デ・ソウザの一家
トグバン・ダホの村の近くで。
土地に所有者の名前を表示しておくのが通例になっているらしく、いろんな立て札の中で、デ・ソウザ家の名前を発見。ごく小さな畑。ここでもまた、デ・スーザと発音されている。
19世紀初頭の西アフリカで最大のブラジル人奴隷商人フランシスコ・フェリックス・デ・ソウザのことは、ブルース・チャトウィンの『ウイダーの副王』(日本語訳では「ウイダの総督」)で初めて知った。ブラジルの北東部出身の(白人の)商人として西アフリカに一旗揚げにやってきた彼は、ダホメ王ゲゾのクーデターを援助して、王と兄弟の契りを交わし、特権的な地位を築く。子孫の代になって民族的には現地化していくが、ブラジル系の風俗をその後も維持したとされる。奴隷貿易が禁止されて零落していくが、今でもその子孫のデ・ソウザ家は古い名家としての地位を保っているらしい。王からもらったあだ名「シャシャ・デ・ソウザ」の呼び名は、肩書きとしてその後の代にも受け継がれて、今も存続している。
あらためて、この本が、僕の西アフリカへの重大な入口だったことに気づく。小さい本なのに、ぎっしり内容がつまっている。一九九〇年ごろ、読んだ当初にはわからなかったことが、ようやく今になっていろいろわかってきたところだ。
日本語訳は読んでないんだが、門内ユキエいわく、すごくわかりにくい、とか。訳した人は、ブラジルのことも、ベナンのことも、よく知らないまま訳したわけだろう。簡潔端正な名文家チャトウィン、残念。(その後、少し日本語訳を読んでみたら、そんなにひどいわけじゃないんだが、端正な名文ではたしかにない。)そのうち、僕が訳し直してあげたい。
チャトウィンは彼の作品の中で一番低俗な『ソングラインズ』が、そのわかりやすい主題ゆえに評価されてしまったせいで、他の本当にすばらしい本が見逃されている。『パタゴニアにて』『ウイダーの副王』『ウッツ』『黒の丘の上で』。本当にエネルギーが凝縮されたすばらしい文ばかりからなっている本だった。それにくらべると『ソングライズ』は、商業的に水で希釈したようなスロッピーな本だった。