と見られる人たちの姿も確認できた。
「収容施設」の問題を調査しているシンクタンクの研究員は、この施設は稼働中だと分析する。
オーストラリア戦略政策研究所 ルーザー研究員
「多くの車があることや人が訪れていること、そして警備体制が解除されたことを示す兆候もないことなどから、施設は明らかに稼働している。
当局は2017年から集中的にウイグル族を収容し再教育を進め『卒業』した人もいる。しかし十分に愛国的でなかったり、再教育で効果が見られなかったりした人たちについて、当局は自分たちが合法的と見なす司法手続きで収監しているとみられる」
中国当局は、7年連続で、新疆ウイグル自治区では「テロ」は起きておらず治安が改善されていると強調している。

その一方でルーザー研究員は今なお「収容施設」での人権侵害は続いていると指摘する。
ルーザー研究員
「中国当局は、今は新疆ウイグル自治区の治安の問題が差し迫ったものではないと大きな自信を持っていて、取り締まりについては以前よりはある程度の緩和が見られる。
しかし、自治区の各地には数万人に影響を与える施設が未だに存在していて、自治区では深刻な人権侵害と大規模な収監が起きていると認識している」

「弟を調べている」 突然途絶えた連絡

実際、ウイグル族の人たちの間では今も「家族と連絡が取れない」と訴える人たちは後を絶たない。

そのうちの1人、現在アメリカに暮らすサヒバ・サイラモグリさん(31歳)は、去年7月、突然、新疆ウイグル自治区に住む弟の連絡が途絶えたと話す。
それまで毎日のように弟と連絡をとっていたサイラモグリさんは、心配になって当時住んでいたトルコにある中国大使館に問い合わせたところ、大使館からの答えは「弟を調べている」というものだったという。
その後、家族などを通して弟が拘束されたことを知った。弟は「公共の秩序を乱した罪」に問われ、ことし5月、裁判で懲役5年4か月の判決を言い渡されたという。

サイラモグリさんが自ら旧ツイッターのXで弟の釈放を求めて投稿を始めたところ、中国の治安当局者から連絡があり「投稿を削除しないと両親の拘束や弟の罪を重くする」と脅されたという。
サイラモグリさん
「弟は不当に拘束されたと思っています。中国政府は弟を釈放すべきだし、私たち家族への嫌がらせもやめるべきです。
中国では財産や命さえも中国共産党や国の手の中にあり、好き勝手に奪われます。自治区の状況はいっそう悪くなっていると思います。
海外にいるウイグル族には、家族がどこにいるのか、生きているかさえもわからない人が今も大勢います。私自身も故郷に戻ることすらできていません」
ウイグル族の収監については新たな分析もある。アメリカの首都ワシントンに拠点を持つ人権団体「ウイグル人権プロジェクト」は、今年4月に新疆ウイグル自治区の地元政府の統計などを分析した結果を発表した。

それによると中国の全人口の1%にすぎない自治区のウイグル族など少数民族が、全国の収監人数の3分の1を占めているという。

専門家「習近平指導部の締めつけは続く」

専門家は、中国の少数民族政策は国内の安定に関わる重要問題で、習近平指導部は今後も自治区での締めつけを続けると指摘しています。
平野教授
「中国は世界でもっとも影響力のある国になりたいと考えていて、それを実現するためには、まず国内が一致団結するということが極めて重要だと思っている。
中国共産党政権はモノの生産と発展で全てを考える政権で、経済発展すれば、おのずと少数民族と漢族、それに中国政府との関係はよくなるはずだと思ってきた。
しかし、少数民族の文化や宗教はどうでもいいという共産党流の考え方を受け入れられない人々は、国内にも当然多くいて、今、締めつけを緩めれば、たまっている不満が一気に噴出するのは明らかだ。だから、少なくとも習近平氏が今のトップの座にいるかぎりは中国が変わるということはありえないだろう」
(7月2日ニュースウオッチ9 / 7月4日国際報道2024で放送)
上海支局長
道下 航
2009年入局
仙台局、国際部、ハノイ支局を経て2022年8月から現所属
上海支局カメラマン
平井 克昌
2005年入局 ニュースカメラマンとして国内外のニュースや番組の取材・撮影を担当
映像センター、神戸放送局などを経て、現在は上海支局で中国国内のニュースを取材
中国総局チーフ・プロデューサー
花井 利彦
2002年入局 沖縄局 報道局 広島局などを経て現所属
モスクが消える?尾行される取材班 ルポ・新疆ウイグル

