ジャニー喜多川氏の性加害を報じた文春 勝訴に導いた喜田村洋一弁護士が今、事務所に求めること

2023年7月24日 06時00分
 ジャニーズ事務所前社長の故ジャニー喜多川氏(2019年に87歳で死去)の性加害問題は、元所属タレントの著作や週刊誌報道でたびたび取り上げられ、裁判で事実関係が認められた後も、長期にわたり続いていたとみられる。問題を報じた「週刊文春」発行元の文芸春秋の顧問として、喜多川氏側と法廷で争った喜田村洋一弁護士は、喜多川氏の行為を放置してきた事務所の責任を指摘する。(望月衣塑子)
ジャニーズの性被害問題について語る喜田村洋一弁護士

ジャニーズの性被害問題について語る喜田村洋一弁護士

 きたむら・よういち 1975年東京大法学部卒、77年弁護士登録。81年ミシガン大ロースクール卒、83年ニューヨーク州弁護士。公益社団法人「自由人権協会」代表理事。名誉毀損きそんなどメディアの訴訟に多く携わる。81年に米ロサンゼルスで起きた「ロス疑惑」(銃撃事件)の故三浦和義元社長の無罪判決を勝ち取ったほか、元日産自動車代表取締役グレゴリー・ケリー被告の弁護人を務めるなど著名事件とのかかわりも深い。

◆14週連続追及に「喜多川氏は耐えられなかったのでは」

 —1999年11月、性加害などを報じた週刊文春の記事は名誉毀損だとして喜多川氏側が発行元の文芸春秋を東京地裁に訴えた。
 88年に人気グループ「フォーリーブス」のリーダーだった北公次氏が、97年には元ジャニーズJr.の豊川じょう氏がそれぞれ著作で性被害を告発したが、この時2人は提訴されなかった。週刊文春は99年10月から14週連続で書き続けたが、2週目は「『芸能界のモンスター』追及第2弾 ジャニーズの少年たちが耐える『おぞましい環境』元メンバーが告発」、3週目は「『悪魔の館』合宿所で強いられる”行為”」との見出しが立った。こうした追及に喜多川氏が耐えきれなかったのではないか。

◆「うその証言とは言い難い」 喜多川氏の言葉に「勝った」

 —訴訟では、記事の真実性が主要な争点だった。
 文春は記者4人が、事務所に所属していた40〜50人に会い、計12人から短くても5〜6時間、多くは12〜14時間かけて取材した。涙を浮かべ、せきを切ったように一気に話す少年や、いい年をした大人でも思い出すと突然泣き出す人もいた。これらのインタビューを書き起こして証拠提出した。うち2人は法廷で証言してくれた。
 地裁で喜多川氏は「知らない」「やっていない」などと答えていた。だが少年の1人が「ジャニーさんには長生きしてほしい」と話したこともあってか、「彼たちがうその証言をしたとは僕は明確には言い難い」と事実を否定しない言葉が出てきた。「勝った」と思った。
 —地裁では文春側の主張が認められなかったが、東京高裁で逆転した。
喜田村洋一弁護士

喜田村洋一弁護士

 高裁判決は「記事の主要部分は真実性の要件を満たしている」と認め、最高裁が喜多川氏らの上告を棄却した2004年、確定した。しかし主要な報道機関が社会問題として取り上げることはなかった。そして今年3月、英BBC放送が喜多川氏の性加害を報じた。最高裁の判断が出た後もずっと続いていたのか、と驚いた。判決が確定した時点で、喜多川氏の自宅と少年たちの泊まる場所を分けるなど対策すべきなのに、何もしていないとは。

◆「事務所は今すぐ謝罪、救済を」 「報道にも責任」

 —証言は相次いでいる。
 4月に日本外国特派員協会で元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が記者会見して空気が変わったと思う。もっとも、5月に事務所の藤島ジュリー景子社長が登場した動画は、性加害行為を認めたわけではなく何を謝罪しているのかわからなかった。事務所は、今すぐ被害者に謝罪し、被害を賠償するための救済ファンドを設けるべきだ。
 報道機関にも責任の一端がある。「週刊誌レベルの話」「しょせん芸能界のこと」という意識から取り上げなかったのでは。また、文春が報じた当時は、性加害が少年への人権侵害だとの認識もなかった。芸能界に大きな力を持つ事務所から不利益を受ける恐れも影響しただろう。だが、強者には従うというだけなら報道機関はいらない。

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