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Apple、もう一つの中国リスク ネット検閲協力に批判

2020/2/27 11:35
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

米アップルが新型コロナウイルスとは別の新たな中国リスクに直面している。26日に開いた株主総会では、中国政府のインターネット検閲への協力実態を開示するよう求める株主提案が出された。提案は否決されたものの、賛成票は40%を超えた。同社は日ごろ、プライバシーを基本的人権と位置づけているが、中国で事業を続けるための「二重基準」に、投資家らは懸念を強めている。

「きょうの投票結果は、アップルの投資家がティム・クック最高経営責任者(CEO)に耳を傾けてほしいと望むメッセージだ」――。中国政府によるネット検閲への協力実態の開示を求める株主提案を出していた米消費者団体サム・オブ・アスは株主総会の終了後、実質的な勝利宣言ともとれるコメントを出した。

中国は「金盾工程」と呼ぶネット検閲システムを使い、当局が不適切とみなしたウェブサイトへの接続を遮断している。こうしたネット検閲をかいくぐって国外のウェブサイトに接続する「VPNアプリ」と呼ぶソフトウエアもあるが、アップルはこれまで中国のアプリ配信サービスからほぼすべてのVPNアプリを削除してきた。

サム・オブ・アスによると、アップルは18年に中国で500を超えるアプリを法律違反などの理由で削除しているが、詳細は明らかにしていない。同団体はこうした行為が中国やチベット、新疆ウイグル自治区の人々の表現の自由や情報にアクセスする権利を侵害するものだと主張しており、アップルの取締役会に実態を株主に毎年報告するよう求めていた。

アップル経営陣は招集通知の中で「事業を展開する国では現地の法律を順守し、顧客と従業員の安全を守る義務がある」として、株主提案に反対票を投じるよう株主らに呼びかけていた。ただ、議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)などは株主提案への賛成を推奨しており、株主らの動向に注目が集まっていた。

アップルでは過去にも人権問題に関連する実態報告を求める株主提案が出されたことはあるが、賛成票は1割に満たなかった。今回の株主提案が4割の賛成を得たのは、世界の投資家の間でガバナンス(企業統治)などを重視する「ESG投資」の流れが広がっていることを反映した結果とみられる。

ネット上の情報統制を強める中国政府と向き合う米国企業はアップルばかりではない。グーグルは中国政府への加担に反対する従業員らの声を受け、中国の検閲システムに対応する検索エンジンの開発を18年に打ち切ったとされる。ツイッターは19年、香港での反政府デモに関連して中国政府の関与が疑われる不正アカウントのツイート内容の公表に踏み切った。

ただ置かれた環境は全く異なる。両社とも中国でほとんど事業を展開していないのに対し、アップルはiPhoneのサプライチェーンの大部分を中国に依存。台湾や香港を含む中華圏の売上高は全体の15%に達する。

世界のネット大手における表現の自由への取り組みなどを評価する団体「ランキング・デジタル・ライツ(RDR)」がまとめた19年の報告書で、アップルはマイクロソフトやグーグル、フェイスブックなどを下回り米国勢で最下位だった。ネット産業を中心に米中の「デカップリング(分断)」が進むなか、ネット検閲の問題は米中の両市場を股に掛けて事業を展開するアップルに特有のリスクとなっている。株主からは今後も対応を求める圧力が強まる見通し。クックCEOらは難しいかじ取りを迫られている。

(シリコンバレー=白石武志)


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