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特集
モスクが消える?尾行される取材班 ルポ・新疆ウイグル

そこには、モスクがあるはずだった。

しかし、代わりにあったのは「社会主義核心価値観」という中国共産党の標語を掲げた公園だった。

「いまは、宗教を必ずしも信じるということもなくなったよ」

いあわせた地元の男性は、言葉少なに、そうつぶやいた。

かつての祈りの場で、いったい何が起きているのか。多くのイスラム教徒が暮らす新疆ウイグル自治区の各地を訪ね歩いた。

(上海支局 道下航 平井克昌 / 中国総局 花井利彦)

厳しい当局の監視の目

新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチの中心部に近づくと、高層ビル群が目に飛び込んできた。これだけを見ていると、ほかの中国の都市と似たような景色だと思った。

「ついて来ているね、あの人。白い服の人」
取材班を尾行する男(中国 新疆ウイグル自治区 ウルムチ 2024年5月)
取材を始めてほどなく、同じナンバーの車が私たちを尾行していることに気がついた。私たちが場所を移動すると、その車もついてくる。まるで私たちの行動を確認しているかのようだ。
サイドミラーに映った尾行する車
話しかけてくることはなかったが、その男は遠巻きにこちらにスマホを向けていた。

写真や動画を撮っているのだろう。たびたび誰かに電話している様子もうかがえた。こちらの状況を報告しているのかもしれない。

この地域での取材は、ほかの中国の地域に比べて緊張感がともなう。ただ、こうした監視の目は、決して私たちメディアにだけ向けられているのではない。

中心部の至るところで装甲車が走っている。大量の監視カメラも設置されている。住民たちも厳しい監視のもとに置かれているのが実態だ。
ウルムチ市内を走行する武装警察の装甲車

新疆ウイグル自治区で何が?

中国の西の端にある新疆ウイグル自治区。

カザフスタンに接するなど中央アジアへとつながる場所で、かつてはシルクロードの要衝だった。
人口はおよそ2585万。半数近くがイスラム教を信仰する少数民族のウイグル族だ。

アラビア文字で書かれるウイグル語を話し、その多くがイスラム教を信仰している。羊料理をはじめとしたウイグルの食文化も、漢族が中心となっているほかの中国の地域とは違う独特のものだ。

いったいなぜこの地域で厳しい監視が行われているのか。

理由の1つは、15年前に起きた事件だ。

2009年7月、ウイグル族による中国政府への抗議デモが起き治安部隊と衝突。

政府側の発表でおよそ200人が死亡した。背景には、ウイグル族の間で漢族との経済格差などへの不満が広がったことがあったとされる。

少数民族とどう向き合うのか、中国政府に難しい問題を突きつけた事件だった。
ウルムチ(2009年)

政府側「天地がひっくり返るほどの変化」

危機感を覚えた中国政府は自治区の経済政策にいっそう力をいれるようになった。2023年の域内総生産は抗議デモが起きた2009年と比べておよそ4.5倍になったという。

地元政府は「天地がひっくり返るほどの変化が起きた」と評価し、少数民族にも発展の成果をもたらしていると主張している。
新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチ
15年前に衝突の現場となったバザールも今では人気の観光地になっている。

漢族の観光客の女性は「治安はとてもいいですね。民族団結の状況もいいですし、問題は何もありません。子どもにウイグル族の衣装を買おうと思います」と話す。

一方、バザールの土産物屋で働くウイグル族の女性は「15年前のことは早々に忘れた」とだけ話し、敏感な問題には触れたくないといった様子だった。

「異常な」ひげは禁止に

経済発展の一方で、かつての慣習にも変化が見られた。

NHKが2015年に新疆ウイグル自治区で撮影した映像には、長いひげをはやした男性が多く映っている。
2015年に撮影されたウイグルの男性
しかし、取材班は今回、自治区各地を訪れたが、長いひげの男性の姿を見かけることはなかった。背景にあるのが中国政府による宗教活動への管理強化だ。

