イベルメクチンは新型コロナに有効か 北里大の論文、ようやく出たが

酒井健司

 北里大学が行っていた新型コロナウイルス感染症に対するイベルメクチンの臨床試験の論文が2023年5月に発表されました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37283627/別ウインドウで開きます

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 いまから2年前の『医心電信』で「イベルメクチンの新型コロナへの効果 現時点では不確実」というコラムを書き、この臨床試験にも言及しました。イベルメクチンは、本来は寄生虫に対する薬なのですが、新型コロナに効く可能性が指摘されていました。「1回飲むだけでよく効く」などと言って積極的にイベルメクチンを処方していた医師もいたぐらいです。

 北里大学の研究では、新型コロナと診断された酸素化不良のない患者さんを、イベルメクチン投与群とプラセボ(偽薬)群にランダムに分け、ウイルスが陰性化するまでの時間を比べました。患者さんも医師も投与された薬が実薬なのかプラセボなのかわからないようにした、二重盲検ランダム化比較試験という質の高いデザインの研究です。

 結果は、残念ながら、新型コロナに対するイベルメクチンの効果を示すことはできませんでした。論文では有意差の有無だけではなく、実薬群と対照群においてウイルスが陰性化した患者さんの割合を示す曲線がグラフとして載っていますが、「もう少しで差が出たかも」というものではなく、ほぼ差がないと言っていいグラフでした。

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 この研究は、比較的小人数を対象とした予備的な研究である第二相試験に相当し、研究対象人数も二百人を超える程度です。薬の効果を評価するには、死亡や重症化や入院といった患者さんにとって重要な指標を使うのが望ましいのですが、そのためには多くの患者さんを対象にしなければならず、お金も時間もかかります。そこで、まずは差が出やすい検査値を評価しました。

 日本では、医薬品を手がける興和により、臨床症状が改善するまでの時間を評価した第三相臨床試験も行われました。通常の新薬は第二相試験で効果を確認できたものだけが第三相試験に進めますが、既存薬であり緊急性もあったため、北里大学の研究と並行して行われました。対象者は1000人あまりです。こちらも残念ながら有意差は認められませんでした。海外で行われた大規模なランダム化比較試験でもおおむねイベルメクチンの治療効果を示すことはできませんでした。国際的なコンセンサスでは、新型コロナの治療薬としてのイベルメクチンは終わった話です。

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 症例報告や観察研究や初期の臨床試験で有望であった薬が、あらためて検証すると効果が確認できないことは、ままあることです。実際には効果がない薬を誤って効果ありと誤認する要因はたくさんあり、だからこそ二重盲検やランダム化といったバイアスを排除した臨床試験を行うのです。

 目の前の患者さんにどのような治療を行うか、臨床試験の結果を悠長に待っていられないこともあります。不確実なエビデンスしかなくても臨床医は決断しなければなりません。結果的に効果が確認できなかったのは結果論です。有効な抗ウイルス薬がなかった流行初期にイベルメクチンを処方するのは医師の裁量権の範囲内で、副作用がないなどと不正確な説明をしたり、翌日に効くなどと過度に効果を喧伝したりしない限り問題はありません。ただ、証拠が出そろった現在は、新型コロナに対してイベルメクチンを処方すべきではありません。(酒井健司)

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連載内科医・酒井健司の医心電信

酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。

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