独身人口2億3900万人、若者の結婚離れが止まらない【洞察☆中国】

2023年10月06日11時00分

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日中福祉プランニング代表・王青

 日本の「七夕」というと、陽暦の7月7日となっているが、中国の伝統的な祭日は大体旧暦のため、今年は8月22日だった。中国版の「バレンタインデー」という位置付けで、恋人同士や夫婦の間で互いにプレゼントを贈ったり、普段より豪華な外食をしたり、ホテルに泊まったりすることが多い。「七夕は中国のギフト経済にとって極めて重要だ」と、中国のシンクタンク「Ai-MediaConsulting」がマスコミの取材にこう述べた。実際、「七夕特需」は今年も活況で、レストランの予約が取れず、また、ホテルや花の値段が高騰したと報じられた。

 そして、中国各地で行政や企業・団体の主催で、独身の人が「出会い」のために催されたイベントの多彩ぶりと数の多さが注目された。イベントは自社社員だけではなく、他の会社や団体と連携で行うことが多かった。「七夕の縁結びの集い」といって、独身の男女にスポーツ競技や料理教室などの「共同作業」に参加してもらい、「出会い」を狙う。要は「合コン」だ。そして、イベントの進行模様をライブ中継して発信した。

 近年、各地の政府や国有企業などが、若者の「恋愛・結婚」を促す動きが活発となっている。背景には若者が消極的になっていることがある。「中国統計年鑑(2022)」のデータによると、2021年までに中国の15歳以上の独身者は約2億3900万人に達している。さらに、若者の結婚・出産年齢は概して遅れている。「中国人口国勢調査2020」の統計では、20年の中国の初婚平均年齢は28.67歳で、10年の24.89歳と比べると、わずか10年間で3.78歳も遅くなったという結果だった。

 また、今年6月の中国民政部の発表によると、22年の婚姻件数は前年より約80万組少ない683万3000組で、統計公表が始まった1986年以降で最少となった。ピークだった2013年の1346万9000組からほぼ半減した。

 若者の結婚と恋愛を妨げる理由は一体何だろうか。「一人っ子政策」の影響で若者が減少していることは容易に想像できる。その他の原因は、さまざまあるようだ。「中国青年報」の社会調査センターが7月に約2000人の独身の若者に対して調査を実施したところ、下記三つの理由が挙げられた。①「社会的な輪が固定化している」(50.7%)②「家に閉じこもりがちで社会的な活動をしていない」(47.5%)③「自分をうまく表現できない」(46.0%)。ほかに、「休みの時間をほとんどネットに占領されている」「異性との付き合い方が分からない」「出会うルートがない」などなど。

 学歴重視の中国では、幼少期から厳しい受験戦争に向かって勉強一筋で過ごし、中高生時代も恋愛が厳しく禁止されていた若者たち。恋愛に苦手意識を持ったままで大人になったのがほとんどだ。中国の若者は在学中に「勉強!勉強!恋愛は禁止!」と、親や学校の先生にうるさく言われてきた。ところが、成人したら、今度は「早く結婚して子どもを産んで」と親だけではなく、国にまで促されている。

 近年、中国各地の大学で、「恋愛心理学」や「恋愛術」のような教養系の授業が開設され、授業の人気も高いという。それは、これまで厳しく抑制されてきた反動で、恋愛をしたい気持ちが強くなっても、どう始めればいいのか、知識や経験が乏しい学生が少なくないのが背景となっている。筆者の知人の女子大生は「早くしないと、すぐ定員がいっぱいになる」「女性の先生が自らの体験を踏まえて講義をすることも多いので楽しい」と語った。

 現在、急速な少子高齢化に直面している中国政府は、さまざまな解決策を模索している。しかし、コロナ以降も経済の回復への期待が外れ、若者の失業率が上昇している。「一生独身のままが、負担もなく一番楽だ」と思う若者が増えている。

 「七夕見合い会」や「恋愛術」の授業が奏功し「結婚」に繋がるのか、あるいは逆効果となるのか、政府として対応が迫られる。(8月28日記)

 (時事通信社「金融財政ビジネス」より)

 【筆者紹介】

 王 青(おう・せい) 日中福祉プランニング代表。中国・上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業。アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞社、ATCの3者で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館 ATCエイジレスセンター」に所属し、 広く福祉に関わる。

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 (2023年9月14日掲載)

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