中国では憲法で「信仰の自由」が保障されているが、2017年に地元政府は条例で「異常な」ひげをはやすことや、女性が頭からかぶって全身を覆う衣服・ブルカを公共の場で着用することを「過激思想」の兆候があるとして禁止したのだ。
2024年撮影

進む宗教の“中国化”

市民が信仰するイスラム教の祈りの場にも変化が起きていた。

これは自治区南部の都市・カシュガルで2018年に撮影されたモスクの写真。
2018年に撮影されたモスク(左の建物 カシュガル)
しかし、同じ場所を訪ねると、そこにはがれきが積み上がっていた。

周囲はフェンスで覆われ、近づけなくなっていた。
モスクのあった場所
大半の住民がウイグル族である南部の都市ホータンも訪れた。

地図にモスクがあると書かれていた場所に行ってみると、モスクの姿は消えて公園になっていた。公園には「社会主義核心価値観」と中国共産党が掲げる標語が掲げられていた。

公園にいた若い男性はモスクがなくなったことを認めた上で「モスクに行くのは老人だけだよ。若者は行かないよ」と語った。

また、別の男性は「いまは、宗教を必ずしも信じるということもなくなったよ。共産党員はマルクス主義だから、宗教を信じないでしょ」と語った。共産党の統治が人々の信仰にも大きな影響を与えていることを伺わせた。
中国政府の発表ではモスクの数は大きく変化していない。また、老朽化などを理由に新設や移転などを進めているとも説明している。

しかし、オーストラリアの政府系シンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所」は、衛星写真などの分析から、主に2017年以降、自治区全体の65%にあたるモスクが破壊や損傷を受けたとする推計を出している。

また、地元政府は、ことし2月にも宗教活動を管理する条例を見直し、宗教施設の新築や改築、拡張をするときには「建物、彫刻、絵画、装飾は中国の特色と風格を体現しなければならない」と定めた。

中国では宗教の「中国化」が推し進められている。

“100万人拘束” 「収容施設」を訪れると…

新疆ウイグル自治区をめぐっては、欧米などから繰り返し人道上の問題があると指摘されているものがある。

それが「収容施設」と呼ばれるものだ。

アメリカ政府は「テロ対策などの名のもとに、2017年以降、ウイグルの人たちをはじめとするイスラム教徒など100万人以上が収容施設で拘束されてきたと推計される」と指摘し、人権侵害が行われてきたと繰り返し非難している。

オーストラリアのシンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所は「収容施設」と疑われる場所はあわせて380か所以上あると指摘している。
オーストラリア戦略政策研究所が公開した「収容施設」と疑われる場所
このうち少なくとも61か所については、2019年7月からの1年間に新たに建設されたり増築されたりしたという。

中国政府はシンクタンクの報告書を「でっちあげ」などと否定している。

そして自治区では、地元政府が過激思想の影響を受けた人の教育や職業訓練を施設で行い、2019年末までにすべての人が受講を終えたと説明してきた。

「収容施設」は果たしてその役目を終えたのか。

私たちはシンクタンクが2020年に新たに開設されたと指摘する施設へ向かった。
カシュガルの中心部から車で1時間ほど走ると、広大な荒れ地の先に巨大な施設が現れた。敷地は有刺鉄線がついたフェンスとその内側にある高さ10メートルほどの外壁に囲まれていた。

施設は厳重に警備され、外壁の上にはいくつもの監視塔が設置されていて、迷彩服を着た人物の姿があった。

敷地から出てくるウイグル族と見られる人たちの姿も確認できた。
「収容施設」の問題を調査しているシンクタンクの研究員は、この施設は稼働中だと分析する。
オーストラリア戦略政策研究所 ルーザー研究員
「多くの車があることや人が訪れていること、そして警備体制が解除されたことを示す兆候もないことなどから、施設は明らかに稼働している。
当局は2017年から集中的にウイグル族を収容し再教育を進め『卒業』した人もいる。しかし十分に愛国的でなかったり、再教育で効果が見られなかったりした人たちについて、当局は自分たちが合法的と見なす司法手続きで収監しているとみられる」
オーストラリア戦略政策研究所 ネイサン・ルーザー研究員
中国当局は、7年連続で、新疆ウイグル自治区では「テロ」は起きておらず治安が改善されていると強調している。

