「あの人、スピってるよね」――。スピリチュアルなものや考え方にはまっている人を見ると、ついそんな風に思うことはありませんか? しかし、スピリチュアリティーを研究する橋迫瑞穂さんは、なぜ「その人」を批判するのか、と問いかけています。どういうことなのでしょうか。
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リレーおぴにおん 「痛みはどこから」
はしさこ・みずほ
1979年生まれ。スピリチュアリティーの他、占いやサブカルチャーなども研究。著書に「妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ」。
――近著「妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ」では、スピリチュアルなものに引き寄せられる母親たちの思いが考察されています。なぜあえて「妊娠・出産」に関する研究を始めたのでしょうか。
「妊娠や出産にまつわるスピリチュアルなものは、東日本大震災を機に顕在化したという印象がありました。当時、私はスーパーでバイトをしていたのですが、赤ちゃんを抱えた母親たちが行列をつくったんです。求めていたのは、お米や水です。放射能への不安から、産地を選んだり、水道水ではないものを手に入れたりしようと必死でした」
「その頃、スピリチュアルなイベントでも、『放射能から我が子を守れるのは母の力だ』という言葉が聞かれるようになりました。福島から遠い実家の宮崎でも、スピリチュアルを押し出すカフェに著名人がやってきて、同じように語っていた。そのお店で放射能対策として推奨されていたのは切り干し大根やみそなどで、科学的とは言いがたいものでしょう。ネットでは、笑いものにされていました。でも、その必死さの根底にあるものを、私は笑えませんでした。なぜ母親や妊娠・出産とスピリチュアルがつながるのかを調べなければいけないと思いました」
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――妊娠・出産に関して、具体的にどのようなスピリチュアルなものがあるのでしょうか。
「さまざまにありますが、私は子宮を神聖なものと考える『子宮系』、子どもはおなかの中にいた時の記憶があると考える『胎内記憶』、医療になるべく頼らない『自然なお産』の三つに注目しました。スピリチュアリティーをコンテンツや物として販売・消費する『スピリチュアル市場』で、この三つは書籍なども出版され、幅広い支持を得ているものだと考えたからです」
「これらに共通しているのは、母親になることを全面的に肯定していることです。母親になることは神聖であり、貴いことであり、すばらしいことなんだ、と。例えば、『自然なお産』は、極力医療を排して、女性の力で出産しようという考え方です。肉体的な苦痛を医療で取り除こうとする無痛分娩(ぶんべん)とは反対に、痛みを伴う選択です。そこには『痛いからこそ生命を生み出すことができる』と、はっぱをかけるような意識があります。妊娠中のセルフポートレートに見られる『自分の身体は生命を生み出すためにある』という姿勢とも通じる、かなり普遍的な意識でしょう。ただ私には、女性たちが社会を『前向きに諦めている』ように見えます」
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――どういうことでしょうか。
社会を「前向きに諦めた」女性たちが、なぜスピリチュアルにひかれていくのか。橋迫瑞穂さんは、母親になることを肯定できない社会状況や、母親たちを追い詰める人たちの存在を問題視します。スピリチュアルコンテンツの中に「父親」が不在であることにも言及しています。
「出産は幸せだ」と言い聞かせる必要
「今の社会は、子どもを産ん…