その一方でルーザー研究員は今なお「収容施設」での人権侵害は続いていると指摘する。
ルーザー研究員
「中国当局は、今は新疆ウイグル自治区の治安の問題が差し迫ったものではないと大きな自信を持っていて、取り締まりについては以前よりはある程度の緩和が見られる。
しかし、自治区の各地には数万人に影響を与える施設が未だに存在していて、自治区では深刻な人権侵害と大規模な収監が起きていると認識している」

「弟を調べている」 突然途絶えた連絡

実際、ウイグル族の人たちの間では今も「家族と連絡が取れない」と訴える人たちは後を絶たない。

そのうちの1人、現在アメリカに暮らすサヒバ・サイラモグリさん(31歳)は、去年7月、突然、新疆ウイグル自治区に住む弟の連絡が途絶えたと話す。
サヒバ・サイラモグリさん
それまで毎日のように弟と連絡をとっていたサイラモグリさんは、心配になって当時住んでいたトルコにある中国大使館に問い合わせたところ、大使館からの答えは「弟を調べている」というものだったという。
サイラモグリさんの弟
その後、家族などを通して弟が拘束されたことを知った。弟は「公共の秩序を乱した罪」に問われ、ことし5月、裁判で懲役5年4か月の判決を言い渡されたという。

サイラモグリさんが自ら旧ツイッターのXで弟の釈放を求めて投稿を始めたところ、中国の治安当局者から連絡があり「投稿を削除しないと両親の拘束や弟の罪を重くする」と脅されたという。
サイラモグリさん
「弟は不当に拘束されたと思っています。中国政府は弟を釈放すべきだし、私たち家族への嫌がらせもやめるべきです。
中国では財産や命さえも中国共産党や国の手の中にあり、好き勝手に奪われます。自治区の状況はいっそう悪くなっていると思います。
海外にいるウイグル族には、家族がどこにいるのか、生きているかさえもわからない人が今も大勢います。私自身も故郷に戻ることすらできていません」
ウイグル族の収監については新たな分析もある。アメリカの首都ワシントンに拠点を持つ人権団体「ウイグル人権プロジェクト」は、今年4月に新疆ウイグル自治区の地元政府の統計などを分析した結果を発表した。

それによると中国の全人口の1%にすぎない自治区のウイグル族など少数民族が、全国の収監人数の3分の1を占めているという。

専門家「習近平指導部の締めつけは続く」

専門家は、中国の少数民族政策は国内の安定に関わる重要問題で、習近平指導部は今後も自治区での締めつけを続けると指摘しています。
専門家「習近平指導部の締めつけは続く」
東京大学法学部 平野聡 教授
平野教授
「中国は世界でもっとも影響力のある国になりたいと考えていて、それを実現するためには、まず国内が一致団結するということが極めて重要だと思っている。
中国共産党政権はモノの生産と発展で全てを考える政権で、経済発展すれば、おのずと少数民族と漢族、それに中国政府との関係はよくなるはずだと思ってきた。
しかし、少数民族の文化や宗教はどうでもいいという共産党流の考え方を受け入れられない人々は、国内にも当然多くいて、今、締めつけを緩めれば、たまっている不満が一気に噴出するのは明らかだ。だから、少なくとも習近平氏が今のトップの座にいるかぎりは中国が変わるということはありえないだろう」
(7月2日ニュースウオッチ9 / 7月4日国際報道2024で放送)
上海支局長
道下 航
2009年入局
仙台局、国際部、ハノイ支局を経て2022年8月から現所属
上海支局カメラマン
平井 克昌
2005年入局 ニュースカメラマンとして国内外のニュースや番組の取材・撮影を担当
映像センター、神戸放送局などを経て、現在は上海支局で中国国内のニュースを取材
中国総局チーフ・プロデューサー
花井 利彦
2002年入局 沖縄局 報道局 広島局などを経て現所属

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